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 家に戻ると、珍しく父親がそこにいた。どうやら、「明日から京都へ出張に向かってほしいから、今日はもうゆっくり休んでくれ」と言われたらしい。

 そして、私に向かって話す。

「梓、例の幽霊屋敷についてだが――少し、話しておきたいことがある」

「話しおきたいこと? 一体、何?」

「僕、幽霊屋敷について思い出したことがあるんだ。まだ、あの屋敷が廃墟じゃなかった頃――『何らかの実験がそこで行われていたらしい』という噂を聞いたんだ。それで、興味本位でその屋敷の中へと入ったら……見たんだ」

「見たって、何を?」

「多分、幽霊じゃなかったと思う。でも、『この世にいてはいけないモノ』だったことは確かだ」

「なるほど。――分かったわ。お父さんの話、覚えておくよ」

「それは結構。僕も、梓の力になりたいからね」

 そんな話をしていると、母親が声をかけてきた。

「――あなた、梓、ご飯が出来たわよ」

 どうやら、夕飯の支度ができたらしい。――母親には、「かつて幽霊屋敷で行われていた実験のこと」は内緒にしておくか。


 *


 夕飯を食べ終わって、私は浴室でボーッとしていた。ちなみに、夕飯はハンバーグだった。悪くない。

 浴室という場所は、ふとした時に考えが浮かぶ場所でもある。今なら、幽霊屋敷のことだろうか。

 まず、前提として神崎友美恵という生徒がいて、彼女が「降霊術」を用いて屋敷の幽霊をろした。その様子はショート動画サイトで配信していて、幽霊の姿もバッチリ映っていた。しかし、その日を境に――彼女は姿を消してしまった。そういうところか。

 そもそも、彼女は本当に忽然こつぜんと姿を消したのだろうか? 私にはそれが分からなかった。――これ以上考え事をしていたら、湯冷めしてしまう。

 私は、とっとと湯船から上がって、体と髪を拭いて、部屋着に着替えた。


 *


 その日は幽霊騒ぎどころじゃない量の宿題が出ていた。――これ、1日で終わらせられる量じゃないと思う。

 仕方ないなと思いつつ、私はスマホでラジオを垂れ流しながら宿題をすることにした。

 相変わらず、ラジオからは落合健太郎さんの声がする。勉強のお供にはピッタリだ。とりあえず、急いで片付けないといけない宿題は――明日授業がある英語だろうか。やってしまおう。

 そう思った私は、英語の宿題から順番に片付けていった。――骨が折れる。


 *


 あれから、「明日提出の宿題」は一通り終わらせたけど……終わる頃にはオチケンさんの番組はとっくに終わっていて、土井コマキさんの声がしていた。つまり、日付変更線を越えていた状態だった。これはマズいな。

 私はスマホのラジオを切って、電気も消して、ベッドの中へと入った。――どんな夢を見たかなんて、覚えているはずがない。

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