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土曜日。フードコートでたこ焼きを買って、私は2人を待っていた。当たり前だけど、私服だと友人を認知することは難しい。ちなみに、私はカーキ色のジャケットを着ている。
「ヤッホー、梓ちゃん」
真っ先に来たのは瀬川杏奈だった。――茶色いワンピースが、よく似合っている。
「梓ちゃんはたこ焼きなのね。――私は、ハンバーガーにしようかしら?」
そう言って、瀬川杏奈もハンバーガーセットを買ってきた。
フードコートでたむろしながら、私と瀬川杏奈は菅原慶次を待つ。
「それにしても、慶ちゃん……遅いわね」
「うーん、ビビってるんじゃないの?」
「いくらなんでも、それはないんじゃないの? じゃないと、幽霊屋敷の探索に対して乗り気にならないはずだし」
「それはそうだけど……」
そんな話をしていると、ダサいトレーナーを来た兄ちゃんがこっちに向かってきた。――菅原慶次だった。
「おう、遅くなってすまねぇ。オレにも色々と事情があるんだ」
「事情? 詳しく説明してみなさいよ」
「それは出来ねぇ」
「そっか。――まあ、良いけどさ」
そして、瀬川杏奈は改めて話を仕切り直した。
「とにかく、これで全員揃ったわね。――向かうわよ? 幽霊屋敷」
そう言って、私はデパートの外に出て――自転車にまたがった。
*
デパートから高校までは、そんなに時間がかかる訳ではない。大体10分ぐらいだろうか。まあ、行き先は高校じゃなくて――幽霊屋敷なのだけれど。
幽霊屋敷に着いたところで、瀬川杏奈は話す。
「――それじゃあ、中に入るわよ」
「そうね。――先導、任せたから」
「オレもお前たちに付いていくからな。はぐれないでくれよな」
「それぐらい、分かってるわよ。――行くわよ?」
私たちは、幽霊屋敷の中に入っていった。
相変わらず、中はガラスの破片が散乱している。私が裸足なら、生きて帰れないだろう。
やがて、廃墟を探索しているうちに――例の儀式の場所へとたどり着いた。
「なるほど。――神崎友美恵っていうヤツは、ここで降霊術を行っていた訳か。いかにも臭うぜ」
「臭うって、何がよ」
「うーん、分からねぇ。ただ、オレの直感がそう告げているんだ」
「そっか……」
瀬川杏奈と菅原慶次がそういうくだらない話をしている時だった。私は――「見てはいけないモノ」を目の当たりにした。
「あの、これ……『白い服の幽霊』じゃないの?」
私は指さしてそう言うけど、2人は信じてくれない。
「いくらなんでも、それは出来すぎよ?」
「オレもそう思うぜ」
でも、私が見ていたモノ――それは、言うまでもなく「白い服の幽霊」そのものだった。
「だから、見間違えよ? 梓ちゃん、疲れてるんじゃないの?」
そう言いながら、2人は――後ろを振り向いた。そして、絶句した。
「ま、マジかよ……」
「う、嘘でしょ……」
「だから、言ったでしょ」
私たちは、確かに「白い服の幽霊」をこの目で見た。幽霊は――不気味な笑みを浮かべている。
「――遊ソビマショ」
幽霊が――喋っている。
「こ、これって……祟られるんじゃね?」
「そうね、祟られる可能性が高いわ。ほら、梓ちゃん、慶ちゃん――逃げるわよ?」
「分かったわ」
「お、おう……」
そう言って、私はその場から全速力で逃げ出した。どうせ、逃げたところで祟られるとは限らないんだし。
*
「――怖かったわね……」
「怖かったぜ……」
瀬川杏奈と菅原慶次は、ビビっている。――やっぱり、アレは「白い服の幽霊」で間違いないのか。
私は話す。
「一応、2人が幽霊に気付いていないうちにスマホで写真を撮ったけど……あれ?」
私は、スマホの画面で幽霊を撮影したモノを見せようとしたのだけれど――ない。幽霊が、写っていない。
「おかしいな……確かに、私はスマホで幽霊を撮影したんだけどな。その証拠に、神崎友美恵もライブ配信で幽霊の撮影に成功してるし」
「そうね。――ここは、梓ちゃんを信じるわ」
「オレも信じるぜ」
私たちがこの目で見たモノ。それは――間違いなく、幽霊だったのだろう。それも、神崎友美恵が「降霊術」で呼び出した幽霊で間違いない。いや、もしかしたら……彼女は、あの幽霊に取り憑かれてしまったのだろうか? 私は頭を抱えつつ、幽霊のことを考えていった。
*
デパートのフードコートに戻ったところで、私たちは改めて「今置かれている状況」を整理した。
あの時、私たちは間違いなく「白い服の幽霊」を目の当たりにして、命からがら逃げてきた。私は私でスマホに幽霊の写真を撮ったつもりだったのに、画面にはその姿がなかった。
「――神崎友美恵の件は改めて解決するとしても、問題はあの幽霊よね……」
瀬川杏奈がそう話すので、私はなんとなく彼女にかけられる言葉を考えて、話した。
「確かに。――最悪の場合、
「それは考えすぎよ。この幽霊騒ぎは――出来るだけ、私たち3人で解決していかないと」
「おう、そうだな。オレもお前たちの意見に賛成だぜ」
「そうね。――とりあえず、今日はもう帰りましょ」
瀬川杏奈がそう言ったところで、私たちは――散り散りになった。
*
「ただいまー」
「おかえり。――最近、梓が友達と遊ぶことが多いから嬉しいよ」
母親から見ると、私はそういうふうに見えているのか。私は話す。
「そうなの? ――お母さんがそう言うんだったら、そうなんでしょうね」
「梓、中学校の時にいじめられてから他人を避ける傾向にあったから……最近の変わりようを見て、少しうれしいって思っただけよ」
「そう。――勝手に思ってて」
そう言って、私は自分の部屋へと入っていった。そして、何事もなかったかのように――高校から出ていた宿題に手を付けた。
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