6人の騎士と姫
湊香あおと
1人目の独白
俺の中での姫との1番の思い出は選べない。。。
いや、今現在しかないだろう。
もうこの状況以上に死にそうな場面はあって欲しくない。
今俺が何をしているか気になるだろう。
簡単だ、逃げている。
絶賛逃亡中の俺だが、逃げられる気がしない。
もう無理だって思っても死に物狂いで足を動かし続けてる。
ただ、ただ一人俺の目の前を笑いながら颯爽と走ってる奴がいるから。
今日も今日とて日が沈み、人々が寝静まったこの瞬間から俺たちの時間は始まる。
決して、悪党になりたくてなったわけではない。
元々は貴族のお転婆姫と名を馳せた俺らのボスとそんな姫を守り、部屋に監禁させることを目的とした俺たち6人の騎士。
地主である、姫のお父さんが亡くなられて、他の奴に土地を取られたため、没落したこととなっている。
まあ、詳しいことはいつか話そう。
てか、他のやつが勝手に話すだろう。
そんな俺たちがなんでいまだに姫についているのかというと、姫は一言で言えばやばい奴だ。
急に恐竜狩りと称して魔の森に一人で行き、美味とされている竜を狩ってきたり、使えないスライムをペットとして持って帰ってきたり、妖精と仲良くなったからと言って1週間森の中心部にある山の穴に篭った時は流石に肝が冷えた。
こんなおてんばの世話はとても大変だ。
でも、そんな姫のことが俺たち6人は大好きだ。
元々、盗賊に近い俺たちをこの地主であるお父さんは罪を償うチャンスと仕事を与えてくださった。
詳しい話はきっと他のやつがするだろう。
まあ、俺たち以前に来た奴らは真っ当に今まで暮らしてきたもの達ばかりだ。
姫のお転婆さに耐えられず、仕事を投げ出してしまっていたが、実際過酷だ。
まあ、姫のあの元気についていける人は少ない。いや、俺たちも結構辛いからいないのかもしれない。
姫は自分が楽しいこと、みんなが笑顔になることをするために戦う。
一見すれば姫のお転婆に見える行動全てに裏がある。
けど、みんなそれを知らない。
いやみんな知らないふりをする。だから、実際はみんな気づいてる。けど、姫はみんなからの評価を気にしないから気付いてない。
今日もなんだかよくわからない罪で罰を下したり、よくわかんないほど税金を取る貴族の家から捕まっている人間を逃したり、金を盗んできた。
タイルの壁に「6人の騎士と姫」と記入して、そして家に火を放つ。これが俺たちの来た証。
もちろん、誰もいないことを確認した家にだが。
この家に放って立ち上がる火と煙が俺たちを支えてくれる。
さて、お金をばら撒きながら町中を駆け巡る。
今回の失敗といえば、俺と姫の組み合わせのところに瞬足の男が来たこと。
まあ、俺は逃げ足だけはしっかりしているけど、姫はそれ以上だ。
なんで走りながらあんなに笑っていられるのか、本当にわからない。
いや、俺より早く逃げ回るのはやめてほしい。
まあ、護衛対象に前を走られるのは仕事は楽になるけど。
少し腹がたつ、あの弓や銃達はなんなんだ。
何かを隠すためのものか?
今は姫に集中だ。
でも、もうすぐ森だ。
森に入れば俺たちは安全になる。
なぜなら、この森は俺たちの味方だから。
一瞬だ。たったコンマ数秒、気を抜いた瞬間だ。
気づいた時には姫に矢が刺さっていた。
姫は一瞬速度を落としたが、今度は真剣な表情で森に全力疾走した。
怪我した人間が出していいスピードじゃない。
流石の俺でも追いつかなかった。
姫を追いかけるため、俺もスピードを上げた。
見失わないように、必死にスピードを上げるしかない。。
足が痛い。
姫のスピードにはどう頑張っても追いつかない。
ただ、いつもより動かした足に疲労だけ溜まった。
なのに、姫が見つからない。
重症じゃなきゃいい。
刺さった場所は急所ではないはず。
でも、毒が塗ってあっては意味がない。
きっとあれは、最近開発されたと噂のスナイパーというものだろう。
あれはまだ、毒が濡れないものだと聞いている。
姫がいないことは絶対にあってはならない。
他の5人からも釘を刺されていたのに。
隙を見せれば狙われるってわかっていたのに。。。
月明かりしかないこの森の中で姫を見つけることは難しい。
待ち合わせポイントにはまだ誰もいない。
姫がいた痕跡もない。
姫は。
姫は、どこだ。
姫。
頭の中が姫でいっぱいになる。。。
後悔が波にように押し寄せてくる。
でも、探さなければならない。
だって、俺たち6人の大切な姫だから。
ようやく、血の痕跡を見つけた。
転々としたものだった血痕。
それがどんどん増えていく。
はっきりした血溜まりになっていく。
でも、これは少し出血量が多すぎる。
もちろん、向かった場所がわかるのはありがたいが、姫の状態が気になる。
今にもこぼれ落ちそうな涙で前もしっかり見れないけど、ただ姫のことが心配だった。
姫は、湖にいた。
途中で鳥が一羽、姫のところまで導いてくれた。
水の妖精が集まり姫を治療していた。
森の動物たちがまるで姫を守る護衛のように立っている。
まるで誰も寄せ付けない、要塞のように囲っている。
それでも、妖精達の輝きがもれ見える。
うっすら、姫も見えなくはない。
けど、輝きと動物達の体でよくわからない。
でもきっと、俺には待つことしかできない。
数を数えてなきゃ少しの時間しか経っていないことに気づけないぐらいに俺は動揺してた。
時間が経つと妖精たちは湖の中に戻っていった。
前に見かけた妖精達より、だいぶ輝きを失っていた。
きっと、重症だったのだろう。
俺のミスで姫が。
申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
その場に足が縫い付けられたように動けなくなる俺に気付いている動物達。
でも、すぐに姫への道を開けてくれた。
足がおぼつかないながらに懸命に姫の元へ走る。
「姫、ごめん。 俺のせいだ。
気づいてたのに、姫が狙われてると思ってなくて。
本当にごめん。俺参謀のはずなのに。」
姫にとってはただの言い訳にしか聞こえない言葉だ。
でも、今の俺にかけられる言葉はこれぐらいしかない。
「だいじょうぶ。
わたし、、、 生きてるよ」
その一言を言って姫は眠りについた。
妖精や動物たちに感謝を伝えた。いっぱい他にも喋りたいことあったけど、動物達に先を急ぐようにせかされた。だから、貢物を姫と一緒にまたここに来ることを約束して、俺はみんなと合流するために姫を抱えて走り出した。
お姫様抱っこをしていたが、おんぶと嘘をつくのはお約束。
こんなどうでも良いことに今気を遣ってしまう自分が嫌いだ。
いつでもそうだ。最後の最後にミスをするのはいつも俺でそして失う。
でも、今日は違う。
失わなかった。
消えなかった。
まだ、姫は生きてる。
お姫様抱っこで感じる、姫のいつも弱ったぬくもり。
姫の呼吸。
姫の心音。
これら全ての事実が俺にとって、いちばんの幸せ。
他の五人との待ち合わせ場所に行ったら、案の定みんな待ってた。
みんなの視線は姫に注がれる。
そうだ、姫の服も俺の服も血だらけ。
元から話す予定だったが、バレると少々めんどくさい。
姫は軽々奪われた。
みんなの視線が痛い。
全てを説明し、怒られた俺だ。
今度はない。
そんな気持ちで今も姫といる。
俺が姫の隣に立てなくなるその日まで、姫に忠誠を誓う。
これが俺の独白。
きっと姫には届かない、俺の気持ち。
だから、今いつも通り、息を吐くように伝えた言葉を君に。
大好きだよ、姫。
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