07.第一王女とその護衛騎士
その後、アレクシアの心身は順調に快復していった。身体的にはすっかり健康を取り戻して年頃の娘らしい可憐な容姿になりつつあるし、髪も侍女たちに丁寧にケアされて本来の輝きを取り戻している。まあ身体つきはそれでも発育不良の面が否めず、まだまだ華奢に過ぎるため、養父母である王と王妃や義兄妹である第二王子や第二王女から、もっとしっかり食べるよう常に言われている。
なお元の婚約者である第一王子に対しては、アレクシアへの接近禁止令が下されているため変に絡まれることはない。第一王子本人は日増しに容姿が改善してゆくアレクシアのことを遠くから惜しそうに眺めているらしいが、彼女に付けられた男女の護衛たちの仕事は完璧で、
ちなみに、第二王子の生母である側妃は基本的にアレクシアと関わりを持とうとはしない。彼女に関心がないとか疎んじているとかではなく、王妃の養子になった彼女には必要最小限を除けば接触を控えるべきだと、王と王妃、それから議会との協議で決まったからである。
アレクシアの教育が進んで王族としての礼儀や教養がしっかりと身につけば正式に
「アレクシア様。本日は道を変えてこちらから参りましょう」
「えっ?あの、騎士さま?」
「私のことはルドルフと。近衛騎士であり現在は貴女様に仕える専属の護衛騎士でありますゆえ、どうぞ呼び捨てになさいませ」
「で、でも……」
「よいのです。貴女様は今や王族なのですから、御身を超える尊い身分のお方などこの国には数えるほどしかおりませぬ。その方々以外には、敬語も敬称も必要ないのです」
「あの、そうではなくて」
「では、いかがなされましたか」
「どうして騎士さまはわたしの手を取って口付けてらっしゃるのですか」
「……おっとこれは失礼、ついいつもの癖で。
いつもの癖でなどと言ってはいるものの、この護衛騎士ルドルフが求婚の仕草を見せているのは
実はこのルドルフという騎士、第一王子があの時アレクシアを医務局に連れて行くよう命じた、あの騎士である。
王族の護衛を務める近衛騎士の職務の一環として、彼はあの時も王宮
その際彼はまず、第一王子の婚約者とも思えぬほどやせ細った不健康な身体に心を痛め、次いで羽を抱いたかと錯覚するほど軽い身体に驚愕した。その時点で彼女を守らねばという強い思いに駆られ、彼女がその場を去りたくないと言うので第一王子の命に逆らってまでその場に残っていたのだ。
その後、直接関わったひとりとしてある程度の事情説明を受けた彼はアレクシア付きへの異動を希望し、そして現在は彼女の専属護衛のひとりとなっている。
ちなみに、アレクシアの専属護衛の中で男性は
アレクシアは王家の養子となったとはいえ実際に王位を継承する可能性はほとんど無いため、ゆくゆくは降嫁するか、臣籍降下して貴族当主となるはずである。だが実家の侯爵家はすでに無く、監禁状態だった彼女に人脈などもないため、そのままでは彼女の身と地位を利用しようとする輩に目をつけられないとも限らない。
だからこそのルドルフである。王家の信頼も篤い近衛騎士であり、侯爵家の三男でもある彼ならばアレクシアの婿に相応しい……というのが彼を抜擢した王妃の考えであった。と同時に、やはり臣籍降下するであろう第一王子が将来的にアレクシアに手を出してくることを阻止するためにも、彼の性格をもよく知るルドルフはまさに適任と言えた。
「あの……わたし、ひとりで歩けますから、降ろして」
「なりませんよアレクシア様。
「ええっ!?」
「ご心配なく。このルドルフが必ずや守り通してみせますとも。⸺それにしても、御身は相変わらず羽のようにお軽いですな!」
「言わないで下さい……っ!」
だというのに、いまいちこのふたりは甘い雰囲気になりそうにない。アレクシア自身が恋愛感情に疎いこともあるが、ルドルフも何かにつけて彼女と触れ合う割には性急に距離を詰めようとはしないからである。
「……ルドルフ卿も、もっと積極的になってもよかろうに」
「あら、アレクシアさまの御心を無視して勝手に進めるよりは好ましいと思いませんこと?」
「…………そういうものか」
そんなふたりを、護衛の女性騎士たちも侍女たちも、
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