ヴィランと雷神
ミドリ/緑虫@コミュ障騎士発売中
1 茶番劇
この世は茶番でできている。
内情を知る者は、己を劇の一構成員とすることで利益を享受しようとする。何も知らされていないその他大勢の観客たちは、彼らによって感動や義憤を与えられても、それが与えられたものだと気付かないまま、これこそが真実なのだと信じている。
タケルも、ついこの間までは観客のひとりだった。だが事情が変わり、今後は自らその一構成員となることを選択した。
これは企業秘密どころではなく、経済界全体の裏事情だ。本来であれば、一介の学生が知っていていい内容ではない。
だが、タケルの場合は事情が特殊だった。
普通の会社員だと思っていた父の死。働き過ぎじゃないか――。心配する家族を尻目に父は働き続け、ある日、会社の外階段から階下に落ちて死んだ。
自殺か事故か、会社とタケルの母との間で話し合いが繰り返された。最終的に、常にぎりぎりの精神状態で働いていた父の死は過労死に近いものと認められる。
世間一般的には優良企業とされている会社だ。社屋で亡くなった社員を蔑ろにはできなかったのだろうと思っていたら、違った。
父が所属していた部署の業務内容は、企業の最高機密の部類のものだったのだ。外部に漏れては、企業イメージダウンは必須。会社側は多額の慰労金と退職金を支払う代わりに、タケルを人質に取った。
「お父さんの遺志を継いでみませんか」と。
田中武、大学四年の二十三歳。
なかなか決まらずにいた就職先が、卒業間際の三月に入ったとある日、決まった。
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