第1話 銀のスプーンでも某寿司屋でもない
さて、家ごと陞爵して実家は侯爵家に、嫡男ではないので個人では伯爵に、という扱いになった俺が、国王陛下から賜ったものが一つ、二つ、三つ。
一つめ、褒賞金。
これは言わずもがな、生涯遊んで暮らせるだけの額だ。
二つめ、お屋敷。
新築ピカピカ、家具も部屋も揃っているが、まだ使用人がいない。
三つめ、領地。
元は傾いていたルニェール子爵家の領地。王国が買い取っていたのだが、俺に下賜された。これに付随する港の貿易権も含む。王都の隣にあり、王都中央の屋敷からも通いやすい。
つまりは、領地の再建をしつつ、余生をまったりと暮らしたい。
……というわけで、間男の俺がやることは、「海賊退治」だ。
海賊が蔓延っている限り、うかうかと船を出すこともできない。ちょうど、戦争が終結して海賊を討伐するための兵力が王都に戻ってきた。王国は陸軍を重視しており、あまり海兵を育てていない。
隣国モルキナに勝利し、今回の和平条約によって、うちの国はたっぷりと賠償金を搾り取ることができた。そのため俺の褒賞もがっぽり貰えたわけである。
ルニェール子爵家が買ってそのままになっている武器などの軍需物資がまだ残っている。それらをせっかくだから活用させてもらおう。
アウローラの実家をいじめた罪は血で償ってもらう……みたいな。
さっそく、地元の傭兵団[銀の
[銀の鯱]本部に向かうと、潮風に吹かれて髪の色が抜け、よく日焼けしたゴツい海の男たちが出迎えた。団長のロナクと名乗る人物と握手する。
「話は伺いました、デュシャ卿。いつまでも海賊どもに王都の海をのさばらせておくわけにはいきませんな。大戦の英雄が助太刀してくださるというのなら、士気も上がります」
ロナクの笑顔は好意的だ。要は[銀の鯱]と懇意にしていたルニェール家の婿として歓迎されているわけなのだ。ここで、俺は一つの提案をする。
「実は、ルニェール家が戦争のために投資していた武器がまだ残存しているのです。それらを無償で提供いたします。何卒、これからも海の安全を保証していただきたく……」
すると、ロナクは目を輝かせた。
「それはありがたいお話ですな。戦争の影響で武器を作るための資材は国に優先されていて高騰してしまいましたし、そもそも入手が困難でした。戦うすべを失っていたも同然です」
戦争の影響はここまで深刻だったのだと実感する。何しろ、正当に事業をしていたルニェール家が潰れたぐらいだ。
「ではさっそく、海賊どもを討伐するための策を練る会議といきたいのですが……」
話の主導権を握ることに成功した俺は、ロナクと具体的な作戦内容を立てることにした。
◇
「帰ったよ、アウローラ」
なんと、屋敷に帰れば婚約者がいるのだ。アパートメントを借りて独り暮らしをしている彼女が、少しでも楽な生活を送れるようにと、うちの屋敷で暮らしてもらうことを提案した。
彼女は最初のうちこそ断ったが、「自分で自由にできるお金が増えるのは良いことだろう?」と付け加えると、ようやく承諾してくれた、という経緯だ。空き部屋が腐るほどあるので、その中でも広い部屋を使ってもらっている。実のところ、俺の部屋よりも広い。
「デュシャ様、お帰りなさいませ」
女性に笑顔で帰宅を出迎えてもらえる幸せを噛み締めている。
「今日は何をして過ごしていたんだ?」
「午前中は会社の仕事で、午後は庭の草むしりをしていました。……家庭菜園を作ろうかと」
まだ慣れないのか、恥ずかしそうにモジモジとしながら、あまり目を合わさず返事をする彼女だが、その姿もいじらしい。
「デュシャ様は何をされたのですか?」
「海賊退治をする相談をしてきた。……ああ、誰にも内緒だよ?」
なるべく穏やかに話したのだが、アウローラは目を見開いて怯えた表情になった。
「海賊退治、ですか……?」
どうやら心配してくれているらしい。
「安心してくれ、勝てない戦はしない主義だから」
「家の仇討ちをしてくださるおつもりなのですか? ありがとうございます、どうかご無事で」
そう、これは仇討ちなのだ。間男として、まずはできることからしよう。
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