30.父の秘事独語で暴露母笑顔 見知らぬ弟妹どこかに九人

 わたしの両親の話ではありません。利用者さんの話です。

 念仏かなにかの呪文みたいにね、ずううぅうっと独語が止まらないおばあちゃんが何人かいるのです。抑揚なく、息つぎもなく、ほんとにずううううううぅっとしゃべってんの。たまに聞いてるこっちのほうが頭おかしくなりそうになる。笑


 で、夜勤者から聞いた話なんですが、その独語ばあちゃんずのひとりがね、ある日の夜中に旦那さんの隠し子と愛人について話だしたらしく。

 お父さん(旦那さん)はバレてないと思ってたけどわたしほんとうはぜんぶ知ってるのよ——と。笑

 愛人は何人で、隠し子はぜんぶで何人、みたいな。どこまでほんとうで、どこまで妄想なのかはわかりませんけれど、愛人がいたことは確からしい(もともとご夫婦で入所されてたらしく、古参の職員はすでに他界されている旦那さんのことも知ってる)。


 またべつのばあちゃんは、殺したの殺さないのというハードボイルドストーリーを延々としゃべってたりね。

 暴露ばあちゃんもハードボイルドばあちゃんも語る内容はおもしろいんだけど、いかんせん抑揚がないものだからじっと聞いてると呪詛にしか聞こえなくなってくるのが困りものです。


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