異世界カノジョ〜前世で彼女できなかったから今度こそ彼女を作ります〜
和泉歌夜(いづみ かや)
第1話 夢半ばで死んでしまうのか
僕には夢がある。
巨乳の女の子達にモテること。だけど、そんなの現実ではありえない。
僕みたいな低身長前髪隠れの根暗は、せいぜいギャルの子の大胆で肉感のある太腿を眺めたり、バレーボール部のキャプテンの制服姿でも分かるくらい誘惑的な山なりを鑑賞したりするぐらいしかできない。
僕が16歳という年齢でなかったら
たった今二人を丸裸にして
『ルカくん! キスして!』
『駄目だよ〜! ルカは私の〜!』
そんな官能的な展開に酔いしれていると、チャイムが鳴り響いた。
僕はようやく狸寝入りを止めて、無味無臭の授業を受ける事した。
(……ごめんなさい)
僕は心の中で卑猥な妄想の被害者の二人に謝った。授業で頭が切り替わったからか、段々本能から理性へと戻ってきた。
何が丸裸にして
そんなアダルトな展開が許されるのは、フィクションの世界だけだ。
僕がこんな
毎度毎度そんな事を続けたら、いつか危害を加えるかもしれない。
そんなの絶対にあってはならない事だ。でも、どうすれば……そうだ。
告白しよう。そしたら、断ち切れるかもしれない。
でも、誰に告白すればいいんだ? 僕は告白どころか同級生の女子とまともに喋った事もないのに。
せいぜい隣同士の問題を一緒に解く事ぐらいしか喋っていない。
『これ……答えはアインシュタイン?』
『うん、そうだよ』
『そっか』
『……』
『……』
こんな感じの事ぐらしいしか会話したことがない。そんな極限まで関わった事がないのに、いきなり告白されたらフラレるのは確定だ。
じゃあ、止めた方が――いや、駄目だ。
今日やらなかったら、そのままズルズルと卒業するまで視姦する事になるぞ。
僕は覚悟を決め、教科書を読むフリをして相手を探す事にした。
クラスの男子達から圧倒的人気のあるギャルとキャプテンは駄目だ。万が一失敗したら一軍の男子達に半殺しにされる。
じゃあ、ギャルの取り巻きはどうだろう。派手な身なりでスタイルは彼女よりは劣るが、平均以上のルックスだと僕は思う。
でも、話した事がないから却下だ。
じゃあ、大人しい子にしよう。僕と同じ雰囲気を漂う――前列で真面目に授業を受けている黒髪の子はどうだろう。
いや、待て。あの子は学年一の成績を持つ高嶺の花だ。物静かだけど彼女を陰ながら慕っている男子も少なからずいる。
他は――あのロリ系は彼氏いるし、そばかすの子は留学生と付き合っているし、ガタイの大きい子は体育教師と肉体関係を持っているから駄目。
ツインテールの子は最近までフリーだったけど、先輩から告白されて無事にカップルになったばかり。
それを僕が寝取ったら瞬時に縛り首だ。
あれ? 待てよ。このクラスの子全員告白したら駄目なんじゃないか。
うん、全員彼氏持ちだ。
嘘でしょ。僕の一生に一度しかない告白がまさかこんな形で阻まれるなんて……。
僕は心の中で大きく溜め息をついた。
だったら、後輩とか先輩――帰宅部だから無理か。
じゃあ、隣のクラス――あ、そういえば僕を除いた三軍以下の男子達が隣クラスの女子達を彼女にしようという謎のブームで一斉に掻っさらいやがったんだ。
恐らく僕の二番目に不人気な汗だくで小太りのマサオですら可愛い彼女を持つという屈辱的な事実を昨日耳にしたのを思い出した。
あれ? もしかして僕以外全員カップル?
うん、間違いない。皆先生の授業を受けるフリしながら密かにやり取りしている。
なんてこった。僕だけアローンなのか。ますます沈鬱な気持ちになった。
僕は完全に
きっと心の中で僕の事を『彼女いない根暗野郎』と草を生やして笑っているのだろう。
特に小太りのマサオは。
そんなこんなで授業が終わった。皆、友達と話したり、次の授業の準備をしたりしていた。
三軍以下の男子達は僕とは違って幸せそうな顔をして教室を出ていった。
きっと隣クラスの女子とイチャイチャするのだろう。
終わった。決心するにはあまりにも遅すぎたのだ。
やっぱり、夏休みを過ぎてからの告白は絶望的なのだろう。絶対に僕以外忘れられない一夏の思い出を作ってきたんだろうなぁ――クソッタレ。
よし、いつまでもクヨクヨしていられない。
もう生徒が駄目なら教師だ。年の差は離れていても、僕は気にしない。全然オーケーだ。
僕は気持ちを切り替えて、職員室に向かう事にした。
※
職員室は生徒が入りやすいようにするためか、一部がガラスになっていて中の様子を見る事ができた。
僕は告白しても大丈夫そうな先生を探す事にした。
一番確実なのはスパルタの英語教師だ。歳は三十路か四十路か、いつも睨んでいるようなツリ目が特徴の嫌われ者。
授業も拷問みたいに厳しく、前に女子が単語の発音が違うだけで舌打ちをした事もあった。
そんな全校生徒から教師に僕が愛の告白をしたらきっと――そう期待を胸に探したがどこにもいなかった。
おかしいな。いつもデスクで怖い顔をしてパソコンをいじっているのに。トイレにでも行っているのかな。
そう思いながら血眼になって探していると、筋骨隆々の体育教師(ガタイの大きい子と肉体関係を持っている)が「おう、松田。どうしたんだ?」と声をかけてきた。
「あの、えっと……狐目先生はいらっしゃいますか? その……授業で分からない事を聞きたくて」
「狐目? あぁ、産休で休んでいるよ」
「え?」
嘘でしょ。あの鬼教師に家庭を持っているなんて思わなかった。
いや、僕が勝手に『いない』と思い込んだのが悪い。
世界は広い。世の中にはあんな教師でも好きだと言う人がいるのだろう。あぁ、唯一の希望が絶たれてしまった。
僕が愕然としていると、ドアからフローラルな香りが漂っていた。
金髪でアメリカンなスタイルを持っているキャサリン先生が職員室から出てきた。
あの狐目先生とは正反対の性格と教え方で、教師の中で一、二を争う人気を持っている。
もしキャサリン先生が彼女になれたらどれほど嬉しいか――でも、既婚者だ。
「はーい! ミスターマツダ!」
キャサリン先生は天使のような笑みで、根暗な僕にも挨拶をしてくれた。
「あぁ、キャサリン先生。ちょうどよかった。彼が授業で分からない所が……」
「あ、いえいえ、だだだ大丈夫です! あの、自分で頑張って理解するので失礼します!」
僕は周囲の視線を感じ適当な言い訳をして、その場から逃げた。
危なかった。もし僕みたいな奴がキャサリン先生と個人レッスンを受けたなんて事実を彼女のファンが知ったら、体育館裏に呼び出されてタコ殴りにあってしまう。
「こらっ! 松田! 廊下を走らない!」
無我夢中だったからか、近くに体育教師の吉永がいる事に気づかなかった。
彼女は狐目先生よりは厳しくないが、指導部顧問だけあって身だしなみやマナーには厳しかった。
女子にはめっぽう嫌われているが、ジャージに隠れている豊満な肉体のおかげで一定数の男子から好意を抱いている。
僕は背筋を伸ばして先生の方を向いた。厳しいを除けば顔立ちも素晴らしい。
でも、教科書を持つ手には指輪がはめられいた。
心の中で舌打ちした後、「ごめんなさい」と頭を下げた。
「次から気をつけるんだよ」
吉永先生はそう言って歩き出した。僕の横切った時にキャサリン先生と同じ香水の香りがした。
シェアしてるんだ。意外。
※
結局教師全員が既婚者だという事実を突きつけられた僕は渋々教室に戻り、授業を受けた。
さて、どうしよう。もうなす術がない。
こうなったら……もうあと二年の学生生活を棄てる勢いで告白するしかない。
僕は鉛筆を持つ手を強く握った。
※
運命の放課後がやってきた。僕は急いでトイレに向かい、身だしなみを整えた。
ふと前髪をどうしようか迷った。
(
僕は前髪をどかし、忌々しいパッチリした眼と久しぶりのご対面をした。
この眼のせいで、僕は虐められた。小学生の時は園児と間違えられ、中学生の時は低学年と馬鹿にされた。
こんな子供っぽい眼で告白しても成功できるのだろうか。
ガキはお断りとか言われそう。
(まぁ、いいや。覚悟を決めろ)
僕は頬を叩いて気合いを入れ、トイレを出た――その瞬間、誰かとぶつかった。
「きゃっ!」
「わっ!」
僕は尻餅をついてしまった。
「いたた……ごめんなさ……ん?」
僕は目の前にいる人に謝ろうとしたが、その相手が何とキャプテンだった。
「あの、前川さん!」
僕は思い切って声をかけた。
「……え? 誰?」
彼女は首を傾げていた。この瞬間、僕は『告白は無理だな』と直感した。
「な、何でもないです」
僕はこの場から逃げるように走った。
※
(ちきしょぉおおおおおおお!!!!)
僕は心の中で雄叫びを上げながら走った。
もう吉永先生に怒られてもいい。この不遇な人生に嫌気が差した。
(どうして僕は彼女ができな――!!)
僕は行き当たりだという事をすっかり忘れていて、思いっきり壁に激突してしまった。
「むぎゅ……」
僕の意識はあっという間に暗闇へと侵食されてしまった。
※
急に眩しくなったので目を開けると、天井が白かった。
もしかして保健室かなと思ったが、壁も床も白かった。
どこもかしこも純白――もしかしてあの世?
『お目覚めになられましたか』
突然僕の頭の中から声が聞こえた。
「誰なんですか?」
『私は女神。あなたは学校の壁に激突して死んでしまいました』
「え?」
嘘でしょ。まさか鼻の骨折では済まなかったのか。
「僕はどうなるんですか?」
『そうですね……あまりにも可哀想なので、特別に別の世界で暮らす権利を授けます』
それってもしかして異世界転生ってやつ?!
「ありがとうございます! あのちなみにスキルは何ですか?」
『……はい?』
女神の声が急に鋭くなった。
「え? 普通こういうのって、何かモテモテになるフェロモンとか、無限の力とかを手に入るようなものじゃないんですか?」
『あなたね。わざわざ虫に転生する運命を人間に戻してあげるんだから、もっと寄越せだなんて強欲だと思わない?』
た、確かにそうだ。
「仰る通りです。申し訳ございません」
正座して深々と頭を下げると、女神は『理解してくれてなりよりです』と元の落ち着いた声に戻った。
『では、良い人生を』
すると、急に眩しくなった。目を
※
最後までご覧いただきありがとうございます。
この話以降も連載します。
時刻はバラバラになるかもしれません。
またこのようなお知らせは第一話で最後とします。
完結するまで頑張りますので、今後ともこの作品をよろしくお願いします。
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