三十、違う世界


「違う世界、ですか?」

「そう。しかしそう言ってもこの世界の違う選択肢が見える、それだけのことじゃ」

「違う選択肢、、、」

「少年少女。知っているか?この世界は選択肢に溢れている。未来は決まってなどいない。クリグムの言う不変の未来なんてものはないのだよ」

「じゃあ、クリグム族が見ている未来はなんなのでしょうか」

「いい質問だ。少女。あやつらが見ておるのは一番可能性の高い未来。しかし変えられないことはない。わしは変えてみせた」

「未来を変えたのですかっ!?」

「そう驚くな、少年。わしが見た可能性の高い未来の話をしたらお主とて変えたくなるだろうよ」


ペイナとラゼンは黙り込み、そして数秒後。ペイナが口を開く。


「サ・グラジュル様。あなたは何を見たのですか?」


サ・グラジュルはすうっと目を細めた。


「良いものじゃない、、、。クリーグでおこる二度に渡る大戦。死にかけるわしの護衛に国家に利用される我が子孫。その子孫も力の使いすぎで最後は死んでしまった。わしはその未来の中でのうのうと生きている」

「それって、」

「少年、少女。お主らのことだ。この国はリアナーテの娘が支配し、大戦を起こした。少年、お主はわしへの恩を返すためと言って戦火に飛び込み、死にかけて帰ってきた。そして少女、お主はその銀の風の力を国に利用され、二度目の大戦において死んでしまった」

「サ・グラジュル様はその未来が見えて、」

「違う未来を選んだ。それだけじゃ。、、、そのために色々なものを見捨て、切り離して。ああ。リアナーテ。あの子には謝りたいものだよ」


後悔したような顔でサ・グラジュルは嘆く。イーリャの言う通り、とびきり優しい人間である彼は全てを救いたかったに違いない。


「サ・グラジュル様、、、」

「ペイナ、ラゼン。よく聞け。未来は不変では無い。お主らが選んで選んで掴み取る物だ。望む未来のために存分にあがき続けろ。わしからはこれだけじゃ」

「サ・グラジュル様、あなたが生き残る未来は、あるのですか?」


ペイナは思わずサ・グラジュルに尋ねる。


「あったとしてもわしは選ばぬ。わしは不老長寿。今死なないと次いつ死ねるものかわからん。それにわしは満足じゃ。この長い長い生の最後で子孫を、ペイナを守ることができた。、、、イーリャだってこの死に方を認めてくれるだろう」

「サ・グラジュル様!あなたが死んだら、俺はどうすればいいですか。あなたに救われたこの恩をどうすれば、あなたが助けたこの命をどうすれば、、、いいのですか?」


ぎゅうっと唇を噛んでいたラゼンが叫ぶようにサ・グラジュルに言った。サ・グラジュルは困ったように笑う。


「ラゼンよ。わしはそんな善人では無い。お主を救ったと言ってもやったことは人買いと変わらんよ。恩など感じなくて良い」

「ですがっ!」

「それでも。それでもお主が納得しないならペイナを守ってくれ。ペイナはベルアとクリグムの間の子。少々面倒な立場にある。守ってやってくれ」

「、、、かしこまりました。あなたの御心のままに」


ラゼンは何かを堪えるかのように俯き、それから顔を上げた。そしてサ・グラジュルの目を見て最敬礼をして答える。


「それからラゼン。お主の命はお主のもの。幸せになるのだぞ」

「、、、はいっ」


ラゼンはそう答えると俯く。その姿は何かを耐えるような、涙を隠しているような、そんなふうに見えた。


「ペイナ」

「なんでしょう」

「わしはお主に長生きしそうだと言ったな?」

「はい。言われました」

「長生きするのだぞ。お主の母の分も」

「はい。、、、きっと私、長生きします。ペリア母さんの分も、イーリャさんの分だって絶対に」

「そうか。そうか」


サ・グラジュルは安堵したように微笑む。


「最後にペイナよ」

「なんですか?」

「名前の意味を調べてごらん。クリグムの古語が使われているから少々難しいまがとてもいい名前だ」

「この名前は父がつけてくれたそうです」

「そうか。ペイナにぴったりだ。、、、もう時間がない。さあ。記憶の旅を終わらせるとしよう」


サ・グラジュルがそう告げるとあたりがぱぁっと輝く。その星を散らしたかのような薄明色は。サ・グラジュルの目の色と酷似していた。

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