二十三、もう一柱
静かになった廊下で。
「ありがとう。ようやくカイヤを殺せた。みんなのおかげだ。本当にありがとう」
ルドが泣きながら言った。ルドのそばにミーシェが近づきその背を撫でた。ミーシェの目にも同じように涙が浮かんでいた。
「ペリア姉さん、、、っ」
二人は絞り出すようにペリアの名を呼んだ。
ペイナとラゼン、リーヤアイナはその二人から離れる。長い間苦しみがようやく報われたのだ。ずっと支え合い続けた二人にした方が良いだろう。
会議会場に戻るとよく分からないという顔をしているユージオ。何事もなかったかのように座るレビリオ。放心状態のアーグラ。そして困り顔のオベリアがいた。
「ペイナさん。おふたりは?」
「今は二人にしといた方がいいと思って」
「そう。そうですね。では私たちはこの場をどうにかしなくてはいけないですね」
ペイナは部屋の惨状を見て頷いた。
その時。
「頭が変わったところで何も変わらないではないか、、、」
レビリオが急にそうつぶやく。
「え?」
「ベルア族を元の姿に戻さなくては。私はその為に来たのだから。、、、ああ。殺してしまえばいいのか。龍と影を。そうすれば陽がもう一度長になってベルア族のあるべき姿に戻るんだ、、、」
レビリオが胡乱な目をしてこちらを見る。そしてその場に跪き何やらぶつぶつと唱え始めた。
「あはりや、あそばすともうさん、あさくらに。銀風神よ、降りましませ」
その瞬間。オベリアの周りで銀の風が吹き荒れた。
「きゃあ!」
オベリアの横にいたペイナは風圧に負けて屋敷の外へ吹き飛ばされる。
「ペイナっ!」
その体が地面に叩きつけられる寸前でラゼンが受け止めた。
「ラゼン、ありがとう。、、、何?あれ」
二人でオベリアがいた辺りを見つめる。しかしそこに居たのはオベリアではなかった。銀の風をまとい、金の目を持つそれは。
「おいで頂きありがとうございます。銀風神様」
そう。銀風神。ベルア族が信仰する神。
「お前か。私を呼んだのは。陽の者か?」
「いいえ。私は瑞の家当主のレビリオと申します」
銀風神はすーっと目を細める。
「盾ごときが私を呼んだのか?不愉快だ」
そう言って銀風神が手を振りかざすと周りの温度がじわじわと下がった。
レビリオは歯をガチガチ言わせながら答える。
「申し訳ありません。しかし銀風神様にお頼みしたいことが。どうか、龍と影の殲滅を、」
「安心しろ。私は破壊と破滅を司る。龍と影だけとは言わん。この国ごと壊してやろう」
その言葉にペイナは青ざめる。
「銀の風神様ってこの里の創造主なんでしょ、、、?破壊と破滅だなんて、」
銀風神がこちらを見た。
「お前が陽か。しかし残念だ。盾が呼んだのは私の方。銀風神は二柱いるからな」
ペイナは里の子供たちが歌っていた童謡を唐突に思い出した。
『風神様は二柱 善き風神と悪しき風神 風神様らは探してる 器を器を探してる』
「貴方は、悪しき風神様、、、」
「その通り。ははは。さあ里に近づいているものみんな呼ぼう。女王に王兵に預言
使に子供が二人。全員この場で殲滅して見せようぞ。愉快じゃ。こんなに楽しいのは久方ぶりだからのう!」
そう言うと銀風神は強烈な風を吹かし、瞬きひとつの間に里に人々を連れてきて、周りにいた人々を、物を吹き飛ばしてしまったのだった。
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