八、ラゼン
「ちょ、サ・グラジュル様、、、」
今まで一言も発さなかった少年が慌ててサ・グラジュルを追いかけようとするが、その姿はもう見えなかった。
「主は少しは友達を作るのじゃぞー。どうせ犬猫以外に友達いないじゃろー」
という声がどこからか聞こえた。少年は怒りからか羞恥からか、顔を真っ赤にしている。
ペイナは苦笑いしつつ、少年に椅子に座るよう促す。少年は苦虫を噛み潰したような顔をして座った。
「えっと、知ってると思うけど私はペイナよ。歳は十七で、ベルア族の陽って家の出なの」
「俺はラゼン。十七歳だ。サ・グラジュル様のところで護衛をしてる。それと、友達くらいいたからな。護衛になる前はたくさん、ではないけどいたんだからな」
最後の方は小さな声だったがボソボソと弁明している。先程サ・グラジュルに言われたことを地味に気にしていたらしい。
ペイナが思わず吹き出すと少年、ラゼンはムッとした。
「あーもう、笑うなって!」
「ふふ。ごめん。あ、他のベルア族の子たちも紹介するよ。着いてきて」
ペイナはサ・グラジュルの「友達を作れ」という言葉に従ってラゼンをミュリラ達に紹介しようと思い、部屋まで案内することにした。
長い廊下を歩きながら。
「ラゼンはなんで護衛をしてるの?まだ十七歳でしょ?」
クリーグ王国において十七歳は未成年で親の庇護下にいるべき年齢だ。
「そりゃ、サ・グラジュル様に拾われたからさ」
「拾われるって」
ペイナはまずいことを聞いてしまったのでは、と少し焦る。
「親に捨てられたっつーか、売られたんだよ。それをサ・グラジュル様が助けてくれた」
「あ、あの、ごめん、なんか」
「いや、いーよ。気にしてねえし。サ・グラジュル様に拾われてからの方が幸せだしな」
「そう。今のあなたが幸せでよかった」
思わずそう言ったペイナの言葉に、表情に、ラゼンはハッとしたような顔をした。
「どうしたの?」
「いや、そんなこと初めて言われたなって」
「そうかなぁ。きっと皆そう思ってるよ」
ペイナがそう締めくくったところで、ミュリラたちの部屋に着いたのでこの話は終わりになった。
ペイナが部屋に入った瞬間、ミュリラが飛びついてきた。
「ペイナ!預言使に変なこと言われてない?大丈夫!?」
「ミュリラ、、、。大丈夫よ。それよりも」
「その子、誰、、、?」
ミュリラがラゼンの存在に今気づいたようでギョッとしている。
「彼はラゼン。サ・グラジュル様の護衛なんだけど色々あって、私の警護についてるの」
「えぇ、なにそれ。大丈夫なの?だってその子、預言使の、」
「失礼なやつだな」
ラゼンがボソリと言い、ミュリラが慌てだす。
「あ、えと、」
「ミュリラ。預言使は預言使でもサ・グラジュルはクリグムじゃない。それに今ペイナが襲われても僕達は守るすべがない。彼がペイナにつくのは最善だ」
「うー」
そうボルックに言われてミュリラは押し黙った。
「初めまして、ラゼン。僕はボルック。年は十五。ベルア族瑞の家が長男だ」
「ラゼン。十七歳だ。よろしく」
「よろしく、ラゼン。どうぞ仲良くしてね」
ボルックはなにかを含み気味にラゼンを見上げた。そしてラゼンは理解したとばかりに、にやりと笑う。
「、、、別にそれは狙ってない。俺はうるさいのは好きじゃない」
「ああ。そうか。それを聞いて安心したよ」
「何よりだな」
なるほど。気が付かなかったが、ボルックはミュリラが好きらしい。確かによくミュリラの世話を焼いているし、ボルックはミュリラのことを第一に考えて行動する節がある。そしてミュリラを見つめる目はいつも優しい。ミュリラには失礼だが、ラゼンの言う「うるさいの」にミュリラは当てはまっている。
ペイナが一人で納得していると、ミュリラがポカンとして二人を見ていた。
「ペイナ、二人はなんの話してるの?」
「気にしてなくていいわよ、ミュリラ」
なにはともあれ。まあまあ仲良くなれそうではないだろうか。
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