向日葵
どもです。
向日葵
私が花園のベンチで人心地つくと、突然にして彼女は現れたのです。如何にもといった顔貌で、しかし嫋やかではありませんでした。手袋は土色に汚れ、たっぷりと水の入った如雨露が私の心を写したように重く揺らいでいました。
思わず声をかけて、しまったと思いました。目や頭の中を奪われている私は当然の如く話題を持ち合わせていなかったのです。次の言葉を待つ彼女に、私は誤魔化すことすら考えました。しかしそれを容易く選ぶことができないほど、つまりは心まで奪われてしまっていたのです。私は咄嗟に立ち上がり、何一つ悩んでなどいないといった顔を取り繕いながら、自販機に紙幣を入れました。私がペットボトルのミネラルウォーターを渡すまで、彼女は全く不思議そうに首を傾げていました。まるでそれが目的だったかのように振る舞われたのですから、その場凌ぎなどといった可能性は思いつきもしなかったのでしょう。
遠慮がちに礼を言う彼女を見て、私は遂に己の心を理解しました。それは恋情などという俗悪なものではなく、ちょうど親心のような、そんな無償の愛情でした。この花園に訪れた一つの蕾を、陽光へと胸を張る向日葵のように咲かせたい。私はその時だけ、一角ガーデナーの気分でした。
私は彼女の手を取り、ありったけの熱意を込めて言いました。私をガーデナーにさせてくださいと。その真意は伝わりませんが、二つ目の意味は私が知っているだけでいいのです。
しかし、何としたことでしょうか。私はその許可を得る前に、花を一輪咲かせてしまったのです。思っていた通り、初めて咲いた大輪の花は心を掴んで離しませんでした。もしやこの花は一年草なのでしょうか。全てをかけた一度きりの開花、それが今まさに起こっているのでしょうか。彼女の笑顔は余りにも眩しく、可愛らしく、それでいて活力に溢れていました。向こうへと彼女が招きます。私は甘い蜜に誘われた蝶々の如く、ふらふらと彼女について行きました。これから私は幾度となく花を咲かせるため力を尽くすでしょう。それがきっとガーデナーの仕事なのです。
私の心にはたっぷりと水が詰まっていました。ああ、私の言葉で貴女が笑顔になってくれるのなら、どうしてその水が尽きましょうか。私は未だ枯れない花を見つめながら、沸々と湧く愛情を口から吐き出して、ああ今日は太陽が眩しくて良い日ですねと、私の花であり、また太陽となった彼女に言うのでした。
向日葵 どもです。 @domomo_exe
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