死んでも死なない『残機10億』の俺はゾンビですか?
十本スイ
前編
突如地球に異変が起きたのは、今から約二十年ほど前だったらしい。
西暦2051年。科学の進歩が目覚ましく、非常に金と労力、そして時間を費やす宇宙旅行ですら一般化されるところまで来ていた。
多くの人間が宇宙に意識を向け始めたその頃、世界規模で未曾有の大地震が起きたのである。
理由は今でもハッキリと分かっていない。専門家たちが幾ら頭を悩ましても、何の兆候もなく、突然起きた大災害だったとのこと。
世界のあちこちで甚大な被害をもたらし、大勢の死者を出す結果となった。日本も例外ではなく、国中の人々が嘆き苦しむ時代が到来する。
当時の人口が三割以上も削られるという、史上初の大事件として歴史に刻み込まれた。
人々はこれを――〝世界震災〟と呼称する。
そして地震の直後、目に見える異変は大地の破壊だけではなく、日本の東京にも別の形で存在していた。
それが〝ダンジョン〟と呼ばれる五つの塔。
地震が鎮まると、五つの塔が東京の街中に堂々と聳え立っていたのである。
ダンジョンの中は異空間としか思えない構造になっており、階層ごとに分かれているフロアには、砂漠やアマゾン、荒野や海など、様々な
フィールドには、モンスターと呼ばれる異形なる存在がいて、自由にその世界を闊歩している。
また東京だけではなく、世界のあちこちにも同じようなダンジョンが出現し、さらには森や山などが、ダンジョン化したりしてモンスターが出現するようになったのだ。まさしくそれまでの世界とは相反する姿へと変わったといえよう。
そして世界が変貌を遂げただけでなく、その日から人間自身にも変化が訪れたのだ。
五つの塔は、ちょうど五芒星を築くような形で出現したのだが、その中央には小さな神殿のようなものも同時に現れたのである。
白亜の宮殿のようなその中は、とても神秘的な空気に包まれていて、部屋の中央には奇妙な青い球体が浮かんでいた。
その場に居合わせた人間が、何気なくその球体に触れた時、その人間にある力が備わったのである。
それが――魔法。
現代科学では説明できない不可思議な現象を引き起こすことのできる能力。同時に〝ステータス〟という概念も手にしたのだ。
ただ、その球体に触れた人間すべてが進化する、というわけではなかったのである。
魔法を授かるにも、恐らく才能が必要だったのだろう。
ダンジョンは日本だけでなく、世界中にも出現が確認されている。
それから世界各国は宇宙旅行どころではなく、ダンジョンの調査にすべてを注ぐようになった。
何故ならダンジョンに眠るお宝や、モンスターから取得できる素材などが、人間の生活を豊かにしてくれるものだと分かったからだ。
故に各国では、ダンジョン攻略が最大事業となったのである。
ダンジョンを攻略する者たちのことを『冒険者』と呼んだ。
そして日本でも塔があるココを【ダンジョン都市・
そうして現在――西暦2077年。
二十年以上が経った今――
しかし十利には、一切の魔力がなかった。つまり魔法を使えない凡人であることが決定付けられたのである。
魔力を扱えれば身体能力を強化したり、五感もまた鋭くさせて生存率を向上させることが可能だ。
それができないとなれば、冒険者としてすぐに限界がやってくる。たとえ武器を持ってしても、生身では超えられない壁が出てくるからだ。
弱小モンスターなら問題はないだろう。しかし高ランクモンスター相手ではもう無理。どれだけ頑張っても、一人では絶対に勝てない存在が多過ぎるのだ。
だが十利は、尻尾を巻いて帰るわけには行かなかった。どうしても冒険者になって手に入れたいものがあるからだ。
それは――――――自由である。
え、今も自由に動き回れるだって? 残念ながらそう言うわけではない。
十利が冒険者になったのも、手っ取り早く稼げるから選んだだけ。
そうでもしないと返せないんだよ――――――〝借金〟がっ!
これは十利が、街でのんびりとスローライフを送っていた時だ。
ある日、突如として家に黒服の連中が乗り込んできたと思ったら、いきなり拉致されて、気づけばセレブリティな屋敷の中。
そして十利の前に現れたのは――一人の少女。
自分とそう変わらない歳のくせして、この屋敷の主人と名乗るその女から、とんでもないことを聞かされたのである。
『あなたは借金のカタとして売られたのよ。今日からあなたは私の奴隷』
当然抗弁はした。訳が分からない、何の冗談だと。
しかし借用書と書かれた紙には、親父のサインと一言が添えられていた。
『ごっめーん! ギャンブルでやっちった! お前の人生をチップにして負けたんで、あとヨロシクーポン券!』
殺意を覚えた。前々からクズなダメ親父だったが、とうとう実の息子を売るような手に出やがった。
そうして十利は、その日からご主人様となる少女――
十利は、ひなめに問い質した。一体幾らの借金があるのか、と。
こうなったら自分で自分を救う他ない。だから金額を尋ねたのだが――。
『10億よ』
正直耳を疑った。さすがの親父でも、そんな金額は有り得ないって。
けれど借用書にも、ちゃんと10億の肩代わりと書かれていた。
当然親父に支払える能力なんてない。あるわけがない。そもそもまともに働いてないアイツが払えるわけがないのだ。そこで親父は、息子の人生を借金の肩にしたというわけである。
しかもよく見れば何故か十利の母印まである。聞けば親父が十利が寝ている時に、こっそりと借用書に押させたのだという。
……マジで最低過ぎる。
(ていうかこれ俺の意思がないし無効じゃね? 親父……犯罪者じゃね? ああいや、もし親父が犯罪者として捕まったら、それはそれで困ることがあるしなぁ。ちくしょう……どう足掻いても親父のケツを俺が持たねえといけねえのかよぉ)
無論、このまま泣き寝入りするつもりなどなかった。
親父が自分を救ってくれることはない。有り得ない。絶対に無い。今頃、美人の姉ちゃんとよろしくやっている姿が目に浮かぶし。
だから十利は、自分で自分を救うしか方法はなかった。
ただ10億なんて、とてもではないが普通の仕事に従事していては返せるはずもない。
一生奴隷なんてごめんだ。だから十利は提案した。
冒険者として稼ぎまくり、そこから借金を返済していく、と。
冒険者になれば一攫千金も夢ではない。ただそんな夢を叶えるためには、様々なハードルをクリアしていかなければならないが。それでも許可をもらうことはできた。
こうして一時の自由は得たものの、月末に設定された支払いが滞れば、その時点で冒険者終了。奴隷として一生を尽くすことが条件となった。もし逃亡を図れば、地獄の底まで追って必ず後悔させるという怖い言葉を頂いた。
それでもチャンスなのは確かなので、最後まで足掻こうと思ったのだ。
だが〝洗礼の儀〟を受け、自分には冒険者としての道を行くのが厳しいことを突きつけられたのである。
まさにお先真っ暗状態。そんな時に、十利は何気なく最後の悪足掻きとしてステータスを確認してみたのだ。
するとそこには驚くべきモノが存在した。
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