強化の運命線

@henken

第0話 強化の片翼

「お前、どうしてそんなに冷静でいられるんだ?」


クラスメイトの仙台が、驚いた顔で俺に尋ねた。彼の目は、俺の左腕に向けられている。今しがた、落ちてきた大きなコンクリートの塊を片手で受け止めた俺の姿を、彼は目の当たりにしたのだ。


「いや、なんとなく……慣れたっていうか。」


俺は曖昧に答えながら、そっと左腕を見つめた。この腕だけが、普通じゃない。数ヶ月前、ある事故に巻き込まれた時から、俺の左腕には異常な力が宿っている。それは単なる筋力強化ではなく、身体全体が一瞬だけ硬化するかのような感覚だ。


俺がこの力を得たのは、誰かに選ばれたわけでもなく、特別な儀式を受けたわけでもなかった。ごく普通の高校生だった俺が、突然手にしたこの「左腕の強化」という奇妙な力。それ以来、平凡な日常は一変した。


初めて気づいたのは、学校の帰り道だった。いつものようにコンビニに立ち寄り、ジュースを買って外に出た瞬間、頭上から何かが崩れ落ちてきた。瞬時に体が反応し、俺は左腕を掲げてそれを受け止めた。驚くほど軽々と、巨大な看板が俺の手の中で止まっていた。


あの時の違和感は、今でも鮮明に覚えている。普通なら、俺の腕が折れるか、俺自身が潰されていただろう。でもそうならなかった。それ以来、俺は自分の左腕に異常な力があることに気づいたんだ。



「大丈夫か?今の、ヤバかったぞ!」


仙台の言葉が現実に引き戻してくれる。俺は、彼の視線から目をそらしつつ、笑顔を作った。


「大丈夫。ちょっと運が良かっただけさ。」


だが、本当のところは違う。これが「運」なんかじゃないことは、俺が一番よく知っている。


左腕だけが、常に自分の体から浮いているような感覚がある。他の部分は何も変わらないが、この腕だけは別次元の存在だ。学校生活は相変わらずだけど、日常に潜む異常さが俺を取り巻いている。


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