白と黄色の共犯者

ねこくま

第1話卵黄、卵白の争い

「きみが、好き! これ……受け取ってほしいの!」


 基本、誰も来ない校舎裏。

 入学式の裏で行われた、高校二年生の男女二人の密会。

 女子は俯き、腕を振るわせながら手に持っているものを渡そうとしている。


「だ、ダメだ。僕たちは……」


 男子は下唇を噛み目をそらす。

「でも! 私たちは出会ってしまったの!」

「――ッ」


 男子は目に涙を貯め再度女子と向き合う。


「わかった。それを受け取る代わりとしてなんだが……僕のも受け取ってもらてもいいか?」

「――うんッ!」


 だがしかし、二人は気づいていなかった。周りの窓から監視されていることに。

 トランシーバーで連絡を取り合い、突入の合図を待つ生徒達。


『こちらアルファ、地点ブラボーにて密会を監視中ですがブツの交換を確認居ました』

『こちらベータ、了解した。全員突撃せよ!』

『『『『了解ッ!』』』』


 屋上からジップが張られ部隊さながらの動きで降りてくる。


「しまった! あいつらが来た! 逃げてくれ!」

『させない!』

「きゃっ」

『こちらメレンゲ確保しました!』

『こちらも卵黄だけの卵かけご飯確保しました』

「くそっ」

『卵黄と卵白の密輸はこの学校では重罪だ。なんでやった』


 しかし、男子は返答もせず俯く。


『答えないか……仕方ない、後は上に判断を任せよう。身柄を確保し牢に入れておけ!』


 現在の日本はきのこたけのこの様に二つの派閥に分かれ、いわば内乱状態にあった。

 そうそれが、卵黄と卵白の戦争。

 それは単なる言い合いにとどまらず、卵黄だけの卵を産む鶏と卵白を産む鶏に品種改良されるほど。

 そして、日本は二つの派閥の境界線に学校をそれがこの月見学園だった。

 この学園は日本の卵業界を担う若き人材を集め、お互いを潰しあうために作られその歴史は長い。

 そして、そんな学園を作った二人のひ孫がこの学園のトップにして、卵白派トップの城宮しろみやの跡取り息子の城宮柚木きみづきましろ

 卵黄派トップの令嬢の輝実月純白きみずきましろ、二人の幼馴染であった。


   〇   〇   〇


「みてみて! 城宮様よ!」

「いつ見ても凛々しいお姿だわ!」


 会議室に向かっていると、俺を過大評価する声が聞こえてくる。

 白をメインにオレンジ色のラインが入った制服、黒いネクタイに身を包んでいる。

 ちなみにネクタイは、一年は赤、二年は茶色、三年は黒と学年によって変わる。

 白い髪に水色の瞳、身長も高く確かに容姿はいいと自負している。

 だがそれはそれとしてだ。

 本当にやりづらい、俺はそんな素晴らしい人間じゃないんだが。

 前から純白も歩いてきて「輝実月様だ」「今日も奇麗だな」などの声が聞こえる。

 この会議をする上で絶対に知っておかなきゃいけない人物が登場。

 輝実月純白。

 金色のツヤのある長髪に、長いまつ毛。瞳をゆっくりと開けば漂う色気。

 なのにそれを引き締めるような凛とした立ち振る舞い。

 白い制服ということも相まって天使が舞い降りたと錯覚する。

 そして俺たちは会議室に入っていく。

 中に先に居た俺のメイド小歩しょうほうずらと、純白の執事の広羽雀ひろはねすずめが出迎えてくれる。

 ぱたんとドアが閉まり、しばし静寂が流れ。


「うずら、この部屋に防犯カメラ、盗聴器の類はあったか?」

「一個もないよ!」

「広羽……この部屋の防音は」

「今ここで、お嬢様の個性的な歌声を披露しても音が漏れ出す心配はないかと」


 純白も執事に確認を取り、お互いの目を見て頷き大きく息を吸った。


「「クソどうでもいいわこんな事!」」


 俺と純白は愚痴を吐き出す。

 防音も盗聴も確認済みなら今はただ吐き出したい。


「学内トップになって思ったけど、この学園終わってんだろッ! なんだよ、卵白と卵黄の戦争って! アホほどどうでもいいわ!」

「同感よ、個人でやってる分には良いと思うけれど、国まで巻き込んでるのは理解に苦しむわね」

「てか何で誰も疑問に思わないんだよ! 卵黄しか産まない鶏と、卵白しか産まない鶏って頭おかしいだろ! 普通二つはセットで生まれてくるはずだよな⁉」


 小さい頃家で見た鶏の卵はそうだったはずだ。

 なのになぜ、世間一般の常識では卵は二種類存在するんだ。


「理由は単純ですよ……私たちの曾祖父と曾祖母が歴史を変えた」


 なん、だと……


「教科書にも載っていたはずです、昔はそういう鶏もいましたが、今は進化の過程で変わってしまったと」

「何で疑問に思わないんだ……」

「それが常識だからですよ。鳥が生まれてすぐ見たものを母親だと思うよに、そこに何の違和感も持っていないのです」

「刷り込みって事か!」

「厳密には違いますけどね。でもそうやって歴史が変わったのは事実です」

「なら俺が見た普通の鶏は……」

「卵黄だけでも卵白だけでも鶏は生まれない。だから工場で品種改良をした鶏だけを外に出しているんですよ」


 なんかもういっそ清々しいくらいに終わっている。

 てか何でこんな戦争が起きているんだ。

 文献をあさっても出てこなかったし……


「何で戦争は起きたのかって顔をしていますね」

「あぁ、こんなくだらないことやってるってことはそれなりの理由があるわけだろ」

「その話は広羽に任せます」

「分かりましたお嬢様。その前に話が長くなるのでこちらのせんべいをどうぞ」

「やったー、すずくんありがとねー」


 置かれたせんべいを椅子に座って食べ始めるうずら。

 本当にこいつメイドなんだろうか。


「それでは城宮様。始めさせていただきます」

「あ、あぁうん」

「知っていると思いますが、この戦争の原因はお嬢様の曾祖母と城宮様の曾祖父が原因となっています」


 それは聞いたことがる。

 この学園を作ったのがその二人だと言うのは父親から聞いていたし。


「お二方は学生時代お付き合いされていました。最初は仲睦まじく、学園内でもかなり有名だったそうです」


 何故だろう。嫌な予感がする。


「ですが、それはある日突然訪れます。目玉焼きは半熟かしっかり火を通すかと言う言い争いから始まり、気づけば卵黄か卵白かの争いになっていました。これが事の発端です」

「クッッッッッッッッッソしょうもねぇな!」


 純白もこの話を聞いて頭を抱えため息をついている。


「これだけならよかったのですが、お互い日本の卵業界のツートップ。どちらにつくかで日本は割れ今に至るわけです」

「卵はどの料理にも汎用性があり、調味料から料理のメインまで使えるわ。それが使えなくなったら大変だもの、どちらかにつかないといけなかったわけね」


 話の流れからして、従わない者は潰していったんだろう。

 本当に何を考えているのだか。


「てか今回の会議の話どうする」


 もとはと言えば、こんなどうでもいい話をしに来たわけじゃない。

 昨日あった密輸の件だ。

 卵白派、卵黄派と言えど全く食べないわけではない。その代わり、あり得ないほどの金額を払い購入している。

 だがそれを破り交換をしようとしていたのは、俺らはどうでもいいがこの学園では由々しき事態である。


「モグモグ……ゆずきさまー、その件ですがお互い不問とするって形じゃダメなんですか?」

「やってることがでかすぎるからな……てかお前食べ過ぎ、全部食べてんじゃねぇか!」

「ふっふっふ。こんなのうずらの前では朝飯前です! 実際朝食抜いてきてるのでね! すずくんお代わり!」

「あほか!」


 うずらの頭にチョップ。


「アゥッ」


 何故か背後から悪寒がして振り返る。


「城宮様と言えど、うずらに手を出すのはやめていただきたい。あまりされるようでしたらこちらにも考えがあります。はい、お代わり」


「あ、あぁごめん」


 雀はうずらの後ろに回り、俺がチョップした位置を撫で始める。


「先ほどうずらさんが言っていたのだけれど、もみ消すことは可能だと思うわ」

「その心は?」

「この事件を知っている人が少ないのよ」


 確かに、この事件は入学式に起こったためそもそも知らない人すら多い。


「なら、もみ消した方がいいのか」

「そうね、外に出す方が問題になると思うわ」


 実際に密輸をしようとした生徒は謹慎ののちに厳重注意って形になるかな。

 思ったより話がまとまってよかった。


「私からも一つ良い?」

「なんだ?」

「単刀直入に聞くわ。柚木君このままで良いと思う?」

「良い訳ねぇだろ」


 俺の言葉を聞いて、ニヤリと純白は微笑む。


「その言葉が聞きたかったの。こんなくだらない世界なんてどうでもいいけど、このままじゃ私のしたいことに支障が出るわ。だから潰す」


 その迫力に圧倒される。


「柚木君、私が最も信頼する貴方にだからこそ言うわ。私とこの世界をひっくり返す覚悟はある?」


 俺みたいに嘆くだけじゃなく、この世界を本気で変えようとしている。


「あぁ、変えてやろうぜ俺とお前で」


 純白の手を取る。


「すずくーんもっと撫でて―」

「はい、わかりました。せんべいのお代わりは要りますか?」

「うむ!」


 横でイチャコラしてる従者を横目に、卵業界のトップ二人の前代未聞の共闘がここに誕生した。


「……てかいつまで食ってんだよ!」

「それで柚木君。月見計画なのだけれど」


 あ、このままやるのね。


「まって、月見計画?」

「ほら、普通の卵を焼くとお月様みたいでしょ?」

「まぁ、確かに」

「だから月見計画」


 本人ドヤ顔なら良いか。


「でも、一個目の作戦はあえて言わないでおくわ」

「な、何でだよ」

「君顔に出やすいんだもの。だから私を信じて」


 あぁ、本当に昔から純白には振り回されっぱなしだ。

 でもそれをどこか嫌じゃないと思う俺もいて、力強く頷いた。

 そして、この会議の後純白は姿を消し学校にも来なかった。

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