First kiss♡王子様と俺様ヒーロー

柚木ミナ

幼なじみ

仲良しの3人

 夕日で朱く染まった住宅街の一角にある公園。当時5歳だった私たち。いつも遊んでいる見知った公園で。



「泣かないでよ……」



 泣いていた私の頭を撫でてくれた幼なじみの男の子。



「ゆきちゃんはボクのお姫さまだよ」



 男の子はそう言って泣いていた私にそっと優しくキスをした。


 その時のあなたの笑顔が忘れられないまま時は過ぎ……。私たちは高校生になった。


 ――♡――♡――♡――



 雀の鳴き声が窓の外から聞こえる。目を開けるとカーテンから漏れた太陽の光が容赦なく顔に降り注いだ。眩しさに思わず瞼を閉じる。



 もう朝なの?全然、寝た気がしないよ。そろそろ起きないと学校に遅刻しそうだけど……。



 寝心地のいい布団の感触が気持ち良くて、私は一度起こそうとした体を再び布団に沈めた。睡魔に襲われて、目は覚めるどころか重くなっていく。



 あと、5分だけなら寝ても大丈夫かな?でも、二度寝なんかしていたら起きられなくなりそう。うん。やっぱり起きよーっと。



 眠たさの残る身体を奮い立たせて私はベッドからゆっくりと這い出た。大きく背伸びをして、朝の新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込む。



 窓から差し込む太陽の光りがキラキラと輝いていて、凄く気持ちいい。



 朝日を浴びて完全に目が覚めた私は部屋を出てリビングに向かった。



 ――♡――♡――♡――



 リビングのドアを開けて部屋の中を覗くと、いつも通り彼らがいた。


 白いシャツに紺と銀のストライプのネクタイ。灰色のズボン。1人はキッチリ、もう1人は緩く着こなしてる。



「おはよー。りょうたける



 部屋の中に入り、ソファーに座ってテレビを見ていた2人に声を掛ける。すると2人は私が起きたことに気付いてコチラを見た。



「あ、起きたんだ?おはよう、祐希」



 そう私に声を掛けてきたのは篠田しのだ りょう。髪の毛がサラサラのダークブラウンで、目はパッチリ二重。鼻が高くて小顔で、もう女の子に間違われるくらいに可愛い。



 それに涼は頭も良くて運動神経もいい。おまけに性格も優しくて紳士的で本当に王子様みたいな人。



「遅せぇよ。俺まで遅刻するだろ」



 そう言ってきたのは樋山ひやま たける。脱色した金髪の髪の毛を立たせて、ピアスもいっぱい付けて、見るからに不良っぽい。



 それに健は口が悪くて乱暴者だから、みんなに魔王呼ばわりされている。でも、本当は人一倍正義感が強くて優しい人だ。



 涼、健、そして私、新城しんじょう祐希ゆきの3人は幼小中高と同じ学校で家もお隣同士の幼なじみ。高校一年生になった今でも毎朝私の家に集合して3人で通学してたりする。



「早く飯を食え」


「ごめーん。すぐに食べちゃうから」


「ったく。早くしろよな」



 ボーっとしていた私に健が眉間に皺を寄せてぶつぶつ文句を言う。そんなに時間がギリギリなわけじゃないけど、健はいつもそう。早く座るように急かされて、私は慌ててダイニングのイスに座った。



 テーブルにはいつも通り朝ご飯が用意されている。だけど、いつもならそこで『あら?起きたの?』とお母さんがハートを飛ばしそうな勢いで飛んでくるのに今日は姿が見えない。



「お母さんは~?」


「オバサンは裕也を起こしにいった」


「あぁ~。なるほど」



 健に教えられ、お箸を手に取って小さく頷く。



 裕也は7歳年上の私のお兄ちゃんだ。近所の化粧品会社に勤めていて、会社が近いからって朝はギリギリまで寝ていることが多い。で、その度にお母さんが起こす破目になってる。



 お兄ちゃんもいい加減25歳になってまでお母さんに起こして貰ってないで、自分で起きられるようになればいいのに。情けなくて溜め息が出るよ。



「んなことより、さっさと食べろよ」


「あ、ごめん。いただきます」



 健に横から小突かれ、慌ててお茶碗に手を伸ばす。


 お兄ちゃんのことに気を取られている場合じゃなかった。早く食べなきゃ遅刻するし、遅刻なんかしたら2人に申し訳ない。



 そう思いながらも、お味噌汁を食べながらソファに座る涼の顔をチラリと覗く。頬杖をついてテレビをボーっと見ているだけなのにカッコイイ。横顔から目が離せなくなる。



 涼は私のファーストキスの相手で私の好きな人。今思えば、こんなカッコイイ素敵な王子様と幼なじみな上にキスまでしちゃったなんて美味しすぎるよね。



 ここに家を建ててくれたパパとママに感謝の気持ちでいっぱいになるよ。もし幼なじみじゃなかったら、きっと雲の上の手の届かない人でキスどころか話すことすら出来なかったかも知れないもん。 



 涼は覚えているのかな?ファーストキス……。



 ファーストキスと言えば、今日キスをされちゃった夢を見ちゃったんだよね。確か夢の中で私は誰かに頭を撫でられていて。『心地いいなぁ』なんて幸せな気分に浸っていたら、その人にキスをされた。



 顔がボヤけて相手はわからなかったけど、やけにリアルで起きた時に凄く心臓がドキドキした。どうせなら相手が涼だったら良かったのに。



「お前、顔が赤いぞ?」


「え?そう?」



 健に怪訝そうな顔で見つめられ、動揺を誤魔化そうとコップに注いだお茶を一気に喉に流し込む。



 やばいやばい。自分の世界に入り込んでたよ。早く食べなきゃイケないのに。



「熱があるんじゃねぇ?」


「違うよ。ただ、今日見た……」



 そこまで言って途中まで出ていた言葉を飲み込む。



 危ない、危ない。私、何をバカ正直に健に話そうとしているんだろう。今日見た夢の話なんかしたら、健のことだから『欲求不満じゃね?』なんて笑いのネタにしてくる。黙っておこう。



「今日見た、何だよ?」



 そう思ったのに健は私の顔を覗き込んで強い口調で尋ねてくる。答えないと許してくれなさそうな勢い。



 えっと、どうしよう?今日見た雀が可愛くて、とかは変だし。何かいい言い訳とかないかな?



「あ、その……。ね?」


「祐希、早く用意しないと遅刻しちゃうよ?」



 ゴニョゴニョと口籠る私の声を遮るように涼が壁の時計に指を指す。



 やったー!逃げられる言い訳が出来た。涼ナイス!さすが涼だよ。



「あ、ホントだ。私、用意して来る!!」


「あ、おい。ちょっと待て」



 話を中断してリビングを出て行こうとした私の腕を、健は逃がさないと言わんばかりに力強く掴んだ。強い眼差しで見つめられてギクッと体が強ばる。



「あ~、さっきのは何でもないよ?それより私、用意しなきゃ」


「嘘つけ。気になるから正直に言え」


「本当に何でもないよ」



 ニコニコ笑いながらやんわりと腕を引き剥がす。しかし、健は後ずさる私を探るような目で見つめてくる。



 うわぁ、かなり怪しんでる。いつも優しい涼とは違って、健は怒らすと怖いしなぁ。本気で困る。



 うん。でも、今は忙しい時間だし、一旦逃げれば何とかなるはず。ここは強行突破しよう。



「また後でね?」


「あ、おい。ちょっと待てって」



 健が叫んでいたけど、私は無視をして学校に行く準備を始めた。



 本当のことは言えないしね。この後もどうにか誤魔化そう。

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