捧グ者~平凡な少年は邪神と契約し、理不尽を乗り越えるため、身体、精神、あらゆるものを捧げて強くなる~

アルパカすめし

第1章

プロローグ そうして彼は・・・

 この村は平和だった。それほど魔物が多い訳でもなく、天候や地形が激しい訳でもない。


「ああああ!?」「何だよコイツらは!?」


 あの夫婦が喧嘩したとか、誰かの子どもがつまづいて怪我をしたとか、その程度の事が大きな話題となるような、そんな平和な村だったんだ。


「熱いよ~!ママ~!」「もうこの村はお仕舞いだ!奥さんも早く離れないと!」「待って!まだ、まだ息子が家に!」


 そんな村が、俺が生まれてから15年、ずっと生きてきた場所が、火に包まれている。いつも野菜をくれるおばさん、いつもからかってくるおじさんが黒焦げで倒れてる。


「やめて!!お願い殺さな、アガッ」


「何なんだよコイツらは!?」


「おい!お前カルロスだろ!?どうしたんだよその傷!居なくなったから心配したんだぞ?」


「・・・ヴヴゥ」「カルロス?な、うわああ!?」


 しかも火だけじゃない、火が身体に燃え移っているのにまるで火なんて無いかの様に呻き声を上げている人みたいなバケモノ。今も目の前で気さくな兄ちゃんが首に噛みつかれている。


「何でこんなことに・・・俺たちが、俺たちが何したって言うんだよ・・・」


「貴方たちは何もしていませんよ?日々を自由に、気ままに過ごしていただけです。そうですねぇ、強いて言えば、そう、私の研究を試すのに丁度良かった。と言った所でしょうか?この様な場所を提供して下さり誠にありがとうございます」


 二足歩行の虫みたいなバケモノがこの地獄に似つかわしくないのんびりとした口調でこっちに歩いてくる。近付いて来たバケモノはしきりに周囲を見渡し、何かに文字を書いているようだ。


「なるほど、実際に人間が複数居る場所に放つとこの様な動きを見せるのですね。いやはや、今までこれ程の数の人間で試した事は無いですからねぇ。さて、経過観察も程々にして、勇者のサンプルを回収しましょうか」


 暫く文字を書いていたバケモノが不意にそれを止め、こっちに手を出しながら近付いて来た。逃げないといけない。このままだとコイツが、でも足が動かない。動け、動け、動いてくれ。


「さあ、抱えているそれを渡して下さい。いやはや、私はとても運が良い、五体満足の勇者のサンプルが手に入るとは。敵対している都合上どうしても破損してしまうのでね」


 クソッ!コイツがあの化物の玩具にされるのを止めるにはどうすれば良い!?


「奪われるのが嫌ならさ、いっそのこと君の物にしちゃいなよ」「は?」


 突然後ろから白髪の少女が俺に囁く。言ってる意味が分からない、何を言ってるんだ?


「もう忘れたのかい?ボクが上げたチ・カ・ラ?」


「お前に何か捧げることで力を、得られる・・・!?」


 一瞬想像してゾッとする。待て、待ってくれよ、そんな恐ろしいこと、俺には。そんな俺を置いて少女は話を続ける。


「君の想像通りだよ、少年?君が抱えているそのお友達をボクに捧げるんだ。やり方は簡単だ、足元の剣をお友達に突き刺すだけ。そうすれば今の君とは比べ物にならない位強くなるよ?やったね!その力でこの村を襲う化物たちをやっつけるんだ!」


 おい、おいおいおいおい。さっきから何を言ってるんだ?まだ、まだコイツは生きてるんだぞ?ほら呼吸してる、こんなに、暖かいんだ。死ぬわけない、コイツが死ぬわけない。まだ何も始まってない。こんな所で俺たちの夢は終わるのか?


「ほら、早くしないと!捧げ物は鮮度が命だぞ!死んだら力が得られなくなるぞ~」


「何をブツブツ言っているのか分かりませんが早くこちらに渡して下さい。そうすれば苦しまずに、いや、貴方も私のラボに来ませんか?そうすれば貴方たち二人ともずっと一緒です」


 俺は、「さあ!早くやるんだ!」


 俺は、「さあ、共に行きましょう」


 いったいどうすれば良いんだ?「「さあ!」」


 どうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすれば・・・?


 もう何も分からない、考えたくない。俺にはどっちか選ぶなんてできない。


「」


 !?今俺の腕の中で親友が何か話した様な気がした。俺は口元に耳を近づける。一言一句逃さずに聞き取るために。


「何だ!?」「ア、アシュラン・・・君ならできるよ・・・」


 親友の言葉が決断する勇気をくれた。


「あああああああ!」


 この日俺はただの村人から勇者になった。















 この作品の雰囲気を掴んでもらうためにプロローグを新たに加えました。楽しんで頂ければ幸いです。

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