第2話

 カイルは人の事をよく見ている。彼は人の変化を察するのが上手く、真摯に相手の悩みと向き合う誠実さも持ち合わせている。そのため、彼の元には日々悩みを相談する者が後を立たない。


「カイルちゃん、おはよう」


「おはようスペラおばさん、腰の調子良さそうだね?もう大丈夫なの?」


「ああそうなんだよ、この前カイルちゃんが取って来てくれた薬草が良く効いたんだねえ」


「それは良かった!お大事に!」


「アシュランちゃんもおはようねえ」


「うっすスペラおばさん」


「おうカイル!いつもの授業か?」


「ジヤムさんおはよう!そうだよ、今からアシュランと一緒に行くんだ。あ、最近はずっと落ち込んでたのにそのニコニコ顔。やっと奥さんとは仲直り出来たみたいだね?」


「そうなんだよ~あの時は助かった!カイルが仲取り持ってくれなかったらと思うと恐ろしいぜ、またお礼させてくれ!」


「もっと気を付けなよ?いっつもジヤムさんが何かやってるんだからね」


「はい、肝に命じます・・・アシュランもまたな」


「お、おう」


 村の人と挨拶を交わしながらアシュランとカイルは教室へと歩いていく。その後も多くの村人と会話を交わすカイルを見て、アシュランは彼の社交性の高さに驚くばかりだ。


「お前本当に俺と同い年かよ?何で夫婦の仲とか取り持てんの?」


「ふふ、何でだろうね?」


「それに比べて何で俺はいっつも上手くいかねえんだ」


「ふふっ、な、何でだろうね?」


「おい、何か知ってんなら教えてくれよ!?」


「そういう鈍い所だよ」カイルがアシュランをからかいながら道場へ向かう最中、アシュランが立ち止まり問い掛ける。「・・・なあ、俺たち、約束したよな?二人で冒険者になって世界中を冒険するって」


「ん?そうだね!ビギナ村を飛び出して世界中を冒険するぞって二人で約束したよね?やっぱり最初は王都かな?でもダズさんがお前らにはまだ早いって」


「その約束ってまだ続いてるか?」


「え?」


「お前に全く勝ったことない俺が一緒に冒険者とかやっていけんのかなって・・・」以前はまだカイルに何とか食らい付いていたアシュランだが、最近では全く太刀打ち出来ず、模擬戦でも勝てなくって久しい。そんな実力差が大きく開いた二人では、共にやっていく事など、不可能ではないか。そんな不安からアシュランは夢を実現するのは難しいとカイルへと問い掛ける。


「な、何言ってるのさ!僕たち二人なら何だってできるって!そう言ってたのは君じゃないか?」


「そ、そうだよな!あははー、何言ってんだろうなマジで!」


「アシュラン、別に僕は「おーい!お前ら何のんびり歩いてんだよ!授業始まっちまうぞ!?」カイルがアシュランへ真意を問い掛けようとすると、道場の入り口から茶髪の少年、タツカに呼び掛けられてしまった。


「悪い、直ぐ行くわ!カイル行こうぜ!」「アシュランちょっと!」カイルが話を続けるため、アシュランを呼び止めるが、「マジで何も無いって!朝から変な夢見ちまって気分悪かっただけだって!」そう言ってアシュランは道場の中へと足早に向かっていった。


「カイル、俺なんか居たって足手まといだろ・・・」


 カイルは知らない。二人の間にある溝が少しずつ広がっている事を。

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