トラウマを植え付けられた公爵令息から逃げられない

まめこ

第1話

「うわー!良い天気!」

晴天が眩しい。

空が高く、ほどよく気持ちの良い風が吹いている。

「やっぱり外はきもちいいなぁ」


サンドリュー公爵家にて働くメイドである私、ティナは久しぶりに朝早くに外へ出て洗濯当番として鼻歌混じりに洗濯物を干している。


「ティナぁ俺のことも洗ってくれ〜」

顔の両側から筋肉質な腕が伸びてくる。

「きゃあぁぁ!」

思わずしゃがんで恐る恐る見上げると、伸ばしていた腕をだらんと下げるサンドリュー公爵家の嫡男、ルーカス・テオ・サンドリューが私を見下ろしていた。

会わない間にまた身長が伸びた。


「な、なんで・・?」

長期休みで帰省していたルーカス様が昨日の夜にアカデミーに向かったと聞いて、今日から外の仕事を任せられたと言うのに。


「俺、嘘が得意なんだ」

ニコッと人の良さそうな顔で笑いながらしゃがみ、私と目線を合わせてくるルーカス様。


「アカデミーの女どもからベタベタ触られた腕が気持ち悪いんだ。ティナが触ってくれたら浄化される」

「ベタベタって・・いつの話をしておいでですか」

「帰省の前までだから〜・・3週間前?」

また私を揶揄っている。

「俺が帰っている間、一度も顔を見せないなんて酷いじゃないか」

笑顔が消えた顔は、端正な顔立ちをしている分酷く冷たくみえる。



「それは私の采配です。坊ちゃん」

メイド長のスティファさんがいつの間にか私たち2人を至近距離で見下ろしていた。

「またスティファかよ、クビにするぞ」

クビにするぞにドスが効いており、私は体をびくつかせる。

「私の雇い主は当主様です。坊ちゃんではありません」

ルーカス様が立ち上がり、至近距離で睨みつけても表情ひとつ変えないスティファさん。

「誰がここにいるって教えたんだ」

「誰に教えられなくとも、わたくしも本日は洗濯当番ですから」

スティファさんの横に置いてある洗濯カゴには干されるのを今か今かと待っている洗濯物が山になって入っていた。



「・・チッ」

舌打ちするルーカス様にスティファさんが睨みを効かせる。

「当主様が探しておいででしたよ」

「はぁ・・ティナ」

ルーカス様から差し出された手に戸惑う。

できれば触りたくない。

「ありがとうございます。自分で立てます」

「違う」

「え・・」

「坊ちゃん」

「ティナ」

「坊ちゃん!!」

牽制してくれるスティファさんに動じずに手を差し出し続けるルーカス様。

恐る恐る手を握ると強く握り返される。



「またな」

満足そうな顔をすると屋敷の方に歩いて行ってしまった。

「全く油断も隙もない。大丈夫ですか?ティナさん」

「はい、ありがとうございます」

スティファさんに支えられて立ち上がる。

「念のため隠し身の魔石を持ち歩く様に伝えるのを忘れました。ごめんなさい」

「いえ、、持ってます」

「え?」

「不安で、持ち歩いていたんです」

首から下げていた小さな紫色の魔石がついたネックレスを見せる。


特定の相手から身を隠せる隠し身の魔石をルーカス様が帰省する前に、ルーカス様の父親である当主様からいただいていた。

それを付けて、念には念をと屋敷の離れから出ずに出来る仕事をしていたのに。

「当主様に報告しておきます」

スティファさんは呆れた顔でため息をつく。

私はよろしくお願いします。と苦笑いを返すしかできなかった。



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