魔王の転生

 ––––ドロータの町––––


 酒場の店主が、クロアなしで生きていくことを宣言した翌朝、例の建物でクロアの活動休止宣言が行われた。初め困惑していた町民たちも、女神様に見られることが目的だと気づくと、クロアの今までの努力をたたえ、それから一致団結いっちだんけつした。この町の人々は強い。


 そうして、クロアは僕たちとスターレリアまで行動を共にすることになる。ちなみに、ステータスは……。


 クロア ☆女神級アイドル☆

 身長:163cm

体重:女の子にそんなこと聞くのかみゃ!? 

スリーサイズ:B88・W53・H85

Vidual: 5023

Dance: 4701

Vocal: 4896


 なんだこれ。この能力、もう使わないでいっか……。


 ––––スターレリアの街––––


 久しぶりに戻ってきた。やはりギルドのあるこの街は大きい。


「あああああああ!!??」


 着いて早々ロムスが叫んだ。顔が真っ青になっている。


「封印されしキューティクマさんの右足……回収するの忘れた」

「なにそれ? 作り話」

「ロムスの探している謎のぬいぐるみだ。どうして集めてるのかはしらん」

「ふぅん」

「またドロータに行かなきゃ……あれを集めるのが俺の使命なのに……」

「ロムス、ごめん。それなら」


 僕は道具を入れるバッグの底から布製のそれを取り出す。1人でドロータ周辺を狩りした際に回収したもの。むしろ僕の方こそせっかく集めたのに忘れていた。


「町を見張ってるときにたまたま拾ったの忘れた。これ、だよね」

「うおおおお心の友イヅル……!」

「なにこれ。ゴミじゃん」

「言うなクロア。私たちが黙っていたことを」

「良かった……! 集まって良かった……!」


 ロムスは感動か、2人にボロクソ言われたショックか、涙を流した。涙もろいやつだ。


「それじゃ、ギルドに派遣部隊の連絡を……」

「あー、待って」


 クロアは銀色の小さなビンらしき容器に入った液体を飲んでから言った。……何だアレは。ポーション……?


「クロア、別で用事あるから、3人だけで報告は行ってきてっ! よろしくだみゃ♡」


 言うだけ言って1人クロアはパーティを抜ける。まあ、クロアにウインクされては仕方ない。


 ––––冒険者ギルド[スターレリアの街]––––


「……と、いうことだ。だから、もう少しで派遣部隊は送られてくると思う」

「ちょうど、昨日部隊から連絡があったところでした! さっすが転生者さま〜」

「あー、どうも……」


 報告を終えて、僕とロムスとソフィーはその場に腰を下ろす。


「で、これからどうしようか」


 僕はまだ縫い合わされてないぬいぐるみを眺めるロムスに声をかけた。


「僕とソフィーはたぶん、またこのスターレリアでクエストを消化していく。けど、もしロムスがそのぬいぐるみを地元まで持っていくなら、護衛ごえいすることもできる」


 スターレリア周辺は魔物が強い訳ではない。だから僕のチートがなくてもロムス1人で帰られるだろうけど……万が一のことを思うと心配だった。あと、単純にロムスを別れることをさみしがっている自分がいた。


「そうだなあ。護衛してくれたらすげえ嬉しいけどよ。……大丈夫だ! 1人でも戻れるぜ! 今まで散々さんざん迷惑めいわくかけたし、これ以上迷惑はかけられねえ」

「では、ここでお別れか。私はもっとスキルを強化してほしかったが……。予定があるならどうしようもない」

「連絡先交換すりゃあいいだろ! ソフィーにはまだオンカジに手出してもらってねえからな! 俺はあきらめねえ!」

「私の報酬系ほうしゅうけいはそこまで愚かではない。諦めろ」

「その意味分かんない言葉づかいも今日が最後だと思ったら寂しいぜ……」

「大変です大変ですー!」


 パーティメンバー2人の会話を眺めていたら、また受付嬢が慌ただしくやってくる。


「どうしたの? 今いいところだったのに」

「これだから転生者は……。私が大変と言ったら大変なんですぅー!」

「おいおい、イヅル。まずは可愛い子の話聞いてあげようぜ」

「こんなびのはげしいやつはパーティから出ていくべきだ」

「それで、要件とは?」

「よーぉく聞いてくださいね」


 受付嬢は息を呑んだ。


「……魔王が、復活しました」


 一瞬、何を言っているのか分からなかった。そこで一度深呼吸して考え直してみた。しかしやっぱり何を言っているのか分からなかった。


「ごめん、なんて言った?」

「ですから、魔王が復活したと言っているのです」

「……」


 僕はロムス、ソフィーと顔を合わせる。


 せーのっ。


「「「えええええええーーーーーーーーっっ!!!????」」」


     ◆


「魔王は、正確には転生してきました。転生者さんがかつて討伐したあの魔王が……死の世界で転生の洗礼を受け、こちらに舞い戻ってきたのです。この前の地震は、きっと魔王の復活なのです!」

「魔王も転生するの?」

「ええ、本人にその意思があれば、身分の貴賤きせんなく転生することが可能です。あなたのように」

「イヅルって転生者だったん!?」

「どおりで戦闘能力が高いわけだ」

「珍しいなこの世界選ぶ転生者なんて」

「確かに。宇宙にはあれほど転生者が溢れていると聞くが、この世界で本物の転生者は極めて希少だ」

「あはは……」


 それはまあ、女神の言う通りこの世界が不人気だからだろう。そしてこの世界が不人気だと分かって上で転生してきたということがバレれば、いくら戦闘能力が高いと褒められても全く心地よくない。


「それで、転生した魔王はどこに」


 しかしチートにも需要はある。魔王が復活したのなら、前回と同様にチートを使って討伐とうばつするだけだ。


「残念ながら、今回はそう簡単に倒すことは出来ません」

「どうして?」

「魔王も……転生でチートをもらってきたからです」

「マジ……」

「はい。お昼の情報番組でたしかにそう言っていました」


 魔王も、チートとか欲しいもんなの?


「魔王はチートを使って別の世界で新たなチートライフを送るつもりが、生前があまりにも情けなかったので審査に通らず、チートの代償としてこの不人気な世界に戻ってきたのです」

「僕と同じかよ!」

「何故この世界が不人気なのだ? こんなに旨い物をい続けていられるのに……」

「全くソフィーの言う通りだぜ。あとオンカジもやり放題だしな!」


 いやそれが不人気の理由なんよ……。


「ということで、残念ながらこの世界は魔王に支配されている状態に逆戻りしました。それも、チートをたずさえて……。もし、本格的に討伐したければ、ドロータを越えた先にあるフォビドゥン城で話を聞いてきてください。あそこの王族には、古代より魔王の伝説が受け継がれています」

「はあ」

 

 受付嬢は話すだけ話して元の場所へ戻る。質問は受け付けてくれなかった。ロムス追いコンの雰囲気は一転、魔王復活の緊張感におおわれることになる。


「ま、まあとりあえず」


 ロムスがこちらを見る。


「まだまだ俺ら、一緒にいることになりそう……だな!」


 嬉しそうな顔でそんなことを言うので、僕まで嬉しくなった。



「あれれ〜、あんたたちまだギルド居たの?」


 クロアは大量の紙袋をぶら下げて戻ってきた。


「この街ほんとすごいみゃ〜。シャメルもトーチもブッチもみーんなある!」


 「ねね、この装備可愛いよ! ソフィーちゃんに合うかなと思って!」と彼女は何着か装備を取り出す。


「もしかしてブランドのためにスターレリアまで来たの?」

「いや〜それだけじゃないけど。それもあるっちゃある」


 「クロアは布切れに価値を感じるタイプか……?」とソフィーは首をかしげた。


「ねえ、それより。クロア聞いてよ。大事な話があって」

「それソフィーちゃんが可愛くなるより大事!?」

「う、うん」


 圧に屈しそうになるが、僕は話を続ける。


「魔王が、復活したらしい。かつてよりもより強大な力を持って」

「ふんふん……、ええ!? マジで。てか魔王1回倒されてたんだ」


 本当に驚いているのかどうかは分からない。何故かというと戦利品を眺めながらクロアは喋っているからだ。


「それで、もしかして倒しに行こうとかそゆこと?」

「そうなんだけど」


 言われてみてクロアを同行させるかは悩んだ。一緒にいて愉快ゆかいであることは間違いないが、ドロータからスターレリアまでを共に歩いただけの仲だ。それだけで、世界の命運めいうんを賭けた戦いに巻き込んで良いものか、判断がつかない。


「まっ、クロアちゃん、ついていってあげてもいいよ〜。魔物倒したらお金貰えるし! その代わり!」


 クロアはピースを笑顔を作る。


「1つだけこの街でやり残したことがあるから、出発は明日以降にしてね!」


 紙袋を大量に抱えてクロアは宿屋へ戻っていく。ついてきてくれるのは嬉しいが、それにしてもノリがキメラの羽のように軽い女だ。

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