合わない2人

     ◆


 翌日はカンポーの森に出発することにした。ソフィーの支度したくには相変わらず30分かかったけど、ロムスは二度寝にどねのち三度寝さんどねに加えて四度寝よんどねまでするから結局出発は1時間遅れた。


 2人を待つ間にオンカジに手を出してみた。ほんの出来心だ。300,000ゴールド負けた。


 ––––カンポーの森––––


「ソフィーの技弱くね?」


 3人でキラービーを狩っていたらロムスがそんなことを言い出した。まあ、あの技を見れば誰もが思うだろう。


「しかしこれは私のお気に入りだ。知ってるか? ニジクの実で爆発を引き起こしたのは、私が世界初なんだぞ」

「それに何の意味があるんだ?」

「意味しかない! ロムス。キミは世界が発展していく方法を何も理解していないようだ。私のように未知を開拓していく人間がいるからこそ、将来の人類が幸せに暮らすことができる」

「基礎はやったっていいけど、最終的な目標として何か社会貢献こうけんは考えておくべきだろ」

「くっ……」


 ソフィーはタバコを噛みめた。よくもまあスキル1つでここまで口論できるものだと思う。2人のすきを見てキラービーが毒針を向けてきたのでこっそり始末しておいた。……僕にできることこれくらいしかないし。


「まあ、細けえことはいい。それより、ちょっとスキル詳細見せてみろ」


 ロムスはソフィーに向かって手をかざす。上部に所有スキルが表示された。


 ニジク爆弾【威力:極微小ごくびしょう

  発動条件:ニジクの実 + ペイン水溶液(30%) + エジル鉱石

  効果:ニジクの実の発火作用を利用して繰り出される爆破ばくは攻撃。条件素材混合液を放置して10秒後に、50%の確率で魔物に極微小ダメージを与える。


 まあ、弱すぎることを除けばどこにでもあるようなスキルだが。


「スキルっつうのにはな、上位概念と下位概念がある。上位概念っていうのは、『私はMPを消費して魔法を出しますよー』とか、『そもそも魔法っていうのはMPを消費する魔力依存の属性攻撃のことを言いますよー』とかだ」


 ロムスは、ソフィーのスキル詳細をみながら何かを”書いている”。


「次に下位概念っていうのがある。これはな、『この技は威力が中程度ですよ』とか『全体攻撃できますよ』とかだ。……スキルっていうのは、世界が1人1人に与えた能力の記述なんだよ。だから、特定の能力があれば、その一部を人間にだって書き換えることができる。たとえば」


 ソフィーはスキル『ニジク爆弾に関する改正:「放置して10秒後に」→「投擲することで」』を獲得した!


「……なんだ、この謎のスキルは」

「スキルを書き換える、『能力の記述』だ。ソフィーはレベルが低いから上位概念の書き換えはできないが、今持っているスキルをちょびっと強くしてやることならできる。それが今与えたやつだ」

「これはどういう風に使うんだ……?」

「このスキルがあることで、世界に対して『ニジク爆弾の放置』は『放置ではなく投擲』だということを説明することができる。それがソフィーの能力だかんな。そのスキルを獲得してしばらくすると、そいつは元のスキルに取り込まれて、ニジク爆弾が強化されるって訳さ」

「な、なるほど……?」

「つまりだな、スキルを強化するのも、スキルを説明するのも、ぜーんぶスキルな訳! 何故かっていったら、それが世界と俺らの共通言語だから!」

「完全に理解した」

「イヅルはいけそ?」

「お、おう……」

「ソフィーのレベルが上がって上位概念も変えられるようになったら、爆発を回復に変えたり、そもそも道具を合成して戦うというスタイルそれ自体を変えることもできる」

「なんと……!」


 感動するソフィーを尻目に、ロムスはこちらを見る。


「ちなみに……、さっきのキラービーの毒針はこっそり『毒』を『酒』に書き換えて・・・・・、打たれても気持ちよくなれるようにしておいたんだが……。イヅルが一掃いっそうしちまったからなあ。朝から気持ちよくなりたかったぜ」


 僕は苦笑いした。キラービーに刺されてまで酔いたいか……?



「よっしゃー封印されしキューティクマさんの左腕発見!」


 キューティクマさんの左腕はカンポーの森の奥地に向かう途中の道端、という極めて半端なところに放置されていた。知らない人間から見ればただのゴミだった。


「これでようやく4つ揃った……。待っててくれ」


 待っててくれ、の後にロムスは何か名前を呟いたような気がするが、そこまで詳細を聞き取ることはできなかった。ソフィーはそのぬいぐるみも爆弾にしていい!? と嬉しそうにロムスに尋ねていた。


「良かったな、ロムス、これであとは右足だけか?」

「ああ、そうだ。––––最高の気分だぜ。ボロ負けした日にくったくらい嬉しい」

「初めからギャンブルしなければ負けないものを」

「うっせーよ!」


 そうして僕らは無事スターレリアに帰還した。珍しくロムスは喋ることも歩きスマホすることもしないで、楽しそうに人形の破片を眺めていた。



 ––––冒険者ギルド[スターレリアの街]––––


「大変です大変ですー!」


 ギルドに行くとこの前––––ソフィーと契約したとき––––の受付嬢が駆け寄ってきた。「え、可愛い子」と言うロムスに「どうも〜」と彼女は愛想笑いを向けて、僕に対してはまた嫌な顔をした。


「冒険者のみなさん! 大変です! 困ったことになりました」


 受付嬢は慌てふためいている。


「何か事件でも?」

「困っただけだと分からん。具体的な要件を言ってもらわないと」

「まあまあゆっくり聞いてやろうぜ! 可愛いし!」

「お兄さん、優しい……!」


 僕は現金なロムスを睨んだ。ソフィーも同じことをしていた。


「隣町からの派遣はけん部隊が来ないのです!」

「隣町って、ドロータの町?」


 僕はかつてソフィーとロムスから聞いた名前を出す。


「はい! まさしく。……いつもなら、このくらいの時期に拠点同士交流のためスターレリアへ送られてくるのですが……」

「単に遅刻しているだけ、とかではないのか?」


 受付嬢は煙を払いながらソフィーの仮説を否定する。


「いえ、それなら連絡があるはずですし。100年もの間、定期的に送られてきた部隊です。急にただの遅刻をするはずがありません。そもそも、本来なら3日前には着いていてもおかしくないのです」

「それは妙だな……」

「嫌な雰囲気がするぜ」

「この前、大きな地震がありましたよね? もしかしたらそれのせいかもしれないって、私考えていて」


 地震……か。ソフィーが初めて技を繰り出したときに起きた、あの原因不明の。


「結局、あれって理由分かってるの?」

「いえ。ただの自然現象だといいのですが」

「うーんこれは、行ってみねえとわかんねえなあ」


 僕は、ソフィー、ロムスと顔を合わせてうなずいた。


「ちょうど、僕たちドロータの町に要件があってさ、ついでに、確認してきてもいいよ」

「本当ですか! ……さっすが転生者様!」


 この前「これだから転生者は……」って言ったくせに!


「謎があったら解明したいのが冒険者のさがだからね。任せて」

「それに可愛い子が困っている訳だしな!」

「ありがとうございます! ありがとうございます!」


 そうして僕らはドロータの町への出発に向けた準備をはじめる。隣町への遠征なんて初めてだ。興奮してきた。キューティクマさんの右足、来ない部隊の謎、ソフィーの言う謎の施設……。色んなものがドロータの町には潜んでいる。


 まさか、それを全部忘れるくらい奇妙な出会いがあるなんて思ってもみなかったけど。

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