化族
沼神英司
第1話
土曜が来る。
土曜日が好き。
土曜になればママが帰って来る。
ママ… ママ… …ママ… ママ…。
大人しくしてたよ。
息をするのも押さえながら。
…だけど、小さいのが泣くんだ。
薄い粉ミルクじゃむずがって、あたしの平べったい胸を吸おうとするんだよ。
試しに吸わせたら、くすぐったかった。
粉ミルクは日に日に薄くなって、哺乳瓶ごしに透けて見えるくらいになっちゃって、小さいのは泣きやまなくなったんだ。
仕方ないから胸を吸わせたよ。
噛まれた。
あたしの胸は傷だらけ。
泣きやまないから、近所のオジサンに怒鳴られた。
どうしたらいいかわからなくなって、泣き声が小さくなるよう、また胸に押しつけた。
痛。
乳首がちぎれた。
痛。
赤いのがいっぱい流れて泣いたよ。
…でも…声は出さなかった。
ママとの約束だもの。
静かに!居ても居ないようにしてなさい!って…。
小さいのは、しばらくしたら大人しくなった。
泣き疲れたんだね。
なくなった乳首の痕は、ジクジクと赤いのが止まるのが遅くて、何日も涙が止まらなかった。
…白くて甘いミルクなら良かったのに…。
あたしのは赤くて、時々水道から出る茶色い水と同じ味がしたよ。
小さいののお口を赤く汚しちゃった御免なさい。
ちゃんと綺麗に拭いといたよ。
黒いまんまるおめめが見ている。
こいつは泣き虫小さいのより、もっと小さい。
身体は真っ黒けだけど、おめめはいつも濡れているからわかるんだ。
赤くてちっちゃいベロがチロチロ動いて可愛い。
吠えた事なんてないんだ。
ママの言いつけを守るいい子だよ。
お腹をさすってあげると、とっても喜んで、見てると落ち着く。
だけど、舐められるのは嫌なんだ。
口が臭いんだもの。
自分のウンチを食べちゃうからだよ。
餌が少ないからかなぁ…
どんなにおねだりしても餌はあげられない。
大きくなったら困るもの。
ママ、こいつ大きくなったら、首が三つになって、あたし達を食べちゃうんでしょ。
餌はあげられないね。
餌はもうないよ。
土曜日にママが来るまでいい子でいようね。
ケルベロス。
ママ。
ママの胸には天使が居る。
ママの胸に小さいのが引っ付いて、夢中で吸ってるのを見るのが好きなんだ。
あたしも吸いたいな…。
ママの胸に吸いつくと、胸に描かれたとっても優しそうな天使と目が合うんだもの。
優しい天使。
…だけど…翼がコウモリと同じなのはどうしてだろう…。
早く帰って来て。
土曜が好き。
土曜日が待ち遠しい。
今年の夏は長い。
もう10月も半ばを過ぎたと言うのに、昼はイカれた日差しがあたり構わずジリジリと音を立て、もう何日も雨が降って居ないと言うのに、この蒸し暑さは常軌を逸している。
夏が狂って秋を飲み込む中、ベタベタと不快感がまとわりつく夜だった。
女が歩いている。
道は街灯などなく、家と家とに挟まれ、
細くかなり暗い。
そして、かなり長い。
この道は夜になりたてなら、家々の明かりでかなり明るいはずだ。
けれど夜も深まり、家の明かりなどなく、月や星も雲に隠れて明かりらしい明かりなどまったくないのに、道は女の歩く音で、その存在を主張していた。
たどたどしい女の靴音が道を舐める。
女の動きは鈍い。
女は酔っている。
女の履物は夜に溶け、まったく見えないが、
かなり踵の高いヒールを履いているのだろう、気の毒なくらい爪先立っているのが、ふくらはぎの緊張でわかる。
女はふらつきながら、歩を器用に操っていた。
女は黒っぽい服を着ているようで、身体もまた見えない。
むき出しの両太股から下と両肩から下が夜の闇を弾いている。
まるで腕と脚だけが移動しているようで不気味だ。
おぼつかない女の動きを暗さが支えていた。
女の靴音に秋虫の鳴が被せて来た。
この蒸し暑さの中、秋虫は必死で秋を唄う。
女は鬱陶しそうに、大袈裟に靴を鳴らす。
秋虫を踏んでいるつもりらしい。
身体中から汗が滲み出して服がへばりつく。
女は顔の汗を拭うと言うより、両手で洗うような格好で擦り付けた。
濃い化粧がグチャグチャに崩れて間抜けな顔になる。
…ちょっと…気がとがめるが…構うものか…今夜は誰とも会うつもりはない。
今夜は特に暑い。
季節は狂っている。
よろよろ歩きながら、女は自分の靴音と明らかに違う音に気づく。
秋虫の鳴などとは違う。
…かすかな音…だ。
音と言うより気配に近い。
女は振り返る。
歩いた痕跡は黒い静けさに消えていた。
少し進んで、また振り返る。
目を凝らすと、歩いて来た夜の先に、黒く濃い部分を見つけた。
女は酔いで言う事が聞き辛くなった脚を早める。
また、振り返った。
黒く濃い部分が大きくなっている。
明らかに何かが、女との距離を詰めていた。
人か…?
数ヶ月前、わけもなく男に付き纏われた記憶が蘇る。
しかし人にしては黒く濃い部分が、地面に近いところで集まっているようだ。
野犬か…?
野良猫は良く見かけても、今どき野犬などお目に掛からないが、犬だとしたら、かなり大きい。
そもそも犬特有のせわしない息使いが聞こえない。
黒い何か…。
そうとしか言いようのない夜のしこりに見えた。
蒸し暑さで女の身体を火照らす汗が、冷たい汗にすり替わって、中心から震えが止まらなくなる。
こんな時分に酔い覚ましのつもりで、のこのこと歩いている自分を、女は心の底から後悔した。
女は履いていたヒールを脱ぎ、それを両手で握りしめ、尖った踵を突き出して身構える。
黒い気配が酔いの幻覚か気のせいなら御の字、いざとなったら悲鳴を上げればいい。
悲鳴は家々を叩き起こし、明かりが点けば夜のしこりの正体は明らかになるはずだ。
当然、家々から人が飛び出して来るだろう。
人が出て来れば、それを盾にすればいい。
得物がピンヒールの踵とは、頼りなく心細いがしかたない。
女は酔いの幻覚か気のせいであるのを願って目を凝らした。
微妙に違う黒の濃淡から、夜のしこりの輪郭を探ぐる。
何か居る…間違いない。
女は悲鳴を上げるつもりで喉に力を集める。
極度の緊張で強張り、声が音にならず息で漏れて行く。
迫る得体の知れない予想外に、身体は思い通りに動いてくれない。
粟立つ皮膚から冷たい汗が吹き出し、女の不安と恐れを煽る。
制御不能の身体とは裏腹に、瞳はせわしなく動き、眉間から頭の裏に向かって頭痛がした。
かすかに甘い香りが女の嗅覚に紛れる。
香りの元はだいぶ迫った夜のしこりからのように思えた。
甘い香りは、不安や恐れから来る身体の拘束を、一瞬だけ無条件に解く。
女はこのタイミングを見逃さず、力の限り声を上げた。
キィヤァァァァァァァ〜
女は息が続く限り声帯を痛め続ける。
悲鳴は女性特有の高く鋭いキーの線となって、狭い道のかなり先まで静寂を切って行った。
… … … 。
期待に反して悲鳴は夜に呑まれ、家々の明かりが点く事はなく、女の危機に人々が飛び出して来る気配もない。
再び声帯を張ろうと息を集めた。
🎵♬🎶 🎵♬🎶 ♩♩♩ 🎵♬🎶
不意に女の胸が鈍く光り、聴き慣れた音が鳴る。
胸ポケットの携帯が鳴っているのだ。
意識の全部が胸ポケットに奪われる。
決死の悲鳴が無駄になったためか、状況は何も変わってないのに、持っていた携帯が鳴っただけで救われた気になった。
女は、目の前で距離を保つ得体の知れない者の気配が、悪意に変わるのを感じる。
鳴っている携帯を取っている余裕はない。
ただ、これがきっかけで、人頼みだった弱い気持ちから冷静を取り戻す。
震えは止まった。
女は胸いっぱいに夜を吸い込む。
悲鳴を上げるためではない。
息を止め、腹に力を込める。
そして握ったヒールを、夜のしこり目掛けて力任せに投げつけた。
ヒールが転がる乾いた音がする。
女は裸足のまま走り出した。
酔いの脚の運びで、大して走る事もなく街灯のある広い通りが見えて来る。
あの通りに出れば、こんな時間でも人や車はそこにあるだろう。
苦しくなって息を止めていた事を思い出した。
何かが追って来る気配はない。
息を整え、恐る恐る振り返る。
振り返るった先には、今通って来たとは思えない濃く黒い空気の詰まった狭い道と、女の悲鳴にまったく答えてくれなかった家々の静けさが、女にそっぽを向いていた。
どうかしてる…飲み過ぎたわ。
…あのヒール…高かったのに…
女は裸足のまま、明るい通りに向かって歩き出す。
口惜しげにしているが、投げつけたヒールを取り戻しに引き返すつもりはないらしい。
飛んだ酔い覚ましね。
女は脅えていた事など、まるでなかったかのように、いろんな汗でへばりついた服を気持ち悪そうに剥がし、そのままヒラつかせて生ぬるい空気を送った。
🎵♬🎶 🎵♬🎶 ♩♩♩ 🎵♬🎶
再び携帯が鳴る。
携帯を取った。
「お約束の時間をかなり過ぎてますが、何時頃引き取りにいらっしゃいますか?」
年配の優しい女の声が、女の鼓膜を癒したが、迷惑そうに切った。
後めたいが独りでいたい。
携帯を胸ポケットに納めると、再び甘い香りがかすかに漂い、背中はまた言いようの無い悪意でいっぱいになった。
背中の悪意は、夜のしこりなどではなく、
時々顔を覗かせる女のやましさだ。
仕事と引き換えに女は子供を預けている。
甘い香りは無垢な子供の匂いか…。
仕事の疲れで、子供を引き取りに行くのもおっくうで、子供との時間を鬱陶しく感じている。
こんな道を歩いていたのも、元々子供を引き取るせめてもの体裁に酔いを覚ますつもりだった。
けれど、今夜は独りでいたい。
こんな母親、見せたくない…。
酔いが覚めた訳じゃないが、女には、さっき感じたような、夜の濃さに対する不安や恐れなどなくなっている。
どうせ幻視、幻臭、幻聴に決まっている。
背中には薄情な家々と細い道があるだけだ。
今では悲鳴を上げたのを恥ずかしく思う。
あと数歩で街灯の届く通りに出る。
子供の顔すら見るつもりもないのに、幻覚なんぞに構ってられない。
…ん。
…あれ…。
何が起こったのか理解できない。
街灯の明かりを前に、なぜか地面に突っ伏している。
脚がもつれた訳じゃない。
足を取られたのだ。
顔面を強打し、鼻血が出たが、驚きで痛みを感じない。
女がうつ伏せのまま、ズルリと来た道の奥へと動き出した。
強い力が女の両足を捉えて引きずり始める。
両足首と脛の間の辺りから、猛烈な痛みが驚きを凌駕して、恐怖と一緒に脳を刺激する。
つかまれていると言うより噛まれているようだ。
痛みの条件反射で喉に力が入る。
ギィィィヤァァァァ〜!
女はうつ伏せから身をよじって、足元で何が起こっているのか確認しようとした。
圧倒的な力でねじ伏せられ、体勢を立て直せない。
ズリ。 ズルリ。 ズルリ。 ズリ。
引きずられて行く。
両足に痛みが食い込む。
両足…。
大きな野犬なら2匹…そんなはずはない…静か過ぎる…。
まるで夜の空気が両足に、黒い牙を突き立てているようだ。
助けて!! 助けて!! 助けて!! 助けて!! 助けて!!!!!!!!
女の絶叫が、なりふり構わず家々を叩き散らす。
反応がない。
必死のもがきは、まるで観客の居ない一人芝居だ。
助けて!! 助けて!! 助けて!!
助けて!! 助けて!!!!!!!!
女は繰り返す。
痛みは尋常じゃない。
打ちつけた鼻は熱く、血が叫ぶ口に流れ込んで来た。
だいぶ引きずられ、女の声が力尽きてただの息使いになりかけた時、両足の痛みが消えた。
…殺される…。
次は必ず、致命的な攻撃をして来るだろう。
恐怖の予想に、無事で済まないと諦めた時、女の意識がなくなった。
…
…
…
…おい…。
おい…。
…
「おい!あんた!」
耳元がザワつき、身体を振られて女は瞼を開く。
…どのくらい…意識がなかったのか…。
…眩しい。
けれど…朝…にしては…光が冷たい…。
痙攣気味の眉間に皺を寄せながら、闇慣れした目を凝らす。
道を挟んだ家々の明かりが点いて、女の周りを人々が取り囲んでいた。
「ダメだよ!こんな時分にこの道歩いちゃ!ここは人でなしの出る道だよ。」
女を起こした男が言う。
「…人でなし…?」
状況がまったく理解できず、ほうけた顔の女が
口を開く。
男は続ける。
「初めは子供の悪戯かと思ったんだが、時間が時間だし、噛みつくって言うのはね…
犬を使った嫌がらせとも思ったんだけど、この辺りで犬を飼っている家は一件もないんだよ。
女ばかり襲い、誰も正体を見た者がいないからバケモノだって騒ぎになって、バケモノは人じゃないから人でなし。
この道の周辺には防犯カメラもないしね。
あんた、水商売だろ。
すぐそこが飲み屋街だからな。
静かだけど、こんな寂しい道、まともな女は1人じゃ歩かない。
どう言う訳か、女に限って、酔うとこの道を歩きたがるんだよな。
ここらの住人でもなきゃ、男でもこんな時間、歩かないのに。
この道は夜が濃いからね。」
女は立ち上がろうとする。
「ダメダメ、左足はなんとか無事のようだけど、右足首が明後日の方に向いている。
これじゃ立てないよ。
救急車呼んでるから、じっとしてるといいよ」
女を制して男が言った。
取り巻く人々の空気が、女を心配していると言うより、迷惑そうなのが気にかかる。
「ここ数ヶ月、あんたみたいな酔っ払い女の悲鳴で落ち落ち眠れず、ここらの人はウンザリなんだ。
警察に相談したんだが、まともに取り合っちゃくれない。
相手が人でなしじゃね。
バケモノが出るからって、夜だけ通行止めにする訳にもいかないし。
今では女の悲鳴なんて慣れっこなんだよ。
申し訳なかったが…。
あんたの助けが聞こえなかった訳じゃないんだ。
また、間抜けが入って来た、やかましくて寝れないじゃないか、くらいにしか思えなかった。
あんまりしつこいんで、静かにしろと、文句の一つも言おうと思って重い腰を上げたんだよ。
それにしても、これはひどい。
今までは、大した事ないのに大袈裟に騒ぐ酔っ払い女ばかりだったからね。
あんた、人でなしに恨み買うような事でもしたのかい?」
酔っていたとは言え、人でなしだかバケモノだか知らないが、理不尽にこんなひどい目にあわされて、恨みを買う事をしたか?とは無神経にもほどがある。
睡眠を妨げられて迷惑しているのはわからないでもないが、事もあろうに女の命の危機に、わずらわしいの一言で見て見ぬふりとはどうかしてる。
最初の悲鳴で飛び出してくれたのなら、確実にこんな目に会わなかった。
一歩間違えば、殺されていたかも知れない。
「警察も呼んであるから!」
誰かが言った。
女は傷ついた足を投げ出したまま、どこかの家の塀に持たれて、囲む住人の顔を見る。
今夜の蒸し暑さとは真反対の冷たい目だ。
女の気持ちに寄り添う者などいない。
「子供を預けてるの。
おやすみを言わなきゃ…。」
引き取りなどすっぽかして、独りの時間を楽しもうとしたくせに、子供の声が猛烈に聞きたくなる。
無理もない、殺されかけたのだ。
すぐにでも会いたいだろうが、この有様じゃ、せめて声だけでも聞きたくなるのは当然だろう。
「あんた子供がいるのか?
小さいんだろ?
こんな時間まで起きてる訳ないじゃないか。
酔うのも仕事じゃ仕方ないだろうが、自分の都合で寝てる子供を起こすなんて、あんた人でなしだな。」
また、誰か言った。
人でなし…。
両足をめちゃくちゃにしたバケモノと同じだと言うのか…。
女は携帯を握りしめたまま、かけるでもなく、いきなり叫んだ。
おやすみ!おやすみ!おやすみ!おやすみ!
女は叫びながら人目もはばからず、大声で泣き出す。
家々の明かりがさらに点き、道はさらに明るくなる。
「うるせぇぞ!」
どこかの家から怒号がした。
しばらくすると、担架を持った救急隊員がやって来る。
道が狭くて車が入れないらしい。
その後ろを警察が続く。
警察はまたかと言うような態度だったが、女の足の様子に驚いて、態度が一変する。
「これはひどい。
犯人を見ましたか?」
警察が問う。
「これは立派な傷害だ。
あんたら、本腰入れて捜査してもらわないと困るよ。
ここらの住人は、もう何ヶ月もまともに眠れてないんだから。」
警察に誰かが、食ってかかった。
女が担架に乗せられる。
「私も付き添いますので、治療が済んだら詳しい状況、聞かせてください。」
警察が続ける。
女はしばらく泣いていたが、ようやく口を開く。
「帰ってください。
警察にお話する事は何もありません。」
女の意外な言葉に、住人と警察が驚いて顔を見合わせる。
「あんた、何言ってるんだ!
人でなしに噛まれて大怪我してるじゃないか!
あんたの悲鳴で、みんな集まっているんだぜ!」
興奮気味に住人が言う。
ここには、女の危機に集まった者などいない。
騒ぎが収まってから、迷惑そうに重い腰を上げただけのやからだ。
「つまずいただけです。」
女が言う。
「おい、おい、どうしたって言うんだ。
傷害で訴えて、捜査してもらおうぜ。
人でなしに白黒つければ、ゆっくり眠れるんだから。」
住人の誰かが言う。
「つまずいたようには見えませんよ。
とにかく、付き添います。」
警察が言う。
「自分でつまずいただけ、だと言ったでしょ。
帰ってください。
お騒がせしました。」
女が警察に言うと担架がゆっくりと動き出した。
住人がザワつく。
「…人でなし。」
女がつぶやく。
「ゆっくり寝かしてたまるもんですか。
この人でなし!
人でなしの夜に付きまとわれながら、この先も眠れぬ夜を過ごせばいいわ。
あんたらも、人でなしだ!」
運ばれながら女が言う。
「人でなし!人でなし!人でなし!人でなし!」
女が叫ぶ。
叫びは救急車のドアが閉まるまで続いた。
赤色灯が動く。
今日、この道の夜は、季節はずれの狂った蒸し暑さにしか興味がない…。
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