選ばれし者たちの黎明

第三章 - 抵抗の絆１

　エレナ・スミスは、焦りを感じずにはいられなかった。

仮想世界への移住計画が進む中で、彼女の周りでは家族や友人たちが次々と移行していった。

だがそれが正しい選択かどうか、彼女には確信が持てなかった。

ひとつ確かなのは、このままでは彼女自身の存在が消えてしまうかのような不安感に襲われていたことだ。

　エレナが抱く疑念の根底には、アーガスが主導するこの計画に対する不信があった。

記憶転送による仮想世界構築の技術がもたらす未来は、本当に人々の幸福に繋がるのだろうか？

それとも、アーガスの都合に合わせた支配の道具に過ぎないのだろうか？

この疑念が、彼女を地下組織に引き込んだ。

そしてエレナは、その組織の中で仮想社会に関する情報を集め、真実を探ろうと日夜努力していた。

　だが、エレナが次第に悟ったのは、組織の力だけではアーガスに対抗するのは極めて難しいという現実だった。

彼女の参加している地下組織は、各地に点在するレジスタンスグループの一つに過ぎない。

これらの組織はそれぞれが独自の目的を持ち、個別に行動している。

そのため、互いに協力し合うことは稀で、組織間の連携が欠如していた。

結果としてアーガスの圧倒的な力の前に次々と潰されていく様を、エレナは目の当たりにしていた。

「このままではいけない…」

エレナは焦燥感に駆られながら、心の中で自分に言い聞かせた。

「時間がない」

アーガスの計画は着実に進行している。

しかし、現在のように個別に行動しているだけでは、彼らに打撃を与えることすらできない。

エレナは、各地に散らばるレジスタンス組織が団結し、力を一つに結集する必要があると強く感じていた。

「何かを変えなければ…」

エレナは焦りに押しつぶされそうになりながら、手元のデータを見つめた。

彼女の心には、時間が迫っているという思いが強く渦巻いていた。

しかし、焦りだけでは何も解決しない。

エレナは深呼吸をし、冷静に自分に言い聞かせた。

「まずは、団結を呼びかけよう」

　全てのレジスタンスが一つにならなければ、アーガスに対抗することは不可能・・・

エレナはその決意を胸に、新たな計画を練り始めた。

彼女の焦りと不安は、行動への原動力に変わりつつあった。

アーガスに打ち勝つために、エレナは立ち上がることを決意した。