第二章 - 虚実の防壁5

 カイルはどうにかデータセンターへの攻撃を阻止したものの、仮想世界に仕込まれたウイルスの脅威は依然として続いていた。

彼とエミリーは、再びウイルスの除去作業に取り組んだ。


 一方、仮想世界内ではウイルスの影響が徐々に現れ始めていた。

リアルワールドの人々の記憶をもとに構築された仮想世界の都市は、突然のシステムエラーや予期せぬバグに見舞われ、混乱が広がっていた。

仮想世界に住む人々は日常の中で次々と異常を目の当たりにし、不安を募らせていたが、本当の原因を知ることはなかった。


 リオ・タカハシもその一人だった。

彼女は仮想世界での大学生活を楽しんでいたが、最近の異変に不安を覚えていた。

「なんだかおかしい…。今朝も通学中に街の景色が一瞬消えたような気がする」

とリオは友人に話した。

友人たちも同様の経験をしており、皆が何か大きな異変が起きていることを感じていた。


 その頃、カイルとエミリーはウイルスの拡散を食い止めるための最終的な策を講じていた。

「エミリー、このウイルスは自己修復機能を持っている。通常の手段では完全に除去するのは難しい。だが、この部分の脆弱性を修正した上で、仮想世界全体を一時的にシャットダウンし、システムをリブートすれば、ウイルスを完全に消去できるかもしれない」

とカイルが提案した。


 エミリーは驚いた表情を浮かべた。

「仮想世界をリブート? でも、それは内部にいる何億人もの人々にとって大きな影響を及ぼすわ。パニックになるかもしれない。それに、シャットダウン自体が前例のないことだわ。何が起きるか全く予測できない」


 カイルは深く息を吸い込み、決意を固めた。

「それでも、今やるべきことだ。全員の安全を守るためには、一時的な措置が必要だ。ただし、最悪の事態に備えて全てのバックアップシステムをチェックし、問題が起きた時の対策も整えておこう」


 彼らは仮想世界の運営者に連絡を取り、シャットダウンの計画を伝えた。

運営者たちは初めは反対したが、カイルの説得により最終的に承諾した。


 シャットダウンの時間が近づくと、カイルとエミリーは仮想世界全体を監視しながら、住民たちが異常に気づかないように慎重に操作を進めた。

住民たちは日常の中で異変を感じながらも、その原因を知らされることはなかった。


 リオも異変を感じていた。

「最近、変なことが多いね。昨日も授業中に教授の声が途切れたし、道を歩いていたら一瞬景色が揺れたような気がした」と友人に話した。

友人たちも同じような体験をしていたが、それが何を意味するのかは誰もわからなかった。


 シャットダウンの時間が来ると、仮想世界は一瞬にして静まり返り、全てのシステムが停止した。カイルとエミリーは一斉にシステムを再起動し、ウイルスの除去作業を続けた。何時間もかけて全てのプロトコルをチェックし、ウイルスの痕跡を一つ残らず消し去った。


「これで終わったはずだ。すべてが正常に戻ることを祈ろう」


 仮想世界が再びオンラインになると、住民たちは何事もなかったかのように日常生活を続けている。


 リアルワールドでは、カイルとエミリーが達成感とともにお互いの肩を叩き合った。

「一難去ってまた一難だな」とカイルが笑い、エミリーも微笑んだ。

「ただ、今回のレジスタンス組織は小規模だったが、各地に散らばる組織が団結したとき、より大きな脅威となる可能性があるな」

カイルはふと外の窓を見つめ、この静けさの中に小さな胸騒ぎを感じ取っていた。

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