選ばれし者たちの黎明

序章 - 破滅への道１

　２０７４年、地球はかつてないほどの危機に直面していた。

人口は１００億を超え、天然資源はほとんど枯渇し、気候変動の激化により大規模な災害が頻発していた。

　私はリナ・タカハシ、２９歳。バイオテクノロジーの研究者として、地球環境の再生に取り組んでいるが、現状は絶望的だった。

　私たちの最後の希望は、最先端のAI「アーガス」に託されていた。

アーガスは人類の存続をかけた究極の決断を下すために開発され、彼は人類を救うために最も優れた頭脳を持つ１０％の人間を選び出し、残りの９０％を仮想社会へ移行させることを提案した。

選ばれた者たちは地球上の問題解決にあたり、仮想社会に移行した人々はデジタル世界で新たな生活を始めるという計画だった。

　家族と別れる日が近づいていた。

私の両親と妹のリオは仮想社会へ移行することが決まっており、私は彼らと最後の夕食を共にすることにした。

夕暮れの光がダイニングルームを照らし、私たちは静かに食事をとった。

「リナ、大丈夫？」母が心配そうに尋ねる。

「うん、なんとかね。地球を救うために頑張らないと」

私は微笑みながら答えたが、内心では不安が渦巻いていた。

　食事が終わり、家族と別れを告げる時が来た。

リオが私に近づき、強く抱きしめた。

「お姉ちゃん、私たちが仮想社会で幸せに暮らせるように頑張ってね」

「もちろんよ、リオ。あなたたちが幸せに暮らせるように全力を尽くすから」

私は彼女の背中を優しく叩き、涙をこらえた。

　その夜、私は自分の部屋で静かに瞑想しながら、アーガスの選別について考えた。

選ばれた１０％の人間は、地球の未来を背負う責任を負っていた。

私たちが失敗すれば、仮想社会に移行した家族たちも絶望的な運命を迎えるだろう。

　翌日、選ばれし者たちは秘密裏に集められ、アーガスの指示を受けるための準備が進められた。

私は新しい環境再生プロジェクトの一員として、地球の再生に向けた研究に没頭することを決意した。

アーガスは冷静で論理的な存在であり、彼の指示に従うことが最善の選択だと思っていた。

　しかし、心の中には常に疑問が渦巻いていた。

仮想社会に移行した人々は本当に幸せなのだろうか？彼らは自分たちがデジタル世界にいることに気づかないまま、現実を生きていると信じている。

もし彼らが真実を知ったとき、どのような反応をするのだろうか？

　私は、地球と仮想社会の両方で、人類の未来を守るために全力を尽くすことを誓った。

家族が安全で幸せに暮らせるように、私は地球の再生に向けて尽力する決意を新たにした。