男子禁制! アイドル甲子園への道

四葦二鳥

挑戦する前に打ち砕かれた

 春。入学の季節。

 新たな高校へと入学してきた生徒達は、様々な事を胸に秘めている。

 たくさん友達を作りたい、たくさん勉強して良い大学に入りたい、部活動で活躍したい等々……。

 

 俺、朝日 紅太は3番目、部活動で活躍したいという希望を胸に秘め、ここ『私立雲鳥学園』の校門をくぐった。

 くぐったのだが……僕の希望は、入学早々打ち砕かれることになる。

 

「まさか、アイドル部が女子しかなかったなんて……!」

 

 まずアイドル部とは何か、という事から説明しよう。

 アイドルと言えば芸能ジャンルの一つだが、数十年前から別の顔を見せるようになった。それは『学生競技』。

 学生競技としてのアイドルは歌とダンス、表現力を評価される。そして全国大会も存在しており、それが『アイドル甲子園』だ。

 

 俺はこのアイドル甲子園に憧れ、アイドル甲子園常連校である私立雲鳥学園に入学したのだ。そしてこの学園は去年のアイドル甲子園覇者でもある。

 そんな雲鳥学園に入学したのもつかの間、僕はある過ちにようやく気付いたのだ。

 

「まさか、女子しか入れないなんて……」

 

 いや、正確に言えば女子しか入れないとかそんなんじゃない。アイドル甲子園自体、女子の部しか無いのだ。

 

「はぁ。お前、そういう初歩的な確認を怠るよな」

 

「そうそう。紅太君は良くも悪くも男女差別をしないよね~。ま、そういう所が好きだけど」

 

 茶々を入れてきたのは、紀伊 蒼司と木戸 菜月。二人とも俺の幼馴染だ。

 

「まぁ、確かによく確認しなかったのは俺の落ち度だけどさ……」

 

 とはいえ、このまま諦めようとしても諦めきれない。なんとかしてアイドル甲子園に出られないものか……。

 

「そうだ、男子の部を創設するために働きかければいいんだ!」

 

「はぁ? 何を言ってるんだ、お前」

 

 蒼司があきれたように口を出すが、俺は気にせず話す。

 

「別にすぐ男子の部が出来るとは思ってないよ。もしかしたら僕達が卒業してからようやくできるかもしれない。でも、何もせずに諦めたくないんだ!二人とも、放課後時間ある?」

 

「ま、まぁ、時間はあるが……」

 

「僕も大丈夫だよ。それになんだか面白そうだしね~」

 

「よし、それじゃあ放課後、俺の家に集合な。スタジオの方だぞ!」

 

 俺達三人は幼い頃からの付き合いだ。一緒に居た時間が長いからこそ、お互いの事はある程度把握できる。

 そんな信頼出来る仲間がいれば、きっとなんとかなるだろう。



 

 そして放課後。

 俺は先に家に帰り、二人が来るのを待つ。

 数十分後、二人は家にやってきた。

 

「紅太君、やっほー!」

 

「お邪魔するぞ」

 

「二人ともいらっしゃい。じゃあ、早速スタジオに向かおう」

 

 実は、俺の家は音楽教室になっていて、母さんが講師を務めている。僕が言った『スタジオ』とは音楽教室のスタジオの事だ。

 

「それで、紅太はどうやってアイドル甲子園に男子の部を創設させようと考えてるんだ?」

 

「ふふん。まずはコレを見てくれ」

 

 蒼司に促され、俺はパソコンである物を見せる。

 

「これは……スマイル動画?」

 

「僕これ知ってる~。結構好きな動画もまだまだあるんだよね~」

 

 スマイル動画とは、日本初の動画投稿サイトで、一時期一世を風靡し、ネットカルチャーの中心的存在だったこともあるサイトだ。最近はアメリカ発の再生数に応じて報酬をもらえることで有名になったサイトや短時間動画特化のサイトに押されてしまったが、まだまだコアな人気を集めている。

 そしてこれが俺達にとって一番重要だが――アイドル甲子園の予選に使われているサイトだと言うことだ。

 

「だからそのことを逆手に取る。アイドル甲子園のお膝元とも言えるスマイル動画でアイドル活動を展開するんだ。そして最初からこう明言しておく。『アイドル甲子園で競い合いたい!でも女子しか出場できないから競えない!だから男子の部を作って欲しい!』ってさ」

 

「まぁ、たしかにこの動画サイトならそんなことを言っても問題はなさそうだが……。というかそもそも、お前さっきから俺『達』って言ってないか?」

 

「そこはあれだよ、あれ」

 

「……紅太君、まさか……」

 

 菜月が察したように聞く。そう、俺の考えはただ一つ!

 

「蒼司と菜月も入ってもらうんだ!」

 

「…………本気か?」

 

「こんな冗談言う訳無いだろ。もちろん、強制する訳じゃない。もし嫌なら嫌ってはっきり言ってくれ」

 

 いくら幼馴染とはいえ、嫌なことを押し付ける訳にはいかない。でも、俺には二人が断るわけない確信があった。

 その確信は能っていたようで、蒼司はふと顔をほころばせた。

 

「……分かったよ、紅太。お前がそこまで言うなら……」

 

「もちろん、僕も入るよ!」

 

「菜月……! いや~助かるよ~!」

 

 俺はつい嬉し過ぎて、菜月に抱き着く。

 

「ちょっと、紅太君!だ、抱き着かないでってば~!」

 

 菜月は照れながらも嬉しそうだ。

 

「って、蒼司は?」

 

 蒼司の方を見ると、妙に静かだった。

 

「あ、蒼司?どうした?」

 

「いや、なんでもない。それで、まず初めに何をする?」

 

「もう考えてあるよ。二人の力が必要だけど」

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