一方、深井の指示を受けたメンバーはシンクタンク所有の車4台に分乗していた。1台目の助手席で紗良はしきりにスマホに目を落とし指先をくるくる動かしていた。

 画面上の動く赤い点が、安村の位置を示していた。深井が眺めていたのと同じモニター画面である。

 電話着信が入った。深井からだった。


『奴は、池袋を後にして東へ進んでいるようだな』

「既にあたしたちは追跡を開始しています」

『うむ、それでいい。こっちは大川がやられたから、このまま一旦、北池のセーフハウスに入る』

「わかりました」

 電話は切れた。


 街頭の防犯カメラが十数分前に、安村らしき男がタクシーに乗り込む姿を捕らえていた。その画像は、紗良のスマホにも転送されてきた。

 フルフェイスのヘルメットに革のライダースジャケット、革パンツ、オートバイブーツのバイカーファッション。

 この高温で蒸した夏場にあって見た目にも暑苦しい、全身黒ずくめの大男。

 しかも腹の部分だけがやけに前に飛び出している。その目立ちすぎる格好に、紗良は半ばあきれるも、戦慄もしていた。


(あの男、まともではない)

 現に深井に付き従っていた男らを、拳銃を携帯していたのにも関わらず二人とも一瞬で撃退し、まんまと逃走に成功している。

 深井の深謀遠慮がなければ、今度のことでさらに警戒心を強くした安村はもう二度と捕捉できなかっただろう。


 かつては学友だったが、在学中から同じゼミにいたというだけで特に大した縁があったわけではない。

 共有する思い出がほとんどない分、安村に対する温情は特に持ち合わせてはいない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る