店の中に一人残された悠真は、出入口の外へ飛び出した。

 エレベータに向かって歩き去る四人の男の背が見えた。

 三人に取り囲まれた安村は、ひと際大柄で悠然としている様子である。

 その天井に届きそうな巨大な体躯が、エレベータホールの手前辺りで足をひねったのか、あるいは滑らせたのか、ほんの少しよろめいて見えた。


(……あ!)


 思わず悠真が声なき声を上げた。と同時に、安村が両手の拳を固めて左を歩くリーゼントの男の腹を、目を見張るスピードで続けざまに殴打した。


「おあたたたたたたたたたたた!」 


 男が壁に打ち付けられ、呻きながら床に崩れると、その反対側に立っていた眼鏡の男が慌てて懐へ手を忍ばせた。

 その右手で小型拳銃を突き出して構えようとしたが、安村はそれをすぐさま蹴り上げた。

「こんな至近距離で拳銃なんか役に立つもんか! この素人めが!」

 

 すぐさま深井も反撃を試みるが、驚きと焦りで、やはり拳銃が手につかない。


「へっ! あばよ!」

安村は丸々に太った見かけによらず素早い動きで、すぐそばの扉を押し開けて転がり込んだ。


「待て!」

 拳銃を拾い上げたメガネ男が追いかけようとするも、その金属製の扉が勢いよく閉まり顔をぶつけて、眼鏡が吹き飛んだ。

 深井が駆け寄り扉のノブを握ったが、どうやら開かないようである。

 眼鏡男が代わるが、力任せに押しても引いても開かない。

 ふと見上げた深井はうめいた。

「非常口、か? ここから逃げる気だな。内側から鍵を掛けやがった」


 眼鏡男は拳銃片手に、エレベータの前に滑り込み、ボタンをガチャガチャと乱暴に押す。

 その一部始終を目の当たりにして、悠真は「カフェ・マドリッド」の前で呆然と立ち尽くしていた。

 エレベータがすぐに来ないらしく、深井が苛立ち紛れにその扉に蹴りを入れているのが見える。

 その脇で腹をおさえながら電話を掛けていたリーゼントの男が首を振った。


「大川、電話に出ません!」

「何だと? あいつはいつもいつも、本当に使えん奴だ!」

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