おもちゃの指輪!

崔 梨遙(再)

1話完結:900字

 僕がシンガポールで暮らしていた4歳頃。僕が近所の公園で時間を潰すことが多かった。僕は当時、非常に内向的だった。外に出るより、部屋で本を読んでいる方が良かった。


 だが、親はそんな息子を心配する。強制的に公園で遊ぶようにと、僕を時々追い出した。1人では危ないので、兄姉も一緒のことが多かった。兄姉は上手く溶け込んで遊んでいたが、僕は兄姉と歳も離れていたし、ベンチで本を読むことが多かった。


 すると、声をかけられた。


「一緒に遊ばない?」


 振り返ると、女の子が2人。1人は日本人、1人は色黒で日本人ではないようだった。日本人は典子、外国人はジェニーという名前だった。


「何をして遊ぶの?」

「来て!」


 公園の端には雑草地帯があった。中には、黄色い花も混ざっている。僕は野花で冠を作らされた。不器用な僕は、なかなか上手く出来なかった。


 ようやく1つ、冠が作れた。すると、日本人じゃない方の女の子に言われた。


「それ、ほしい」


僕は女の子に出来損ないの冠を渡した。すると、野花で束ねられた小さな花束をもらった。


「崔君、ジェニーは崔君が好きなの」

「え! そうなの?」


 ジェニーは顔を赤らめて俯いた。



「お母さん、おもちゃの指輪1つ買ってよ」


 僕は母におねだりして、おもちゃの指輪を買ってもらった。公園でジェニーに渡した。ジェニーは喜んでくれた。


「どうして、指輪をくれるの?」

「この前の花束の御礼、おもちゃだけど」


 典子に通訳してもらいながら遊んだ。その時間は、結構、楽しい時間だった。だが、別れはやって来る。僕は日本に帰らなくてはならなくなった。


「日本に帰る」

「いつ? いつ帰るの?」

「来週。もうここには来ない」


 典子はジェニーに通訳した。ジャニーは泣き始めた。僕は典子とジェニーにペンダントを渡した。


「今まで、ありがとう」



 ジェニーは僕に抱き付いてきた。僕は生まれて初めて女の子とハグをした。でも、今頃は2人とも、僕のことなんか忘れてるだろうなぁ。僕にとっては、シンガポールの数少ない良い思い出の1つだったのだけれど。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おもちゃの指輪! 崔 梨遙(再) @sairiyousai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る