第62話

『…あぁ。大丈夫か?』






さっきよりも少し柔らかくなった感じの声で、そう返ってきた。





心配するような言葉を言われるとは思ってなかったから、びっくりする。





気の所為か、それ以上近付いて来ようとしない牧谷さんに、距離が離れているからかそれ程恐怖心は湧かなかった。






『だ、大丈夫です。何もされなかったので…。』






『そうか。…ならよかった。』







安心したように、ふっと小さく口角を上げて笑った牧谷さんに、思わずドキッとした。





この人…、笑うんだ。





初めてちゃんとこの人の顔を見たけれど、物凄く綺麗で整った顔をしている。所謂”美形”と言った方が正しいかもしれない。





お兄ちゃんも真於くんも整った顔をしているとは思ってたけど、この人はそれ以上かもしれない。この顔だったら、女の人にモテるのも頷ける。





でも、さっきの女の人達みたいに、面倒事に巻き込まれるのは確実だろうから、これ以上は絶対に関わりたくない。







『それでは…、私は教室に戻りますね。』






そう言いながらもう一度ペコッと頭を下げてから、早くここから立ち去ろうと一歩前に足を踏み出した時、






『…っ、』






ズキンッ、と背中に痛みが走り、その痛みで小さく声が漏れてしまった。

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