闇に蠢く血 ~ ヴァンパイアに関するドキュメント ~

博雅

FMラジオ 公開録音

ラジオ番組『オールナイト・ハポン』

聞き手:オーディオ・ジャパン代表:デニー小笠原おがさわら 

話し手:Thomas Dickens

日時:2021月 6月25日


☆☆☆


「"それでは今晩初めの一曲は、はるばる日本からやってきた <昼遊ひるあそび> による『呪い』です。どうぞ" ──それが私の最初のDJとしての台詞でしたね。あれはちょうどお日様が彼方で沈みかけていた、糸引き雨の日でした。で、トラックミキサーの向こうには日本から来たゲストがギターを持って──<昼遊び>の、『ネギま』ちゃんでしたね。スタンバってたって恰好ですね。しかし、待てども待てどもギターのストロークのスの字も出ない。訝しがった私が、防音室に向かおうとしたその時です。もう一人のゲストが、文字通り私の服の袖を取って引き留めました」


「ええ、驚きましたよ。ちょっとまてよ、と防音室に目を移すか移さないか、その時にネギまちゃんは自分のおでこを防音ガラスの窓に叩きつけてました。蒼い血でしたね。次いで、ギターを破壊して、その破片でガラス窓を破ろうかとしていたようです。不幸中の幸いってのはこういう事を言うんでしょうね、いつまでやっているんだろうかと悠長ゆうちょうなことを考えていましたが、ゲストその2の井下香水かおりさんって女性の方でしたね…その人と逃げることにしました。録音なんて当然途中放棄です」


「私は彼女の手を取り、何故かDJルームにあった金属バット──そうそう、思い出した、高校球児をゲストとしてお呼びして、プレゼントとして頂いたやつだったアレですね──ともかく、そのバットで、胡散臭うさんくさい人間は片っ端から始末していきながら、外の世界に出ることにしたんです。思えばこれが浅はかでしたね。なんの移動手段も持たず、ほぼ丸腰で外に出たなんて。エスコートされた香水ちゃんも、災難さいなんだとあきらめろ、と言いたげな表情だったのを覚えています」


「唯一の救いは、ラジオ局の前にいつも乗りつけている私のインパラ。大急ぎで香水ちゃんを載せて車を出しました。ウィンドゥには、ぱら、ぱらと雨がかかっていました」


「逝く先々で、私は携帯ローカル局用端末で放送を続けました。シェルター#13が何区の何番地にあるから、そこに集まるように、希望を捨てないように、とメッセージを香水ちゃんにアナウンスしてもらいながら、街を流しましたね」

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