第15話 黒星の噂

 俺は今、骨を震わす珍妙な奴と宝箱の中に身を潜めている。

 クエストの進行方法も分からず途方に暮れているわけだが、外からうっすらと話声が反響し聞こえてきた。


「おい、こんなところで寝るんじゃない」

「ンゴ!? こここ、これはジーヴァ様! このような場所になんのご用件でありますか!?」

「見回りである。それで、貴様はなぜこのような場所で寝ていたのか?」

「え? ええとですね。実はそのう……そうであります! スケルトン共がうるさいので注意をしようとしたら、突然背後から……そう! 異星人が卑怯ひきょうにも背後からおそってきて脱走を!」


 ……おいおい、下手な嘘つきやがって。

 よっぽど声主のジーヴァってやつが怖いのか。


「ほう。威勢のいい異星人が収監しゅうかんされたものだな」

「へ、へへ……そのようで」

「ふむ、威勢のいい異星人か。我ながらなかなかではないか。はっはっはっはっは」

「わ、わっはっはっはっはっは! まったくそのとおりでございますね」


 引きつって笑ってんじゃねえ。お前と同レベルだろうが! 

 

「どうせ逃げられはせんからといって、あまり気を抜かず、見つけ出して牢屋に放り込んでおくのだぞ。ところでもう一名いちめい異星人がいただろう?」

「え、ええ。そいつはくたばりましたが……」

「ふむ。我々妖魔封印の糧にもならぬ者共など、生かしておく必要はない」

「ごもっともですな」

「しかし、次々とこちらの星へ送られてくる異星人共は、若い奴らばかりだな」

「はぁ。取り調べを行ったんですがね。全員が口をそろえて大学生? だとか言ってましたぜ。異星人の集団はどうやら狂信者のようで、権力者により命を捨てる覚悟で無理やり送り込まれているようです」

「先に攻めてきたのは奴らだ。そして我々の同胞を多く殺した。同じ報いを受けるのは当然だろうな」

「それが、そんなつもりは無かっただの、きちんと話し合いをすべきだ、だのと都合のよいことばかりを言っているようです。そんなに死にたくないのかと牢屋に放り込んでいたら、勝手に死んでいく始末で」

「餌を与えていないのだから時間が経てば死ぬであろうにな。さて、兄上に報告してくるとしよう」

「へい。お気をつけて」

「そうだ、貴様には不始末の罰として仕事を与えよう」

「ええっ!?」

「なに案ずるな。異星への侵略を開始するにあたり、重要な客人を迎え入れるのだ。そのための先陣として大層な人物が来る。貴様はもてなし準備としてカルメルタザイトチェーンの原料である、ノード黒霊鉱をいくつか用意しておけ。後で取りに来る」

「わ、分かりやした! ちなみにそのお越しになる先陣とは……」

「ふっ。貴様も聞いたことくらいはあるだろう。妖貴戦、黒星のベルローゼだ。油断ならぬ相手だが……いきなり敵対するような真似はすまい」

「ベベベ、ベルローゼですとぉーー!?」


 ……こいつはありがたい。

 このクエストの本筋が今の話で予想が立った。

 しかし随分と凝ったクエストだな。

 その妖貴? ベルローゼってのは相当な強さなのか。

 俺、まだレベル十にも到達してないんすけど。

 出くわしたら即ゲームオーバーじゃねーのか。

 

 今のうちにクエストについて整理してみよう。

 このクエストはクラシッククエスト。

 クラシックってのはこなして当然、みたいな意味だろうか。いや、少し違うな。

 俺はリリに背中を押され、大学に入ったらクエストが開始された。

 牢屋でいきなりのスタート。そこには大学生が捕らえられていたという。

 その大学生らは強制的に異星に攻め込むよう命令を受け、異星人の仲間を殺した。

 異星に行くのが当たり前と命令を受けた奴らの……魂に成り代わり、なにかをこなせ、というクエストだと思う。

 そして、何かってのは地球に撃ち込まれたあの鎖。その秘密を探るために利用された無念の魂の一つひとつを疑似体験する。

 それが魂のくびき。束縛された魂……かな。

 つまりこのクエストの目的は、カルメルタザイトチェーンの原料とか言ってたノード黒霊鉱を手に入れ持ち帰ること……か? 


 そのノード黒霊鉱こそ魔法を使うための鍵? 

 大分頭の中がまとまってきた。

 俺の得意なのは頭の中で考え、整理したり記憶したりすることだ。

 一人ひとりで冷静に考える時間はやっぱ大事だ。

 

「おい、行ったようだぞ」

「……一人ひとりじゃなかった。こいつはどうすりゃいいんだ? クエストに関係してんのか?」


 宝箱からゆっくりと頭を上げ、隣を見ると節穴が開いた骨がいるわけで。

 俺に向けてサムズアップしてくる。

 止めろ! そんな行動どこで覚えやがったんだこの骨! 


「行くんだな」

「ああ。ここでじっとしてたら帰れねーし」

「だっはっはっは! レウスさんがそばにいれば大丈夫だ。な?」


 来るなっつっても絶対来るよな。

 だまってうなずくだけはしておこう。

 ってあれ? レウスさんってこんなうっすらした半透明な存在だっけか? 

 いや……「忘れるなよダッシュ。俺とお前は友達、いや、相棒だ。ちゃんとそばにいるから、呼ぶんだぞ。だっはっはっは! またいっぱい冒険ができるな。楽しみにしてるぜ、相棒!」

「おい、消えちゃうのかよ!? 今から一緒いっしょに行くんじゃないの……か」


 最後にまたサムズアップして、レウスさんは目の前から姿を消した。

 なぜだろう。知り合ったばかりなのに、すごく寂しい気持ちになった。

 長年連れ添った奴が消える。そんな感覚。

 しかも相棒ってなんだよ。まったく……散々勝手なことばかり言って消えるとか。あれ、なんか落ちてる。半透明な骨? 犬がくわえて喜ぶような形の……。


「ん? なんかメニューが出て来た。なんだこれ」

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