第14話 当てちまった

「この異星人がぁ!」

「異星人はお前だろうが!」


 牢屋の中に入って来た赤い鎧の魔族野郎にタンカを切る俺。

 基本スキルをお見舞いするが……真正面からじゃ全然効いてねえ! 


「ゲハハ。ちっとも効かないぞ異星人。今度はこっちの番だ」


 大振りに拳を振るってくる赤鎧野郎。

 敏捷性を上げた影響なのか、はたまたこいつが遅いのか分からないが、攻撃がのろく見える。

 奴は両手でブンブンと拳を振るうが簡単に避けられる。

 ここはこいつの動きを観察することに集中しよう。


「さっきまでの威勢はどうした異星人!」

「くっそつまらねえ親父ギャグかましてんじゃねー!」


 思わず突っ込んじまった。

 そういやこいつ、武器を持ってないな。

 仮にも牢屋を見張る奴なら武器くらいあってもよさそうだが、舐められてるのか。

 こいつの動きは単調。

 拳の振るい方一つ見ても雑で、力任せに振りかぶり、右ストレートを打ち放つばかりだ。

 ぶっとい腕でさぞ当たれば痛いんだろうよ。

 ちょっとずつ引き付けて……鉄格子の魔正面まで来た。


「おらどうしたデカブツ。そんなしょぼいパンチじゃ当たらないぜ。止まってる相手しか殴ったことないんじゃねーの」

「この異星人がぁーー!」


 簡単に挑発に乗ってくれた。新米兵士か、これ。

 両手で俺をつかみにかかるようにして……また抜き! からの、「雪影!」


 雪影は相手に影を踏ませることで転倒を発動させるスキルだ。

 相手に意図される判定を受けると発動しないが、こんな風にスキを作ればキレイにはまるし敏捷性もいかしやすい。

 赤鎧魔族野郎は大がかりに頭からこけそうになる。

 そしてさらにそこへ裏回りした俺が、思い切りタックルだ! 

 頑丈な鉄格子が見る影もなく打ち破られた。


「シャッハァーー! ざまぁみろこのデカブツが……って気を失いやがった。なんか持ってねーかな。あさっとこ」


 突然の牢屋スタート。今のところクエストへの手がかりが何もない。不親切過ぎるだろ、このクエスト。これもサポート機能を利用しなかった俺のせい、か。

 こいつの懐をあさってたらちゃんとアイテムがあるじゃねーか。

 全部いただいておこう。へっへっへ。これはファイトマネーってことで。

 相手の所持品を奪う勇者ってやっぱり悪い奴だよなぁ。

 ……襲ってきた相手だし、なんもペナルティーとかないよな? 

 所持していたのは牢屋の鍵束と思われるもの、それからカーネの詰まった袋、回復薬が二つ。

 これがどれほどいいものか俺には分かる。

 なにせここは地下牢だ。

 鍵束と地下牢。この組み合わせはやばい。


「おらおら、片っ端から牢屋の鍵を開けてやるぞ! ……ってあの。やっぱなんでもないです」


 直ぐ正面の牢屋の鍵を開けようとしたんだ。

 助けたお礼がもらえる。そんな甘い考えを抱いて。

 でもな、目の前の牢屋にいたのは骨だった。

 その隣も骨だ。

 さらにその隣も骨だ。

 骨が動いてる。

 これだけ騒いでも静かなわけだよ。

 骨じゃしゃべらねーもんな。


「おいお前!」

「げっ。見つかっ……あれ? やっぱり骨しかいないな」


 牢屋の突き当りから声が聞こえた気がした。

 その場所までいって中を覗いてみると……あった、あったよおい! 紫色の宝箱だよ。

 アイテムとして入手した宝箱じゃねー。ガチで置いてある宝箱だ。しかもでかい。

 チュートリアルで手に入れた宝箱は使用すると箱が出て来て開く仕組みだった。

 自分で開けた感じがしない宝箱だったわけだが、これは紛れもなく本物の宝箱だ。


 でも、こっちから声が聞こえたような気がしたんだよな。

 気のせいか。鍵束から合う鍵を探してねじ込むと、牢屋の鍵はギィと音を立てて開いた。今のところ兵士が来る様子もない。


 ……ごくりと息を飲む。

 なにせ俺には運が無い。

 しかしこの宝箱、絶対いいものが入っているに違いない。

 すげー豪華な装飾で、きらめいているように見えるんだ。

 しかも牢屋の最奥だ。

 隠し宝箱の部類か? 

 ひ、開くぞ。いいよな。覚悟を決めろ! 


「よう」

「え? あれ?」

「挨拶してんだよ、ようって!」

「よ、よう……?」

「開けたんだろ。貰ってけよ」

「ま、間違えたわ。いや、間違えたんだよな?」

「開けたんだろ? お前のもんだ。よっこらしょ。あー。久しぶりのシャバだ」


 何が起こった。

 いや、何も起こってないことにしたい。


「フタ、閉めるわ」

「待てって。いま閉めたら危ないだろ? それにお前、お宝を置いていくつもりか?」

「いや、どう見ても骨なんだが。お宝ってのはもっとキラキラしてるものだろ?」

「キラキラしたオストーだ。バシレウス・オストー。好きに呼んでくれていいぞ。友達だからな」

「んなこと聞いてねーんすけど。てか、骨がしゃべってる!? あんた箱の中で何してんだ?」

「そりゃお前、当たりだからよ。当てられるの待ってるんだよ」

「は? じゃあ本当にマジックアイテムなの?」

「お前は俺がマジックアイテムに見えるのか?」

「骨に見える」

「そうだろ? だからアイテムじゃないよな」

「……もう行っていいか?」

「待てって! 話聞けって。お前は俺を当てたんだから連れてかなきゃいけない。そうだろ?」


 やっべえ! 変態仮面の次はしゃべるハイな骨野郎を手に入れただと? 俺の運、どうなってんだよ! 

 つかあれだろ。この骨って呪いのアイテムだろ!?

 冗談じゃねえぞ、クエストで外れの呪いアイテム引くとか。

 落ち着け。まだ今ならこの骨を捨てられるかもしれない。


「ちょ、ちょっと待った。その箱から出る前にだ。ええと、バシレウス・オストーさんだったか?」

「おいおい。お前と俺は友達だ。友達なのにその呼び方は無いよな? な?」

「じゃあ、バシ……じゃねえ、そんなことはどうでもいい! あんたさ……」

「あんたじゃないよな?」

「……レウスさんは俺に当てられるより、もっといい奴に当てられた方がいいと思うんだ。ほら、俺は変な仮面つけてるおかしな奴だろ?」

「そうか。そうだよな。お前の気持ちはよく分かるぞ。お前、なんつったっけ?」

「ダッシュだ」

「ダッシュ。ダッシュ……だっはっはっはっは! お前、面白い名前だな。ダッシュか。だっはっはっはっはっは!」


 ……話にならねえー! 


「思わず笑っちまったな。そうかダッシュ。お前と俺は友達だ。仮面なんて気にしない。それにあれだよ? 強いよー、俺は」

「その強さは俺なんかのためにじゃなく、か弱い女性のために使ってやるべきじゃねーかな」

「良いこと言うなダッシュ。気に入ったぞ。安心しろ、このレウスさんが仲間になったからにはもう無敵。最強だぞお前。いやー良かったな」


 ……終わった。俺のパクリマは絶賛おかしな方向に進んでるに違いない。

 はぁ。ここを抜けるまで我慢するか。

 この骨ならクエストのこと知ってるんじゃないか? 


「なぁあん……レウスさんよ。俺は今、クエストを受けている最中なんだがなにか知らないか? 魂のくびきっていう……」

「シーッ。誰か来るぞ。お前も宝箱の中に隠れろ」

「えっ? てか俺、なにやってんだ……」


 だが骨の言うとおりだ。

 誰かが近づいてくる音がする。

 あんだけ派手に兵士をのしたらそりゃ来るか。

 しかしどうすりゃクリアできんだよ、このクエスト。概要が分からねえ! 

 ん? 箱の中になんかあるな……ってそれどころじゃねーんだった。

 兵士のしちまったからバレるよな。

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