ゲーム世界に転生した私は百合を堪能するために推し二人をくっつけます

@kminato11

第1話 入学式です

 桜の花びらが舞う季節――今日から高校一年生となる私は物陰に隠れながら、一人の人物を待っている。というかもう三十分は待っている。さすがに足が痛くなってきた。

 そこからさらに五分――本当に来るのか疑っていると一人の人物がが校門に入ってくる。彼女だ。

「ここが……桜ノ葉学園!」 

 黒い髪をボブカットにした女の子が学校に着くなり、にっこにこの笑顔でそんなことを呟いていた……てか、やっと来てくれた。

 私は痛い足を引きずりながら物陰から出て、彼女に近づいてく。

 彼女とは初対面だけど、知っている。名前は北白彩葉きたしろいろは。誕生日は十月八日。血液型はO型。両親は公務員で、家はここから歩いて二十分ぐらいのところに住んでいる。

 ……彼女がこの時間に来ること、彼女の名前や個人情報を知っているのは、ストーカーだったわけではない――して知っていたからだ。


 私はいわゆる転生者というやつで、転生したのは異世界とかではなく、私が前世で大好きだった「クインテッド・ロード」という乙女ゲームだった。いやー生まれてすぐに、私は理解したんだよね。あっここ、ゲームの世界だって。

 自分の名前にも聞き覚えがあったし、この先入学する高校があったり、あとは攻略キャラの会社があったりして分かった。というかここまできて分かんないならオタクだなんて言えない。

 そんなこの世界で、私は東雲由里香しののめゆりかという主人公である彩葉のクラスメイトに生まれ変わった……そうモブだ。なんなら立ち絵なんてないし、もちろん声とかもついていない。そんなモブの私だけど、このゲームは何十回、何百回とクリアしていたため、聞き覚えたあった。やっぱどんなことも分かっているのがオタクというものだ。

 そこから十五年――やっと私は物語の本筋の高校に入学することができたのだ。

 国立桜ノ葉学園高校。それがゲームの舞台となる学校なんだけど……偏差値がかなり高いのと、名家に生まれ人物が多く入学する学園なのだ。今もそこかしろに官僚の息子や財閥の御曹司が見える……。

 私も一応外交員の娘として第二の生を受けたわけだけど……そりゃ、めちゃくちゃ勉強した。勉学やテーブルマナー。そして覚えているゲーム知識の復習。何時何分にシナリオが進行し、どこに行くか、盗撮場所の偵察……etc。

 しかしその苦しい期間がやっと成果として出る時が来たのだ。あのとき、精神の限界がきていきなり笑ってしまったり、締め切りに追われた漫画家みたいなゾンビ顔になって机に向かった日が報われるのだ。

 笑みが自然とこぼれてしまう……でもダメだ。これからそのメインヒロインでかつでもある彼女とのファーストコンタクトなのだから、気持ち悪いと思われてはいけない。気を抜けばオタク笑いをしていしまって周りをドン引きさせてしまう私だ……今日はそんなわけにはいかない。

 手で口元を隠しながら彼女のあとを追うと、示し合わせたように目の前の彩葉からハンカチが落ちる――。


 ゲームのオープニングのシーン通りだ……。

 私は隠し持ったスマホで思わず撮影しそうになるけど、近くにいた赤い髪をした男の子がそれに気付いてしまう。

 私は少し駆け足で彼女に近づいて、不器用ながらも落としたハンカチを拾おうとする彼からハンカチを掠め取り、女の子に近づく。

「これ、落としましたよ」

「え? ってああ! ほんとだ。ありがとう」

 にっこりと申し訳なさそうに微笑む女の子。

 まばらに切りそろえた前髪からぱっちりとした緑色の瞳が私を射抜く。

 彼女の顔は少し童顔のようだけど整っていて、逆にそのあどけなさが可愛さにつながって彼女の魅力的に引き付けている。


 ……え? てかめっちゃ可愛くない? なんなら可愛すぎて震えるぐらいなんだけど。

 遠目から見ても可愛いと思っていたけど、近くだとなおヤバい。ヤバいよ……いや、マジヤバイよ(語彙力……)。

 彼女は私の推しということもあり、主観込みでめっちゃ可愛いい。けど、これは異常だ。確か彼女の設定は普通よりも少し可愛いぐらいのはずなんだけど……こんなに可愛いのなんて普通じゃない。普通に謝れ。こんな女の子ががいたらクラスで一番人気になるよ。絵師さん、本気出しすぎだよ。


 私は対面した生推しに感動で打ち震えていると、少し気まずい沈黙が出来てしまう……ってやばい。彼女がたんだん不安そうな顔をしている。なっなんか言わないと……。

「すっすいません……えーっと私と同じ新入生ですよね?」 

「そうなの!」

 戸惑っていた彼女だけど、という言葉で嬉しそうに微笑みなが私の手を握ってくる。って手を!?

「あの……えっと」

「うん?」

 不思議そうに顔を傾けながら大きな瞳で見てくる彼女……やめて。惚れちゃうから。そんな純粋な目でこっち見ないで。

「あの……手」

 私が控え目に言うと、彼女も気づいたようにパッと手を離す。

「ごめんね。嬉しくなって手握っちゃってた」

「あっいえ、大丈夫です」

 まだ顔が赤くなっている気がするけど、その気持ちを理性で抑え込んで何とか立て直す。

「ごめんね。この辺に知り合いいなくて寂しかったんだー」

「ああ、そうなんですね……って自己紹介まだでしたね。私は東雲由里香です」

「あっうん。私は北白彩葉です。よろしくね」

 もちろん知っている。知り尽くしている。

 なんなら何が好きかも、ぬいぐるみを抱いて寝ることも知っている。

 そんなことをおくびにも出さず、差し出してきた手を握る。あっまた推しの手を握ってしまった……。

 

「よろしくお願いいたします……って北白さん。ネクタイ変ですよ」

「ああ。ごめんなさい」

 私は推しの手をすぐに離す……顔が赤くなっちゃいそうだし、何よりも心が動揺してしまっていつ私の気持ち悪いオタクが出てくるか分からない。自我を出すな、私。

「あーうん。うまくできない……」

「そうじゃないですよ」

 ゲームでも思ったけど、彼女はかなり抜けている。こういったところは確かにかわいいんだけど、これも一つのきっかけで攻略キャラと関係を持つことになってしまうのだから、考えものだ。

「……ごめん。直して?」

「――はい?」

 

 彼女が発した言葉に思わず素で返してしまう……えっ何? 私に新婚プレイをしろと言っているのか?

 心臓の音がうるさい中、私は彼女に近づいて、胸にあるネクタイを直す……。

 他のところに目がいかないようにネクタイをガン見していると、なんだかいい匂いがしてくる――なんなんだ? この普通設定の主人公。顔だけではなく、香りまでいいのか?

 手元が狂う……こうなることも想定していたのにうまくいかない。何十回もシミュレーションしたのに……! なんならマネキンにネクタイ直したりしたのに!

 私は煩悩と戦いながらもなんとかネクタイを直していく。だけど考えてみれば役得なんだから落ち込んでもしょうがない。ここから挽回していこう!(何を?)

「これで、よしと」

「ありがとう」

「次から気を付けてくださいね」

「あはは……ごめんね」

 彼女はそう言って照れくささそうに笑う……かわいい。

 こんな笑顔はずるい。なんでも許してしまいそうになる。

「ゴホン……でっでは目的地も同じですし、一緒に行きませんか?」

「うん」

 気持ちを切り替えた私は彼女と並んで歩き、体育館に向かっていく――。


 上級生からの案内で、体育館の用意されたパイプ椅子に二人仲良く腰を掛け、入学式の挨拶を待つ。

「うわーあれ生徒会の人達かなー。カッコいい!」

「そうですね」

 マイクの準備や来賓の対応している集団に目が惹かれる。


 このゲームは、学園の生徒会長になるために攻略キャラ達と一緒に学園の地位と好感度を上げていく乙女ゲームだ。

 この学園のキング……要は生徒会長になることが各攻略キャラのゴールであり、その横に立つ副生徒会長――つまりクインとして選ばれることがこのゲームのエンディングになっている。


「それでは生徒会長の挨拶です」

 私がそんなことを考えていると、いつの間にか学長などの挨拶が次々に終わっていき、この学園の現キングが呼ばれる。

 一人の少女が立ち上がって壇上に向かっていく。紫色のストレートに伸ばした髪が歩くたびに優雅に揺れまるでモデルがランウェイを歩いているかのような綺麗な歩き方に騒がしかった声がいつの間にか止んでいる。

 壇上に上がった一人の生徒が声を発すると皆んな彼女に視線を向け、先ほどまで寝ていた生徒も起きて釘付けにされる。

 チラっと隣を見てみると彩葉もメロメロだ。


「新入生の皆様。ようこそ。私立上王寺学園へ。生徒会長、西園寺菫さいおんじすみれです」

「西園寺先輩……!」

「知っているんですか?」

「うん。私、あの人に憧れてここに入学しようと思ったんてす」

「そうなのですね」

 もちろん分かっている。

 彼女は西園寺先輩に憧れてこの学園に死に物狂いで入ってきたのだ。尊い。よく通る声で次々と説明が行われている。

 ――このゲームでは五人の攻略キャラがいる。

 もちろんさっきハンカチを拾おうとしていた男の子も攻略キャラだ。

 たけど彼は最初に攻略するキャラだ。そんな結末に何てさせるつもりはない。

 私が狙うのはその中でも最難関。四人のキャラを攻略することで最後に出てくる攻略キャラ……それが彼女。西園寺菫先輩だ。

 そう。このゲームは乙女ゲームなに、なんと最後のルートが現キングとの百合ルートなのだ。


 本来は攻略キャラの成長もテーマでキングとしての道を目指すんだけど……百合ルートだけは少し趣向が違っている。攻略キャラである彼女は既にキングなのだ。やるべきことは次のキングへ再エントリーさせることと現クインの座を取るだけでいい。

 他のキャラの攻略では二年生編があり、一年生の私達(彩葉と攻略キャラ)は生徒会に入るんだけど、百合ルートの場合は一年生編だけでいきなり副会長――つまりクインになってエンディングになる。

 その分、ヒロインとのイチャイチャがすごいあるのだ。

 これによって乙女ゲーム好きのオタクだった私の脳を破壊され、百合厨オタクに転生せさた作品だ。感謝しています。


 キングの挨拶が終わり、先輩は壇上を後にする……ではそんなモブAの私が何をやるべきか? そんなの私が生まれてから決まっている。

 私はチラっと彼女に視線を向けると、「どうしたの?」といったように可愛らしい瞳を向けてくる。

「彩葉さんと仲良くなれそうで良かったです。これからの学園生活が楽しみですね」

「私もだよ!」


 主人公の彩葉と仲良くなり、先輩とくっつけること――そしてそれを隣で百合を摂取すること! これだ。これこそが私が転生して行うべき使命だ。 

 彼女が百合に悩む姿をニヤニヤしながら見たり、普通ではない心に戸惑うところを優しく微笑んであげたり、手を繋いで帰るところを盗み見するのだ……最高すぎる。

 それに私は現クインの弱点も知っている。であればあとは彩葉と先輩とのイベントを発生させれば百合ルートが完成する。

 この世界が何周目で、彼女が攻略可能かは分からない――だけど私は百合を堪能するために、彼女を西園寺先輩とくっつけないといけない。

 そのために全男キャラのフラグをバッキバキに折りまくっと、彼女を西園寺先輩をくっけることだ。

 私は入学式の終わりと共に決意する。

 

 ――百合に挟まる男は絶対に許さない。

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