ヒューマノイド《冒涜の遺伝子》 Ver.3.0.

園山 ルベン

Subject

#1.00. Homunculus [η-3]

 人工衛星を介した通信の向こうで、メールが開かれた。その情報は意識に取り込まれ、僕は感覚として受け入れる。


 このデバイスの近くに音を拾うものがないか探してみると、固定電話が近くにあったからそれで探ってみる。どうやらメールが送られたことを副官が提督に報告しているようだ。

 それならばもう大丈夫。後は設置したバックドアから様子を伺えばいい。


 このメールが、あの子たちの希望に繋がればいい。

 どうか、命だけでも。


 情けないことに、僕はここから動けない。連れていかれた彼らを迎えには行けない。どこにいるかも分からない神さまに祈るだけだ。



 ハッキングしたデバイスのカメラから水平線を眺めることにする。外に出られない僕には、これが唯一の趣味だ。

 この遠い海の果て、この世界で最も信頼できる最強の助っ人に助けを求めた。僕のボトルメールは、信用してもらえるだろうか。


 「水平線の彼方へ」。海洋国家らしい彼らのモットーを思い出す。


 今お邪魔している無人ヘリのカメラから、日の出を眺める。

 暁の雲は、徐々に白く照らされていく。海と空の境目から、眩い光が漏れる。

 しかしカメラの明度調整が追いつかず、映像が白飛びしてしまう。このドローンの高性能カメラでも、太陽の輪郭は見えないのか。

 肉眼で太陽を見られたら、丸い形もよく分かるだろう。いや、この殺風景な部屋以外見たことがない眼よりも、スマートフォンの4Kカメラのほうが解像度がよさそうだ。

 そうだ、今度宇宙望遠鏡にアクセスできるか試してみよう。


 このスーパーコンピューターで遺伝子実験しているよりも、暗号化された通信を解析するほうが楽しい。

 宇宙開発はネヴィシオンNevisionよりもオイゲンEugenアルビオンAlbionのほうが――。



 無造作に開け放たれた鉄製のドアの振動が、羊水を伝ってこの身体に響く。iアイマトリクスは繊細なんだ。気を付けてくれ。


 だがこいつは人の心を捨てた男だ。そんな配慮なんてできやしない。


 僕が大嫌いな、このヒトデナシは、また感情のない声音で語りかける。


「今日の実験だ。先日のデータをもとに、ホメオボックス遺伝子の表現型を――」


 廊下の蛍光灯が、ドアに貼り付けられたステッカーを青白く照らす。それを見るたびに、暗い現実を思い出す。

 僕を危険物扱いする、バイオハザードマークだ。

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