あくま
夏目咲良(なつめさくら)
あくま
「こらっ、待って!あんまり奥に行ったら駄目だよ!」
「大丈夫、悪魔なんている訳無いよ!」
少年は姉が制止するのも聞かず、どんどん森の中へと
進んで行く。
樹々の隙間から差し込む陽光で輝く緑の葉。
見たことも無い植物と虫。思わず、しゃがみ込んで
眼をキラキラさせながら、見入ってしまう。
初めて触れる自然に少年は完全に夢中になっていた。
(……あれ?姉ちゃんは?)
姉の声が聞こえなくなったことに気付き、少年は
今走って来た方向を見る。
姉はいた。地面にペタンと座り込み震えながら、
少年の方を指さしていた。
「……ああ、くま……。……あ……くま……」
「何言ってんの?だから、悪魔なんていない……」
少年は呆れて姉に言うが、セリフの最後が大きな唸り声で
搔き消された。
「……え?」
少年が視線を上げる。
生臭い獣の匂い。
茶色い毛に覆われた大きな生物が少年の前にいた。
「グォォォォォ!」
その生物は正に悪魔のような雄叫びを上げ、鉤爪を
振り下ろした。
あくま 夏目咲良(なつめさくら) @natsumesakura
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