神座町アンダーザワールド

乾杯野郎

バタフライの行先

この街は朝も昼も夜も365日騒がしい


怒鳴り声、笑い声、車のクラクション


でも私にはこの音の一つ一つが心地よかった


音を出せない私には…


「ちょいと仕事や、行ってくるで。戸締りしときやー」


このお世辞にも快適と言えない狭い事務者兼自宅の主、そして私の保護者「善波 幸志郎」は今日も街へ繰り出して行った






「ハァ…ハァ…逃げんじゃねーよ!クソ女!」

「ちょっと!何?!離してよ!」

23時靖原通りで派手なスーツの男が安ブランドに身を包み少し化粧の落ちた女の髪を引っ張りながら怒鳴っていた

「てめぇウチの掛金(カケ)払えよ!」

「はぁ?!アタシの売掛じゃねぇし!アゲハの掛けだろ?!クソホスト!」

どうやら売掛金で揉めているようだ

しかしここ眠らない歓楽街「神座町」ではそう珍しい光景ではない

「そのアゲハが飛んだんだよ!てめぇ一緒に店に来てたからてめぇから回収…」

ホストは女を無理やり引き摺り店へ連れて行く、ビルの入口まで来るとホストは右腕を凄い力で掴まれた

「その辺にしとけや」

「イッテ!離せよ!クソ野郎!」

力に驚いたのかホストは女を離す

「クソ野郎…?それワシに言うてんのか?」

「てめぇ以外誰がいんだよ!」

自由になった女は焦って逃げようとするがホストを掴んだ男の反対の手が女を捕まえる

「嬢ちゃんに用事があるんじゃ、ワシはお前を痛めつける気ぃないねん…けど…大人しゅう待っとってや」


バキッ


ホストが男の右脇腹を力一杯蹴り上げた…が感覚は分厚いゴム板や生肉の固まりを蹴り上げたような感覚だった

「…なんだ…お前…」

「兄ちゃん?今お前と喋ってないやろ?なのに不意打ち…話が早い…わな!」


バチン!


男がホストを掴んでいた手を離し右手でホストの顔を平手打ち

鈍い音が響く


「グェ!…てめぇ!ホストの顔…」

吹っ飛んだホストは立ち上がろうとするが膝に力が入らずその場に倒れた


「なんだ、おもんないのー、これで終い言う気やろなぁ?」

男は乱雑に倒れているホストを起こすと騒動を聞きつけた数人が駆けつけ高級オーダースーツに身を包んだホストが頭を下げた

「善波さん!こいつまだ店入ったばかりで何も知らないんすよ!勘弁してやって…」

「店長!俺顔殴られたんすよ!なんで…」

「うるせぇバカ!てめぇもさっさと謝れ!」

「おー陸也かぁ!なんだワレ店長になったんかぁ?出世したなぁ。しかしなぁ…関係ない女から金取ろうとしてたんや、こいつにどういう躾しとんねん」

「あの…ですね…法律が変わったのでウチの売掛システムは保証人ありきでして…」

陸也と呼ばれたホストは書類を善波に見せた

「そら筋通らんて、保証人いうたって連帯保証人とは違うぞ?」

善波はタバコを取り出し火をつけて続ける

「フゥ〜、そもそもこりゃお前…債権者が山村金融になっとるど?騙して書かせた借用書なんてこんなもん弁護士きたらアウトやで?百歩譲ったとしてもそれにこれはアゲハ言う女が債務を履行しなかった場合、保証人に債務が発生するんやで?債務不履行かどうかまだわからんやろ?この借用書には返済が遅れた場合の事は記載してない、これからは「債務が1度でも滞った場合は全額一括弁済」の項目書き加えとけ、それに連帯保証人と保証人は違うんや」

「しかしミサキだってここに署名捺印してますし…」

「あぁん?おまんそんな事も知らんのかいな?ちゃんと説明したんか?これが金銭借用書だと説明なしで署名捺印させたんなら民法90条、公序良俗に反するのと民法95条1項の錯誤で無効やで」

陸也は奥歯を噛み締め意を決したのか善波に言い返した

「それがどうした?!アゲハがうちで飲んだのは変わんねぇよ!飲んだモンは払う!当たり前でしょうが?!それにそこのミサキだってサインしたんだ!」

「ほほ〜う?陸也、根性あるやないかい、まぁ山村金融や言うことは後ろは高川組だとお前も引くに引けんのか…ならこうしよ?ワシがアゲハを連れてくる、それでダメならこのミサキから取り立てや」

「ちょっと!なんでアタシが!」

「やかまし!インチキ臭い契約書とは言え確認しなかったワレにも責任あるんやで!ここの店は高川組がバックやお前逃げ切れへんぞ?…どや?陸也?それならおまんの顔も潰さへんやろ?それにワシがアゲハ見つけられんかったら「善波は大した事ないなぁ〜」といいふらせるぞ?」

「…わかりました…明日の開店までにアゲハを連れてくるか売掛80万どっちか持ってきたらそいつ解放…」

「待てや、ミサキちゃんはワシが預る、こんなめちゃくちゃな事する奴に渡せないわ。それに明日の開店て、もう日付回っとるから今日やないかい」

「はぁ?じゃあバックレられたどうすんすか?!」

「陸也…お前はワシの事信用ないんか?ワシは80万ぼっちの金で逃げる男に見えるんか?あぁん?!言うてみぃや!」

青ざめた陸也は震える手を抑えながら答える

「いや…そんなことは…」

「さっき言うことちゃうやないか!店任されてる身ぃでコロコロ言う事変える奴こっちが信用できんわ!」

「わかりましたよ!その代わりミサキも逃げたら高山組に…」

「やかましい!好きにせぇや!ほな姉ちゃん行くど!」

「え、え?ちょっと痛い!バカ力!」

「やかましい!ちゃっちゃと歩かんかい!」

善波はミサキを連れて繁華街を歩いた

しばらく歩くと

「ちょっと!痛い!逃げないから離してよ!」

ミサキは大きな声で善波に言うが善波は全く相手にしない

すると行く先々で飲み屋の店員や違法時間に店を開けているボッタクリ飲み屋のキャッチがみんな善波に声をかける

「ゼンちゃん!寄ってってよ」

「善波さんお疲れ様です!寄っていきませんか?」

「この前は助かったよ!善ちゃん」

「ちょっとー!マッサージきてよー」

そんな声を軽く流し十字路で立ち止まる

「ミサキちゃん腹減ってないか?」

「は?」

「ワシ腹減っとんねん、ちょっと付き合ってくへん?」

善波はミサキを無理やり少し先の黄色い暖簾に「華丸一番」と書かれたラーメン屋の引戸を開け中に入る

「おぉ!善ちゃんいらっしゃーい!いつものでいいかい?ありゃ?今日はアフターかい?」

「アホ言うなや、こんな小便臭いガキ、好みちゃうねん!」

「はぁ?!アタシに言ってんの?!」

「ワレ以外誰がおんねん!」

「ちょっと!店先でグダグダやってないで早く入ってくれよ!」

カウンターの店主に叱られ善波とミサキは席に着く

「お前は豚骨ラーメンはどう食うんや?」

「…麺硬め、煮卵…で」

「善ちゃんはバリカタ、高菜、チャーシューでお嬢さんは麺硬煮卵ねーあいよー!」

店主が復唱しラーメンを作る

善波は給水器から水を2つ持ってきて卓に座る

「あー腹減った」

ミサキは訳が分からずにいたので善波に質問した

「あの…なんで私の事助けてくれたんですか?」

「ん?あぁまぁ成り行きや、お前アゲハと同じ店なんやろ?」

「なんで知ってんの?気持ち悪!」

「気持ち悪い事あるかい!大体の事は知っとんねん、それにアゲハの売掛トびは有名で…」

善波の話を遮るようにラーメンが届く

「へい、お待ちどうさん」

「おぉ、美味そうやのー!」

善波はいただきますも言わずにラーメンに貪りつく

「なにしとんねん、延びてまうで?さっさと食えや」

「あ…すみません、いただきます」

ミサキも箸を割りラーメンを啜る

掃除機のように善波はラーメンを平らげると替え玉を追加、スープにおろしニンニクをドカドカと入れる様をミサキが突っ込む

「ちょっと、入れすぎじゃない?」

「ようけ入れんと美味くないねん、お、キタキタ」

替え玉もあっという間に平らげる

「なにしとん?はよ食えや」

「アンタが早すぎんの!ちょっと待ってよ」

ミサキも慌ててラーメンを食べ終え善波は財布から万札を出し卓に置いて

「ごちそうさーん」

「ちょっと!善ちゃん!多すぎるよ!」

店主が引き止めるが善波は気にせず店を後にする「かまへんかまへん、余った金は腹空かせてるガキとかにラーメン食わせたって、ホナのー。ほれ、ミサキ行くど!」

ミサキは店主に一礼して善波の後を追う

「話が見えないんだけどさ?結局どういう事?てかさ?アゲハちゃんはもう神座には居ないからアンタが80万払うことになるけどいいの?」

「アホぬかせ、なんでワシが80万も銭払わなアカンの!知るかボケェ」

「はぁ?じゃあ結局アタシが…」

「うるさいやっちゃのぅ!なんでお前アゲハが居ないの前提やねん」

「だって!アゲハちゃん店にも私物なかったし…」

「あのなぁ…さっき言うたやろ?アゲハは六本原のホスト界隈じゃちょっと有名なんや、初回荒らしとか掛け飛びとかの〜まぁあっちはホストやのうてボーイズBARやけどな」

善波は歩きタバコをしながら続けた

「ミサキちゃんが神座のデリヘルに入ったんもアゲハの紹介やろ?」

「え?なんでそこまで知ってるの?」

「もう大体の事は調べとんねん、チュッパリーナやろ?店は?んでアゲハがこれ」

善波はスマホをミサキに見せた

「気持ち悪!そもそもなんでそこまで…」

「お前は知らんでええ、このままアゲハ捕まえに行くど」

「?!居場所知ってんの?!」

「ワシ顔広いんや、それにアゲハみたいなホスト狂いはそう簡単に神座から出んよ」

そう言いながら先程とは違う方向にむかい雑居ビル地下に善波は入ると入口受付のホストにスマホを見せた

「おぅ、ちゃんと引止めといたんか?」

「お疲れ様です、善波さん。クッサ!どんだけニンニク食ったんすか?」

「やかまし、どや?アゲハいるんか?」

「いますよ、おい!」

受付担当がアイコンタクトをするとホストがアゲハと思わしき女を無理やり連れてきた

「あ!アゲハ!」

「…?!なんでミサキが居んのよ!」

「てめぇ何逃げてんだよ!てめぇがどうしてもって言うからホスト付き合ったのに!バックレるつもりだったんだろ!」

ミサキがアゲハの胸ぐらを掴み詰め寄る

「うるせぇな!店まで紹介して寮まで住まわせてやったんだ!これくらい!」

「はぁ?!ふざんけ…」

2人の喧騒を他所に善波はポケットから金を出しホストに渡した

「助かったわ、これ、こいつが飲んだ分と情報料や。またなんかあったら頼むで」

受け取ったホストは善波に頭を下げた

「こら!店先でうるさいねん!行くど!アゲハ!」

「誰だてめー!関係ねぇ奴は…」

アゲハを乱雑に善波は引き寄せ耳元で静かに囁いた

「ガタガタ抜かすならここで殺すぞ?ええんか?ワシャ女でも手加減せんぞ?」

アゲハは一瞬ですくみがり大人しくなった

「アゲハちゃん、飲んだらちゃんと金払わんと、店行くで」

「え?!えぇ?ちょっと!待っ…」

善波はアゲハの手を無理やり掴むと

「ミサキ!お前はまだ用事あるから一緒にくるんや」

またも訳がわからないミサキは善波の後に続く

先程の雑居ビルにはホストが客引きをしていたので善波が客引きに

「アゲハ見つけたで、陸也呼んできぃや」

ホストは慌てて中に入っていくと直ぐに陸也が慌てて出てきた

「善波さん、まさかもう見つけるとは…」

「お前ワシなんや思てんねん、これでミサキは関係ないやろ?後はアゲハからキリトれや」

「さすがですね」

「お世辞いらんねん、さっきの借用書出せや、それがあるとミサキが警察駆け込んだらお前えらい目あうで?」

「…わかりましたよ!こい!このクソアマ!」

陸也は借用書を破り善波に渡すとアゲハを無理やりビルに連れて入る

「ちょっと!離してよ!痛い!乱暴し…」

アゲハは暴れていたが無理やり陸也と陸也の取り巻きに連れて行かれた

呆然とその様子を見ていたミサキは

「あの子…どうなるの?」

「さぁの」

「さぁのって…」

「ワシに関係あらへん、ミサキ行くど」

善波は後ろを振り向きタバコに火をつける

「アゲハ助けてあげてよ!」

「お前なぁ…どんだけお人好しやねん、それにあのオンナはお前を嵌めたんやで?意味分かっとんのか?」

「分かってるよ!でも見捨てられないじゃん!高山組って…ヤクザも絡んでるなら…」

「フゥー…ならお前が助けたれよ、80万払ったれ」

「80万なんてない!でも!」

「なんや、さっきは取っ組み合いしてたっちゅうに…」

「だって!なにされるか…」

「お前は心配してるだけやけど実際は見捨た罪悪感が嫌なだけや、偽善や、んなもん、しょーもな。証拠に銭の話になるとしり込むやないかい、人助けちゅーのはそんな簡単なもんちゃうぞ!」

「…わかったわよ!なら80万!アンタが立て替えてよ!立て替えくれたらアタシが返すから!」

善波は少し驚いたのかタバコを落とした

「お前自分で言うてる意味分かってるか?」

「分かってるよ!すぐには返せないけど…絶対払う!だから…」

善波はミサキの両肩を強く掴み目をじっと見た

「…本気か?」

ミサキもまっすぐ善波を見返した

「本気よ、あんたに偽善と言われのはムカつくからね!アタシの事舐めんなよ、オッサン!」

暫しの2人は見つめ合い善波が動いた

「わかった、そこで待っとれ」

善波がビルに入って行き少し経ったら善波がアゲハを連れて帰ってきた

「アゲハ、ミサキに礼言い!お前の売掛コイツが払ったんやで」

アゲハは持っていたハンドバッグを叩きつけミサキに詰め寄り怒鳴り散らした

「アンタになんか頼んでねぇよ!余計な事しやがって!?」

「はぁ?アンタ頭おかしいの?!」

「礼でも言うと思った?アタシはアンタがムカつくからアンタに売掛押し付けたんだよ!いつも変に優しくしやがって!キモイんだよ!クソ女!」

善波がアゲハを引き剥がすと

「お前、性根腐っとんなー。ミサキー?こういうクズに何言っても無駄や」

「オッサン余計な事に首突っ込むなよ!」

「うるせぇブスやなぁ、はよ去ねや、あんまり腹立たせるとビンタで顔変えたろか?なぁ?」

アゲハは叩きつけたハンドバッグを拾うと雑踏へ消えて行きミサキは呆然としその場にしゃがみ込んだ

「…アイツはああいう奴や、さて…ミサキ…」

「…アタシ間違ってたかな…」

「どうやろな」

「アゲハが気の毒だと思って…なのに…」

「女の嫉妬いうんわ怖いからなぁ、ああいうクズは優しくされると自分が惨めになんねん、だから余計にミサキちゃんが嫌やったんやろ」

「バッカみたい…アタシ…」

ミサキは必死で目を抑えるが指の間から涙が零れる

その様子を気にする事も無く善波は誰かに電話をかけていた


「あーもしもし、善波です、例の件解決しました、時間も時間ですの……え?ホンマですか?………ほなら、人目もあるので位置情報送りますからそこで待ち合わせお願いします、それでは」

「誰か私を渡すの?」

「そうや、80万分とお前を交換や」

「…フフフ…アゲハにバカにされて…アタシは80万で売られるのか…もうどうにでもなれだ、行くよ」

「いい心がけや、ほないこか」

神座町を出て環状線の新小久保駅方面へ向かう

2人は特に口を交わさず歩き新小久保駅を過ぎ中道線高架下手前の交差点に着くとそこにはベントレーが停まっていた。

「え…これ…」

ミサキが驚いているとなかからメガネをかけた初老の男性が降りてきた

「ありがとう、善波さん、孫を見つけてくれて」

「いやいや、ええですわ、こちらこそ遅い時間に申し訳ございません、会長」

「善波さんには無茶を言ったのはこちらですから、こちらこそすみません 」

「おじいちゃん…どうして…」

初老の男は涙を流しながらミサキに駆け寄り手を握る

「ごめんよ、美咲…嫌な思いを沢山させて…「困ったら善波さんに頼め」と友達に聞いてな、この善波さんに探してもらったんだ。そんなに智樹…美咲のお父さんがいる家が嫌なら爺の家に来るといい、婆さんも美咲が来てくれるならと部屋を掃除して待ってるから…だから家に帰ろう?」

「いいの?お爺ちゃん?アタシ不良娘だよ…?お父さんに何言われるか…」

「いいんじゃいいんじゃ、智樹になんも言わせんから。美咲は美咲じゃよ、ワシと婆さんからしたら小さい頃から可愛い可愛い美咲と変わらん」

「美咲、お前が家出をしてすぐ、会長からワシに連絡あったんや、「孫娘の美咲を探してくれ」言うてな、直ぐにお前を探し店まで突き止めた、そんであん時見つけたんや、だから言うたろ?アゲハは成り行きなんやて」

「なのに…アゲハまで助けてくれたの…それに80万は…」

善波は頭を掻き毟りながら場が悪そうに

「お前会長の前でそれ言うやな…」

それを聞いた初老の男は車に戻り封筒を持ち善波に無理やり渡した

「善波さん、これ」

「会長、困りますわ、こんなんされたら。金はもう貰ってますし…」

「いいんじゃいいんじゃ、こんなに早く美咲を探してくれたんじゃ、これはそれの御礼じゃよ」

「そこまで仰るなら…すんません」

善波は受け取り封筒をしまい初老男性に一礼してその場を離れようとすると

「待って!善波さん!助けてくれてありがとう、本当に…」

善波が立ち止まるが美咲の方を見ずに

「ありがとうなんていらんねん、心配してくれる人をもう泣かせんなや!もうここには戻ってくんなよ!達者でな、ホナの!」

言い終わると小走りで善波は去って行きその背中を初老男性と美咲は深々と頭を下げて見送ったのだった


小久保交差点はこの時間でもそれなりに店が空いていた

「舞に何か買うて帰るか…手ぶらじゃなぁ」

善波は辺りを見回し、店を見つけ小走りで「オモニのキンパ」と看板に書かれた店に向かう

「おーっす、まだいけるー?」

善波が店の入口で声をかけると奥から高齢の女性が出てきた

「なにね?お!ゼンちゃん!なに?今日は?」

「おー、いやな?舞に土産と思ってな」

「マイちゃンにお土産ね?ハいハイ、いつものキンパでいいかい?」

「頼むわ」

善波は懐から金を出す

「まーた!余リモのでこんなに貰えないヨ!」

「いいっていいって、年寄りに無茶言ってんだから、余った金で孫に菓子でも買うたってや」

「…そうかい?正直助かるよ、最近はブームだナンだと入れ替ワりが早くテね、新しいお客がクるのはいいけド馴染ミの客が入れなかったりするカらさ、売上が…」

「アンタの飯は美味い、大丈夫じゃ、そのうちワシが大勢若いの連れてくるからそん時宴会させてくれや」

「ハいハい、話半分に聞いとくよ、ツツんだから持ってき」

「ありがとよ、次は舞も連れてくるよ、ホナの」

善波は店を出て事務所に向かう、その足取りは何故か軽やかで楽しそうだった


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