ダイコウの本分 4

「日和はさ、どうなの仕事」

 目の前で眠そうな目をした栗色のショートカットの女性—— 洞家日和どうかひよりが微笑んでいる。ここは中心街にある「ご飯処 酒井」。体全体がぐずぐずにとろけるような、悪魔的なお肉料理が人気の定食屋だ。

 同期である日和とは、こうして時々昼休みにランチをしている。事務所内は節電節電で冷房を滅多に着けないだけに、ぱきっと冷えた店内が心地よくてどろどろからかちかちに凝固する、溶岩みたいだね?

「んー、特にないかな」

 思わずなぞりたくなる細くいじらしい下がり眉と、吸い込まれそうなほど大きく宇宙のように澄んだ丸い瞳。雪みたいに透き通った白い肌に赤ちゃんを思わせるぷっくりと丸みを帯びた頬。赤く厚みのある誘うような唇から覗く可愛らしい前歯。

 そんな小動物系の愛嬌のある顔でありながら高身長でスタイルも良いアンバランスさで、不思議な魅力のある女性だった。だったんだよ。

「忙しいの?」

「うん、楽しいよ~」

 日和は生活保護課に配属されたケースワーカーだ。共に新卒で関東出身ということもあり、研修期間中に自然と仲良くなった。一年経って同期の大半が辞めるか休職をする中、私と日和はしぶとく抗っている。戦っている。自分から、社会から、渇いた大地から漏れ出す灰色の何かから。

 毒を吐く私とやんわり受け止める日和。互いに互いを補完する良い関係。そう思ってたんだ。

「そっか、良かった」

「なごみちゃんは?」

「私はようやく契約代行ができるかも」

「わ、やったね!頑張ってたもんねえ」

「うん……」

 日和の様子がおかしいと感じたのはいつからだったろう。

 もともとほんわかして怖いもの知らずなところはあったけど、無邪気にアリを踏み潰す保育園児のように笑顔で雀蜂とか素手で潰したりする子だったけど、今年に入ってから特に違和感が増している。ミステリアスで済むなら巫女はいらないんだよ。

 去年路地裏で出会ったという可愛い黒猫の写真はどう見ても屍肉に群がる烏だったし、面白い人探しのポスターだと見せられた写真には街灯に照らされた塀が虚しく写り込むだけだった。

「え、私も!」

 それどころか最近は明らかに会話が繋がらない。

 日和の隣には誰かいるの?

 私と向き合ってる時はきちんと話せるのだけど。それが魂の存在なら私にも紹介してよ。だって私には聞こえないよ、声が。

「わかる~。鬼ごっこって何であんなに楽しいんだろ」

 ほら、また、私に見えない何かと盛り上がっている。日和はいわゆる。そうだったらいいのにな。そうだったら良かったのにな。

「ね、なごみちゃんもそう思うでしょ」

 笑った顔はこれまでと何にも変わってなくて、どころか愛嬌と魅力が増していて、それだけに余計に悲しくなってくる。

「うん、思うよ」

 ……私、日和の契約代行なんてヤだよ。

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