第7話 先手
「す、すすっすみませんでしたぁあ!!」
翌日。
超常現象部に顔を出すや否や、津久里 スイに勢いよく土下座されてしまった。
「わた、わたし、き、昨日気絶してしまいまして……! て、敵が現れたのにっ」
「気にしなくていいのよ。そもそも、気絶するぐらいの力で蹴ったこいつが悪いんだし」
「いや待て。俺は結構手加減したぞ」
「出来てないでしょ、気絶したんだから。それに、スイは――」
「あっ! あの! ほ、ほんと、こればかりはわたしが全部悪いんです……なんなら、この世に怒る全ての不都合はわたしのせいなんです……」
「そこまでいくとすごい自信家のように見えるが」
昨日、呼びかけても反応がなかったのは気絶していたかららしい。とりあえず見捨てられていたわけではなかったのは良かったが……。
「それで。どう思いますか、雲上先輩」
「ふっ。そうね。貴方のおかげで相手の異能はおおよそ見当はついた。よくやったわ」
「はあ。どうも」
ふわりとツインテールをたなびかせて、したり顔で褒めてきた。
いやまああんたは何もやってないわけですが。
「今回は奇襲を許してしまったなようだけど、次は私たちの番。スイの異能で別の空間に閉じ込めれば、被害を考えず戦えるわけだしね」
「ちょっと待って。その言い方だと、まるで敵の居場所がわかるみたいじゃない」
「みたい、じゃなくてわかるのよ。ねぇ? 稲福 星一君?」
言っていない。ましてやそれっぽいことを言った覚えもないはずだが、ここまで察してくるか。
「そうですね。接触の際、彼を転移先として登録したので、どこに居るかはわかりますよ」
「え? 転移先?」
観念して白状する。すると、意外にも反応が大きかったのは雲上先輩だった。
「察してたんじゃなかったんですか?」
「え、ええ。察してるわよ、もちろん。分かってたわよ、ええ」
挙動不審な雲上先輩に訝るような目を向けると、彼女はパタパタと手を振った。
「これで先手は私たちが取れる。そして肝心の奇襲班は――」
☆ ☆ ☆
「……ちっ」
知里真 ミナは不機嫌さを隠そうともせず舌打ちをしてみせた。
「どうした。機嫌が悪いな、寝不足か?」
「ちっ!」
さっきよりも鋭い舌打ちが鳴り響く。
自分がやったことを考えれば、この反応は至極当然であり寧ろ好意的に対応されるより安心感がある。
「もしかしてカルシウム不足か。煮干しを持ってるんだが、食うか?」
「なんで持ってるのよ。…………貰うわ」
貰うんだ。
ポリポリと煮干しを食う知里真。なんだろうこの空気。
「ちょっと相談なんだが、そろそろあんたの異能を教えてくれないか?」
これ以上微妙な空気が続くのは御免だと思い、そろそろ聞いておかなければと考えていた質問を投げてみる。
知里真は手に持っていた煮干しをペロリと食べ終えると、はあとため息をついた。
「ま、さすがに秘密のまま戦う訳にはいかないものね。いいわ、教えてあげる」
「本当か? てっきり無視させるものだと思っていたが」
「あのねぇ。食べ物を貰うだけ貰って無視するほど失礼じゃないわよ、あたしは」
ふんっと顔を背け、艶やかな金色の長髪が宙を舞う。
どうやら気を遣わせてしまったらしい。
「あたしは異能は……簡単に言えば身体能力の強化。期限付きだけどね」
「シンプルな異能だな」
「そうね」
「それだからこそ、強力だ。どのぐらい強化されるのか教えて貰えるか?」
「うーん……だいたい、筋力はコンクリートを素手で壊せるぐらい、脚力は十階の屋上まで軽々と……ぐらいかな」
「なるほど……」
怖っ。
転移による物量攻撃を主とする俺としては、純粋な強化系能力は厄介だ。しかし、津久里の異能とは異なり俺の魔法自体を阻害する訳では無いから対策はいくらでも……っ。
そこまで考えたところで鋭い痛みが脳を貫く。
これ以上は無理か。今のは害意はなく、純粋な分析だったのだがそれでもアウトらしい。
「どうしたのよ」
「いや。なんでもない。……と、そろそろだ」
目標に近づいたことを伝えると、知里真はこくりと頷き速度を下げる。そろそろ見えてくるはずだと視線を彷徨わせると、目当ての人物の姿が目に止まった。
「いた」
小さな声で囁くと、二人揃って建物の影に隠れる。
横目で知里真が連絡を入れるのを確認すると、見失わないようやつの動きに注視する。
……やはり警戒しているか。
頻繁に周囲を確認する素振りを見せるやつを見て、俺はそう判断する。俺とやり合ってからそれほど時間を置いてないため、当然と言えば当然なのだが。
と、その時。やつの周りを歩いていた人間が消えた。
「準備が整ったようね」
津久里の異能で元の世界との分離に成功したようだ。これで、心置きなく戦える。
「異変に動揺してるうちに叩く――っ」
「え――」
俺は隣にいた知里真を引き寄せその場から離脱する。そしてその瞬間、上空から飛来してきた何かがさっきまで俺たちが立っていた地面を打ち砕いた。
「誰!」
知里真が鋭い声を空へと投げかけ、俺も遅れて天を仰ぎみる。
「ありゃりゃ。避けられちった。しっぱいしっぱい」
ウェーブがかった茶髪をくるりくるりと弄りながら見下ろしてくるのは、見覚えのない少女。だが、射抜くような視線を向ける彼女は面識があるのか、知里真は苦々しげに少女の名前を零した。
「伊澤 イタチ……っ」
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