第23話「食卓なんて怖くない」

「あちゃー、こんな小屋しか見つからなかったかぁ」


 私とクライお姉ちゃんは、二人で住む為の家を探していた。


 かつて人間が暮らしていたと思われる小屋に入ると、そこは魔族に荒らされたせいか、かなり散らかっていた。


「クライお姉ちゃん、他を当たる?」


「いやいや、ここにしよう! なんだっけ? そう、人間達の言葉に『住めば都』と言う言葉があるらしいよ? 意味知らないけど!」


それから私達は二人で散らかった小屋を清掃して、ある程度綺麗になった所で、クライお姉ちゃんは、一枚の紙を見ていた。


「ふむふむ、まったく読めない! あ、けど絵が描いてあるから分かるかも!」


「何その紙?」

 

「えーと、れしぴ? らしいよ。なんでも人間達は料理と言う物を作るらしい。ほら、私達って生物の生き血しか飲めないじゃん? だから、色々とアレンジできないかなーと思って」






 それから数日後。


「どう? メライ、率直な感想を聞かせてほしいな?」


「え、えぇと、ごめん、普通の生き血の味しかしない」


「ガーン! 何がダメだったんだ!? くそー、生き血以外の材料となると、ハーブとかか? それを液状にしてスープに混ぜれば、案外いけるか?」


「ねぇ、なんでクライお姉ちゃんは、料理の研究をしてるの?」


「ん? そんなのメライに美味しいご飯を食べてほしいからだよ」


「え……」


 私は硬直した。クライお姉ちゃんは、そこまで考えていたのか? 食に関して殺戮人形になってから良い思い出がなかったせいか、今までにない高揚感を感じた。


 私が照れていると、クライお姉ちゃんが嬉しそうに言った。


「私達家族じゃーん、しかもメライは私の妹なんでしょ?」


「そ、そうだけど、照れるなぁ」


「えへへ、他の家族を作ってる殺戮人形達は何をしてるか知らないけど、いつか交流してみたいなぁ。これからメライだけじゃなくて私の家族を増やして、みんなで美味しいご飯を食べるのが、私の夢なんだよねー」


「家族で、美味しいご飯……」


 それから数週間後にクルミが家族になって、その次にワルツが来て、私達は四人でブレイクキラーと言う家族を作る事ができた。









「う、あぁあ、確かに、人間だった頃に蜘蛛に生きたまま喰われたのは怖かったし、私の人間だった頃の血肉が蜘蛛の子供になったのは最悪だ……だけどな!!」


 メライは、自分の周囲に群がっていた子蜘蛛達を一匹残らず惨殺した。


「今! ここに! 居るのは! 殺戮人形No.98メライだ! 人間だった頃の肉体への未練なんてない! でも、お前の言う通り、家族で一緒に食べる食卓は最高だ。私を殺戮人形にしてくれた礼として、お前を殺す!!」


 そうだ、蜘蛛に喰われたのは最悪だったが、その結果ブレイクキラーと言う家族ができた。


 もはや、何の悔いもない! 食卓なんて怖くない!!


 メライの背中から生えている六本の巨大な刃が目の前の巨大な親蜘蛛に迫る中、親蜘蛛は抵抗することもなく、メライに向けて言った。


「良かった。アナタなら、この試練を乗り越えられると信じてたわよ」


 メライの六本の刃が親蜘蛛を惨殺して、メライは覚悟が決まった目で言った。


「ありがとう蜘蛛さん、私を人形として生まれ変わらせてくれて。お陰で最高の家族に会えたよ。バイバイ」

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