第16話「魂の本質」

「うおおおお!? 読める、なんでぇ!?」


 クライは一ヶ月も読めなかったレシピ本に齧り付いていた。


 クライだけではない、文字が読めなかった、メライ、ワルツ、クルミも文字が読めるようになっていた。


 目の前の魔童作家ヘルラが何をしたのか分からないが、ヘルラがわざわざ解説してくれた。


「魂の上書き、それがワタシの能力だ。元からあった魂を上書きする事で不可能を可能にしてる。が、デメリットはある」


 そう言うとヘルラは、自分の左腕の袖をめくると、彼女の魔族としての左腕がボロボロに崩れていた。


「このように、ワタシにフィードバックと言う名のダメージを受けてしまうが、何、魔王軍四天王になってからは毎日ズタボロの日々だからな、今は痛みすら感じないよ。お前達、人形と同じだな」


 袖を戻すと、ここからが本題だと言わんばかりに、ヘルラはブレイクキラーの四人に詰め寄った。


「さて、お前達の敵であるワタシが、どうして、ここまでサービスするか教えてやろう……お前達に魔王を倒してほしいからだよ」


「なんで?」


 クライの質問に対して、ヘルラは自虐的な笑みをこぼして本音を打ち明けた。


「別に〜? 人間の勇者なら魔王を倒せると思って送り込んだのに、あの馬鹿野郎、何を負けてんだよ! ワタシは、もう何も書きたくない! 魔童作家として働きたくない! ワタシを解放できるのは死のみ! しかしだよ! 魔王のバカが生きてる限りワタシ達は死なない! あーこれこそ無限労働地獄だなー! マジで助けてくれー!」


 目の前のヘルラは道化っぽく言ってるが、嘘を付いてるようには見えない。


 いくつか聞きたい事はあるが、まず手始めにずっと疑問に思ってた事をクライが聞いてみた。


「魔王って、何者なの?」


「んあ? あぁ、お前達って、人間の勇者が死んだ後に生まれたから知らないか。よーし! このヘルラ様が、この世界の歴史の授業をしてやる!」


 







 ヘルラに連れて来られたのは、館にある射映室と呼ばれる部屋で、狭い部屋の奥にスクリーンと呼ばれる銀幕があり、そこには人間と人間が争っている映像が流れていた。


「さて、魔王とはなんぞや? その疑問に答える為には、どう言う経緯で魔王が誕生したのか話そう。まず、この世界に魔族なんて居なかった。元々は人間とモンスターが居るぐらいの平凡で、つまらない世界だった。が、モンスターを倒すだけなら世界が許してた。しかし、人類は世界のタブーに触れてしまった」


「タブー? つまり禁忌的な?」


 クライの質問に、ヘルラは冷静にうなづいて続けた。


「そう、人間同士の争い、そこまではギリギリ世界が許してた。が、人間がそれぞれ国を作って資源の奪い合いが激化して、世界の七割もの天然資源を搾取して、世界を枯らしてしまった。これに関しては人類の自業自得だけど、そのしわ寄せが世界に来てしまったから、世界様はガチギレしたんだわ」


「世界様? まるで、この世界に自我があるような言い方ね」


 クルミの的確な指摘に対して、ヘルラは指を鳴らした。


「ザッツライト! その通り! この世界は一種の生命体なんだ。世界からしたら、人間なんて自分の表皮を歩くだけの微生物にしか過ぎなかっただろう。が、それが自分をむしばむ病原体になったのなら、話は別だ。世界様は本気で人類を根絶やしにする終焉装置『魔王』を産み出した。その魔王を起点に我々魔族が生まれたんだ。つまり、人間と魔族の戦争を始めたのは、人類の責任なんだよ」


 予想外の真実を聞かされて、ブレイクキラーの四人は固まってしまった。

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