第15話「人間と魔族の子」

 魔族の山脈。


 かつては人類の領域だったが、今では魔物が蔓延はびこる魔の山脈と化していた。


 ブレイクキラーの面々は、襲ってくるモンスターを倒しながら、何とか山脈の奥にある不気味な館に辿り着いた。


「ぜぇ、ぜぇ、こ、ここのモンスター強い上に数が多くない?」


 レベル90にもなったはずのクライですら息切れをするレベルで疲弊ひへいし、魔剣を杖にして、ようやく立てる状態だった。


 それはクライだけじゃなく、他のブレイクキラーの面々も同じだった。


「ぜぇ、はぁ、の、喉が、私、今日だけで、何回魔術を使った?」


「か、考えるのが嫌になるくらいの戦闘の数々だったわね」


 ワルツとクルミも疲弊する中、メライは三人に回復薬であるワーウルフの生き血のボトルを渡した。


「はぁ、はぁ、い、一旦休もう、このまま、ヘルラと戦うのは、危険かも」


「さんせーい、元気なクライお姉ちゃんでも疲れたぁぁぁ」


 とうとう限界が来て、クライはメライから貰った生き血のボトルを一気に飲み干した。


「ぷはー、やっぱ生き血うまーい!」


 そんなクライ達の様子を館の中から監視する人物が居た。


「ほぉ、アイツらが、アダージョの次の殺戮人形か、しかも四体か。くくく、コイツは大作になりそうだ」








「こ、こんちゃーす、た、倒しに来ましたぁぁ」


 ペルザの時みたいに扉を蹴破るのではなく、普通に開けて入った。


 中を見渡すと、まるで貴族のような豪華な作りの洋館だったが、誰も居ない。


 ヘルラの配下と思われるモンスターも居ない。


 使用人も居ない。もしかしてヘルラは一人で暮らしてるのだろうか?


「ハッピーウェルカム!!」


「!?」


 クライが思わず魔剣を抜くと、いつの間にか目の前のロビーにある階段から飛び降りて着地する人物が居た。


 白と黒を強調した貴族の令嬢みたいな格好をした小柄な人物だったが、顔の右半分が人間で、左半分は悪魔のような異形の姿をした存在だった。


「よくぞよくぞ来てくれた! ワタシを解放してくれる同志達よ!!」


「……ごめん、アンタ誰?」


「何? ワタシを倒しに来たのではないのか?」


「つまり、アンタが魔童作家ヘルラか!」


 目の前の奇怪な人物がヘルラだとしたら、迂闊うかつに攻撃するわけにはいかない。


 ヘルラと戦ったアダージョですら、絶対に勝てないし、絶対に負けないと言う異質な敵。


 ブレイクキラーの面々が警戒する中、ヘルラはクライが担いでいる背中の荷物袋に視線を移した。


「ん? お前、本を持ってるのか?」


「だったら何なのさ?」


「ふむ、それを貸してみろ」


 クライが否定するよりも先に、ヘルラの手にはクライが持ってたはずの料理のレシピ本が、ヘルラの手に収まっていた。


「は、え?」


 いつ、どうやって奪ったのか困惑する中、ヘルラは興味深そうに言った。


「……ふむふむ、なるほど、お前達は文字が読めないのか? あぁ、本を触っただけで分かる。最初の一ページ目で読むのを断念したな? やれやれ、アダージョのような殺戮人形にも興味を持っていたが、まさか殺戮人形には文字を読む機能がないとはな。ますます気に入った!」


 すると、ヘルラはクライ達に背を向けてロビーの階段を登り始めた。


「ちょっと待ってよ! 私の大切な本を返せ泥棒!」


「くくく、中々に威勢の良い人形だな。お前達、紅茶は飲めるか? ワタシとお茶会しろ、久方ぶりの来訪者で気分が上がってんだ!」








「……」


 クライ達は、ヘルラに案内されて彼女の作業場とされる書庫と思われる場所に来ていた。


 クライ達は警戒を解かなかったが、ヘルラ本人から敵意や殺意らしきものが感じられず、ヘルラはクライのレシピ本を読み漁っていた。


「ほうほう、なるほどなるほど、ここまで来てくれた褒美として、お前達に文字が読めるようにしてやろう」


「はぁ? できるわけないでしょ?」


「いや、できる、ワタシは魔童作家ヘルラだ。その程度の事なら簡単にできるし、私とほぼ同じ魂を持った、お前達なら簡単だ」


「え? 私達の正体分かるの?」


「あぁ、なんせ、私は人間と魔族の混血児だからな。お前達、殺戮人形と同じで自分の出生に悩んだ事がある。故に同志だ! それ、紅茶もできたぞ! 飲め飲め!」


「紅茶……うわ!?」


 クライ達が椅子に座っていると、目の前のテーブルに紅茶が出現した。


 いつ、どうやってやったのか分からないが、ヘルラのこの異質な能力に警戒しながら、初めて紅茶を口にしたクライ達は、似たような感想を漏らした。


「まっずぅ」「う、口に変な感触が」「ごふっ」「うげー、魚の生き血よりまずい」


 それぞれの反応を観察するヘルラは愉快に笑い出した。


「ふははははは! 愉快なリアクションありがとう!」


 まったく心意が読めないヘルラ、敵なのか味方なのか謎のまま、ブレイクキラーの四人はヘルラ一人に翻弄ほんろうされていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る