TAKE16︰対馬くんと私

 一ヶ月後。

「あっ! 来た来た! ねぇねぇ! 今のうちにサインもらっとこ!」

 いつものように、超絶長い坂道を歩いて学園に登校した、朝。

 あ。ちなみに私は、対馬くんのお父さんでもあり、星桃学園の理事長でもあり、ツシマプロダクションのプロデューサーでもある、対馬プロデューサーに頼んで、いつか対馬くんが使っていた、VIP専用学園地下通路の使用許可をもらったんだ。

 おかげで、坂道は800メートルから、約半分の352メートルに半減。

 少しだけ、日々の疲労が和らぎましたとさ★

「観・た・よーーーーッ! 鈴名さん! 【あの】レインを演ったんでしょ!?」

「『パワフルリカル!』に出演したんでしょ!? すっっっごいねーーーー!」

「さすが、伝説の声優の娘だね!」

 わいわい、キャイキャイと、私のまわりに集まってくる生徒たち。

 『パワフルリカル!』を観てくれたんだ!

 か、かなり、嬉しいかもーーーー!!!!! かもー! かもー! かもー!(エコー)

 ──「けっ! ぜんぶ母親のおかげなくせに」「ザコ二世が」「どうせすぐ落ち目になる」「チョーシ乗ってる」

 なかには、こんな、妬みや嫉みの声もあるけれど──。

 そこは、シビアな芸能学園の裏事情ってことで!

 鈴名宝は、こんなことくらいでつぶれたりは、絶対しない!

 ……って。

 ドドドドドドドド……!

 ん? なに、この地響きは──。

「宝ちゃああああぁあぁああん! わたし、感動しましたああああああああ!」

 ドーン! と私に飛びついてきたのは、今度、深夜アニメの準ヒロイン役に決まった、純情可憐な少女。

 どええ! ゆゆゆ、ユメちゃん! 準ヒロインにはあるまじき、鼻水が出てるよ!? 可愛いからいいけど!

「あ、アニメ観ましたよ。鈴名さん。レインのセリフ、ぞくっとしました。神崎茂人さんから代わったなんて、言われなければ気づきませんよ」

 ヒカルくんてば! そんな嬉しい言葉を、めっちゃ淡白に……! ユメちゃんと大ちがいなんですけど! ……ちなみにヒカルくんは、乙女ゲームのキャラである、異世界に登場するイケメン男性として、出演のスカウトが来たばかりらしい。

「ぐぬぬぬぬ鈴名宝ァァァ! これほどまでに一躍、有名人になるなんて……っ! たとえ友達であろうがなんだろうが、国民的美少女声優の座を目指す者としては、負けてはいられませんわーーーーッッッ!」

 レーナちゃん! やっぱりレーナちゃんは、めちゃくちゃ勝ち気で、夢に真っ直ぐな女の子なんだ! そのガッツ、私も欲しいっ!

 レーナちゃんは、なんとその明るいお嬢様なキャラを買われて、新人声優のたまごたちがトークする、バラエティ番組への出演が決まったそうで。

 国民的美少女声優への道も、そう遠くないかも? これも、チャンスに変えていってほしいな! 



 放課後。誰もいない教室。

 窓の外の夕陽が、プリズムしていてとってもキレイ。

「よ。宝ちゃん。アフレコ収録お疲れ様」

 最後に私の机にやってきたのは──対馬くん。

「よ、よォ……?」

 と、私はなぜか、いつにもましてのハスキーボイスで、ナゾのあいさつを口にしてしまった。

 あの熱烈応援メッセージが書かれた手紙をくれた本人が、いま目の前にいるというそのことが。

 そしてその手紙を、私はいまも大切に持っているのだというその事実がなんだかはずかしくて、私は変にギクシャク、モジモジしてしまう。

 あ、あれ──?

 私、なんでこんなに、胸がドキドキしてるんだ?

「なにギクシャクモジモジドキドキしてるんだよ?」

 ぎっくうー! まるっとそのまま、指摘されちゃったよ!(爆恥!)

「なななななっ! なんでもない! っていうか対馬くんね……──」

 お礼を、言わなきゃ。

「アフレコ収録の日、私の声が好きだって、そう言ってくれたよね……? 手紙をくれたんだ。だから私、そのおかげで頑張れたんだよ。ありがとう! ──輝臣サマ!」

 にこっ! と、全力のスマイルで、そう伝えることができた私。

 よかった、言えた!

 そんな私を見た対馬くんの表情が、みるみるうちに赤くなる。

 ……えっ? ええっ?

 わわわ私、なんか変なこと言った……?

 『さすがプロの声優だね』って、そういう尊敬の気持ちを込めて、『輝臣サマ』呼びしてみたけれど──。

 はっ! もしかして、気持ち悪かったとか!?

 私みたいなハスキーボイスに言われても、嬉しくねーんだよ的な!?

 ファンでもねーくせにとか思ってる!?

 でも! でもでもっ! 対馬くん、私の声が好きだって、そう手紙に書いてくれてたよね!?

 ひーん!(泣) 早くも後悔だよー!(号泣)

「ちょっと待って。それは……オーケーってこと?」

「ん? なにが?」

「だから! 俺が宝ちゃんのことを、すすすすすきききききききききななななな」

「対馬くん! というか、輝臣サマ! なんか壊れたロボットみたいになっちゃってマスよ!?」

「俺は! 宝ちゃんのことが好きだ。だから、ありがとうっていうのは、その……そういうことかなって」

 へっ!? え、え、え、どっえええええええええええええええええええ!?

 コクハクですかあああああああああああ!?

 まさかの!?

「わわわ、私───」

「俺を振るなら、はっきり言って」

「と、友達より少し上の、トクベツな友達から、よろしくお願いしますううううう!」

 私、まだ恋をしたことがないから。いまはこれがせいいっぱい。

「ん。ありがとう。宝ちゃん。──『いつか、【輝臣サマ】に、必ず惚れさせてやるから。カクゴしとけよ?』」

 ぞくぞくぞくっ──!

 や、やっぱり、思い切って付き合ってほしいって、言っちゃおっかな?

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