だって、声優ですから!★

守宮シイナ

0.プロローグ(CV︰鈴名宝)

 ──ビリビリビリッ!

 七年前。まだ幼かったころの私。

 そんな私の体の中心を、電撃のごとく貫いた、あまりにも熱くそして切ない、たしかな衝撃。

『宝ちゃん。きこえてる? あなたのママよ』

 よく響いてよく通る、高い声。なのに透明感があって、とっても可憐!

 まさに、超キュート! な、可愛すぎる声。

 この声は──今もなお、声優界に語り継がれる伝説の声優・鈴名葵のもの。

 私が生まれると同時に亡くなってしまった、私のママだ。

 ビデオに映る、その声によく似合った、若くキレイな女性。この人が、私のお母さん──。

 思わず涙が込み上げる。

 ──そう。私のママは、四十二時間にもおよぶ難産の果てに、死んでしまった。

 私の命とひきかえに、自分の命を落としちゃったんだ。

 私を命がけでこの世に誕生させてくれた、大好きなママ。

 そんなママの声は、ママが出演していたアニメでしか、聴いたことはなかったけれど──。

『ママは、天国から、いつも宝ちゃんを見守っているわ。宝ちゃんが生まれたときにあげた産声は、わたしが今まで聴いてきた、どんな声よりも愛おしかった──。寂しがり屋なパパを、どうかよろしくね』

 ビデオメッセージは、そこで終わっていた。

 これが、ママの声──。

 ママが私に向けて話してくれた、最初で最後の言葉。

「──宝。またママの声を聴いていたのか? 宝って名前はなァ、宝が、俺と葵を結ぶ、宝物っていう意味でつけたんだよ」

 生きていて、これまでなにげなく思っていた自分の名前に、そんなにあたたかい由来があったんだ……。

 ありがとう、天国のママ。そして、パパ。

 ママが私に言った言葉はそれっきりだったけど、ママはときどき夢に出てきてくれて、私に話しかけてくれる。

 だから私は、私と話すときの、ママの声を知ってる。

 ──そう。あの、病院の産科で録音された、ビデオメッセージを聴いたときから。

 私は誓ったんだ。

 いつかぜったいに、ママみたいな、大人気声優になってみせるって!


 ◇


 ──時は流れ、現在。十二歳になった私はというと。

「──は・ん・た・い・だ! 宝が葵のような声優になんか、絶対になれるわけがない!」

「このガンコオヤジがああ! 私が声優になれるかなれないかなんて、そんなのわかんないでしょ!?」

 声優になりたいから、中学校は声優科のある芸能学園を受験します──そう、パパに言ったんだ。

 そしたら、全力で反対してきた(ムッカー!(怒))

 でも、パパの言いたいことも、わかるっちゃあわかる。

 私がママみたいな声優になんか、なれる可能性は低いよね。

「だっておまえは──」

 そう、だって私は──私の声は。

 ママのような、聴く人全員を萌え萌えにさせちゃう、透き通ったキュートな声じゃあなくって、まるで男の子みたいな超絶☆ハスキーボイス(低い声って意味だよ)だから!(号泣)

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