光芒の竜共人

ロールクライ

第1話 異の斯界


俺は龍嶋森羅は少し冴えない普通の高校生である。

眼鏡に短くはない前髪だが、まあ顔は悪くはない・・・と思う。

勉強の成績は毎度平均点ほど。

低いと下回るが毎回下回るわけでもない。

両親は父親が行方不明で母親は俺が小さい時に亡くなったと聞いた。

一人暮らしで学校に許可を取りアルバイトをしている以外は普通の高校生だと思う。

今日は学校が学校側の都合で早く終わりアルバイトも特に仕事はなかったため家でスマホを見ていた。


「なんだ…これ?」


俺は一つのメールが届いていることを確認する。

そのメールのタイトルはことの斯界と書かれそこには一つのファイルが添付されていた。

怪しすぎる…スパムメールの類だろうと自分でもそう思っていたはずなのに思わず添付されていたファイルを開いてしまった。

すると、スマホはすぐさま再起動のモードに入る。


「ダメなやつだったか…。」


そう声にだした。

やってしまったことだ。

幸い、使っていたスマホは劣化していて変えようとしていたものだったし、あのスマホには名前などはあっても口座などは関係がないスマホだったから生きていけないほどのものではないはずだ。

でも、一応と再起動されたスマホを見る。

スマホはまるで初期化されたかのように検索と写真とカレンダーくらいしかなかったが一つだけ先ほどまでのスマホにはないアプリが堂々とホームにあった。


『異の斯界』と書かれたアプリがそこにはあった。

恐る恐るそのアプリを開いてみる。

すると、ようこその文字とともに俺のプロフィールが画面に表示される。

そこには身長や体重、名前に生年月日などを中心に俺のプロフィールが書かれていた。

そしてその下に俺の知らない情報が一つ。


◇◇◇◇◇


【固有能力】

道具強化

道具生成

笆?笆?笆?笆?笆?笆?

≫?晢シ?シ?シ?シ??呻シ


【パッシブ】

同調

精神安定

成長補助

再生補助



◇◇◇◇◇



「能力?」

…ゲームみたいだった。

肝心の能力は文字化けだらけで何もわからないが。


「もしかして、リアルをもとにしたゲームの誘いだったのか?いや流石にそれはありえないだろ。」


なんてらしくない独り言を吐きながらスマホの電源を切り、料理の準備を始めた。

今週末はアルバイトを休んで新しいスマホでも見に行こうと考えながら。

そんな時だった。

ピンポーンと、インターホンが鳴る。

はーいと返事をしながら玄関へと向かう。



この時、扉を開けなかったら……

そもそも添付ファイルを開かなかったら。

俺は普通の人生を送れていたのだろうか。



玄関を開けた瞬間、俺は強い衝撃に襲われた。


「ッ……!!」


痛いのは嫌いだった。

子供の頃からそういうことから疎かったから。

喧嘩もしたこともない。

それなのに俺の目の先にいたのは金属バットをもった覆面の男であった。

男は俺の家に入ってきて口を開く。


「お前。なんでって顔してるな。教えてやる義理もねえが…まあ、ファイルを開いたことといい。アプリを開いたことといい。近くに俺がいたことといい。てめぇの運が悪かったからだ!」


男はそういい、金属バットを構えながら俺に近づいてくる。

「ッ…。」

俺の心は思ったよりも冷静であった。

以前の自分なら、怖気づいて泣いていたかもしれないがなぜか俺の思考はいつもと同じようにできた。

相手が武器を持っている。

相手の方がリーチが長い。

そしてこっちは無手だ。

ふと、男の言葉を思い出す。

『ファイルを開いたことといい。アプリを開いたことといい。』

つまりはあのアプリが関係があることだ。

いつになく冷静に考えられるのも精神安定のパッシブがあったからだろう。


「俺は負けない。いや、殺されない。少なくともお前みたいなやつには!」


作るは板材。材質は…木でいい。

できないという発想はない。否、いらない。

できるという自分だけ考えろ。

すると、俺の前に木でできた板材が出てくる。

少し頭がクラッとするが関係ない。

俺は板材を手に取り、相手に投げる。


「おっと!」

だが、男は冷静にバットを軽く振り板材を破壊する。

もちろん、想定内だ。

俺は板材を作り終わると同時に作り始めたものをもち、男に突いた。

作ったのは木刀だ。

俺自身に馴染みはないが、一人の友達がよく持っていたのでよく覚えている。

男は俺に突かれたところをそっと手を抑えながら言う。


「もう、能力を使い始めたな!俺よりもスジはいいようだ。さしずめ道具を作る能力ってところか?」


男はそういい、バットに手を当てる。

すると、バットは金色に光り出す。

まずいと思った俺はすぐさま、外に出た。

もちろん、玄関からではない。

窓からだ。


「待て!」


男も同様に窓から出ようとしたためそこに向かって木刀を投げる。

男はそれを見てバットを振るう。

バットが木刀に触れたとき、木刀は粉微塵となった。

顔が引きつっていくのがわかる。

いや、殺傷能力高すぎるだろ。

俺なんかもの作るしかできないのに…!

そう思いながら、走る。

目的地は人が多いところだ。

そこまで行けば、男も追いかけてくるのをやめるだろう。

そう考え俺は人通りの多い場所へと走るのだった。




_____________________________




ざっと、十分くらいたっただろうか。

すでに人通りが多い場所についているはずだ。

なのになんで

なんで

「人っ子一人見当たらない?」

「人なんかいるわけねぇよ。」


気づけば、少し後ろまで奴が迫っていた。

奴はどうやら覆面を外しているようでその素顔がわかる。


「人がいないはずがない。この時間は少なくとも車とかは多いはずだ。」

「だからいねぇって言ってんだろ。新入りだから知らねえだろうから教えてやるよ。俺たちはな。まあ、異の斯界という名のデスゲームに参加させられてんだよ。もちろん、参加してるやつは自ら望んだ奴もいるがそのほとんどが巻き込まれた奴らだ。」


奴は呑気にも話始める。

正直なんの情報もなくて厳しかったが、この男が教えてくれるならありがたい。

まあ、家で攻撃してきたことは許してないが。

そんなことを考えながら話を聞く。

もちろん、いつでもものを作り出せるように待機はしている。


「噂では犯罪者とかは無理矢理参加させられてるんだとか。人ってのは存外環境で変われるものなんでね。まあでも死にたくなきゃ一応安全地帯もあるぜ、俺たちアプリプレイヤー限定のな。そこでの殺しはなしって言われてる。位置が知りたいってんならスマホのアプリにある地図でも見るんだな。結構あるぜ、安全地帯。それに元の人がいる世界に一時的にでいいなら帰ることもできる。」

「じゃあ、なんで人を殺す?」


男が言った条件なら人を殺す必要がない。

安全地帯もあって、元の世界にも戻れる。

ただ能力が手に入るだけだ。


「そりゃ簡単だ。元の世界に戻るためだ。」

「…どういうことだ?お前は元の世界に戻れるって。」

「一時的にって言ったろ。…言ったよな?まあ、そのまんまさ。人を殺すことで俺たちはポイントを得る。そのポイントで俺たちは元の世界に戻れる。それまでに必要なポイント数がざっと十万くらいだったか?人一人で百ポイント。ポイントゲットの方法はある。でも、それらは効率が悪いってわけだ。」

「効率が悪くてもポイントってのはたまるんだろ?なら、人を殺さなくても…」

「一日中働いて稼げても二百ポイント程度の状態で?あと一か月で十万ポイント貯めろってか?そりゃ無理な話だろ?」

「あと、一か月だって?!」

「ああ、今日…いや明日か?まあいい。それまでが参加者締め切りでゲーム終了まではあと一か月だ。わかるか?残り三十日だ。それまでにポイントが集まってなかったら揃ってお陀仏だ。」


そんな念入りに言われなくても一か月くらいわかる。

…生きたいからか。

この男の言い分も間違ってはないと思う。

生きるために人を殺す。日本でなくて紛争地帯なら当たり前くらいのものだと思う。


「お前が人を殺す理由はわかった。でも、待ってほしい。」

「…ほう?」

「一週間だ。一週間で他に手がないか探す。それまでは人を殺すのは待ってほしい。」

「…俺がそれを守る確証は?」

「ない。でも、お前は殺しを良くは思っていないんだろ?」

「…へぇ?よく見てやがる。まあ、いいさ。一週間だな。待ってやる。ほら、連絡先よこせ。」

「随分、飲み込むのが早いんだな。でも、助かった。」


そう俺が警戒をといてスマホを取り出そうとした時だった。

男はバットを振るった。

一応、木刀で守ったが大きく吹き飛ばされる。

「ガハッ…」と口から血がでる。


「すまねえな。確かに俺は殺しを良く思ってねえし好きだから殺してるわけじゃない。でもな、その程度で俺が思考を変える足軽だとでも思ったか?それこそ、もうすでに死んでる奴らの冒涜だと俺は思うが?まあ、なんでもいいけどな!」


男はそう言い放ちこちらへと向かってくる。

わかってる。

わかってるはずなんだ。

何かを作らないと。

間違いなく死ぬ。

死ぬのは嫌だ。

「まだ。死ねない!」

その時、俺の声に乗じてスマホが光る。


◇◇◇◇◇



笆?笆?笆?笆?笆?笆?→天■■■竜



◇◇◇◇◇


そう文字が変化した。

それに応じてか俺の周りに風が暴風が俺を守るように吹き始める。

次の瞬間、暴風はなくなっていた。

そこにいたのは女の子だった。

高校生ぐらいの美人だった。

だが、彼女に鱗があると確認するとともにまるで蛇にでも睨まれたかのような恐怖を覚える。

「人を召喚する能力?そんなこと聞いたことも…。」

男は同じように睨まれたのか動きが止まる。

「はっ。ありえねえだろ。」

だが、彼の経験則かそう判断したのか彼は彼女に挑むらしい。


俺はこのとき、ただ見ているだけだった。



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