ザッツ・ライフ

酸梵

誰も悪くない

ごった返す改札を出、デッキを降り、動きの渋い自動ドアの前で一瞬立ち止まり、空いている店内を一瞥、券売機に五百円玉を投入、押下。

駅前の富士そばでかけそばを一杯。これが夜勤明けのルーティーンだった。

しかし券が出てこない。何回やっても駄目。おかしい。とりけしボタンを押すと百円玉が一枚。

「店員さん、これ」

怪訝そうな顔をする若い女性店員。厨房にいた店長らしき男性とも目が合う。

「……」

この時点で五百円玉が百円玉になったのではなく最初から百円玉を入れていただけだったと気づく。

「あ、大丈夫です」

「……」

「そばで」

それ以来、富士そばに立ち寄ることはなかった。

駅構内のいろり庵きらくの方がおいしいし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ザッツ・ライフ 酸梵 @NNN8008

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る