第25話:クォイラと社交界と日常へ・前篇
クラスS冒険者ガクツチ・ミナトの失踪。
冒険者にとって失踪という状況自体は時折発生する。
以前参加したコボルトの異常行動だって、あの喰われた2人の冒険者はガクツチが死体を見つけて確認するまでは「失踪」として扱われているからだ。
そして冒険者自体は何時でも辞められる、そして何時でも始められるの売りで、一度引退してまた始める冒険者なんてたくさんいる。
だがそれは一介の冒険者としての話で、クラスSという母国では全員支配者階級に名を連ねて国益をもたらす存在は例外と言っていい。
しかも一方的に「辞めます」とだけ、手紙を送り出しての失踪。
これは国益の損失だ。
当時、世界中が大騒ぎになったのは言うまでもない。
そしてガクツチの失踪を知り、公爵の不興を恐れた有力貴族達は、すわ一大事とアマテラスのメンバーである自分をアルスフェルド子爵家から除籍するようが殺到するが。
――「必要はないだろう? 彼女はクラスSに見込まれた逸材、彼女を除籍し追放するなど愚の骨頂だよ、それに何時でも始められて、何時でも辞められるのが冒険者じゃないか」
とまさかの公爵の言葉でクォイラの除籍は免れた。
とはいえ今回の社交の主催者である伯爵はその公爵の子飼いの男、だからこんな感じで公爵への媚び売りの為に、私を呼び、見せしめとばかりに晒している。
更に自分のクソ親父もそれを利用してこうやって私を人身御供にして、愛人と遊び惚けている。
しかも「失踪後、ヒモを養う」なんて奇行すら噂になり、上流階級としても女としても彼女を相手にする人間はいなくなる。
それが今の自分の立場だ。
(ま、それは狙っていたことでもあるんですが)
だからあのセシルは落とせるとばかりに近づいているのだろう。まあ気を持たせるようにしてもいいが、取り巻きの女達が面倒だ。
「…………」
それに実は参加した目的はもう一つある。
さてそろそろかと思ったら。
「クォイラお嬢様」
と封書を差し出す。
「……いいでしょう、よしなにとお伝えください」
「かしこまりました」
と使用人は姿を消し、再び戻ってくる。
「さて、義理は果たし、目的は達成、私たちはこれで失礼しましょう」
と侍女達に伝える。
「はい、お疲れ様でした、お嬢様」
と伯爵邸を後にしたのであった。
――ギルド・ジョーギリアン
「ふっふっふ、ふが3つ」
俺はいつものとおり家賃回収に来た大家さんの前にして勝ち誇っている。
「ドヤァ!」
と溜まった家賃全部が入った革袋をどさっと机に置く。
説明しよう!
言っておくがティンパファルラの金ではない、ましてや馬でもない。
前回のコボルトの異常行動についてクエスト。終了後にファルが書いた論文について、追加調査の依頼が来たそうだ。
ファル曰く「どうでもいいレベルに本当にこだわるよね」と愚痴っていたが、まあ調査した事実が欲しいとばかりに一緒に向かう事になった。
いやはや、金はあるところにあるものだ、コボルトの追加調査なんて、異常行動さえ起こしていなければクラスDレベルなのだが、なんとクラスCの報酬、ちゃちゃっと終わらせて山分けしたのだ。
ちなみにファルは、今研究所にいて追加の論文を書いている。
ってなわけで、もちろん過ちは繰り返さない、金はあるうちに借金を返すのだ。
「さあ、大家さん、これで文句はないでしょう?(爽) 思えば、根無し草同然の私を拾ってくれた大家さんの善意に甘えっぱなしの日々でしたね(爽)、お金は信用、滞納の事実は消せませんが、少しでも誠意を見せられたと存じます(爽)」
ほら、兵藤会長も言っていたじゃないか、借金の誠意なんて一つしかない、それは金を返すことだと。
「…………」
視線を皮袋に落としていた大家さんは顔を上げて。
俺に軽蔑した視線を向ける。
「私がアンタを店子として入れたのは、貧乏人なのは分かっていたが、人としては信用できるからだと思っていた。実際家賃滞納しても、細々と払っていたし、だけどね」
「他人様の金を手を出すようなクズから金は受け取らない!! 溜まった家賃はいらない!! その代わりとっとと出ていきな!!」
(;゚Д゚)エエエーー!! ←ガクツチ
「あ、あの、大家さん、こ、このお金はね、ちがくて」
「違う!? そうか!! クォイラ嬢に恵んでもらったのか!! 男なら自分の金は自分で稼ぎな!! このゴクつぶしが!!」
「大家さん、お願い信じて、これ本当に自分で稼いだ真っ当なお金なんですよ(ノД`)シクシク」
●
「という訳なんです、本当に真っ当な金ですよ」
とたまたま遊びに来たクォイラが来てくれて説明してくれる。この金は、ギルドの依頼で得た真っ当な金だと。
「なるほど、クォイラ嬢が言うには確かなんでしょうね」
「ねえ、どうしてクォイラのいう事は、あっさり信じるの?」
「男が細かいこと気にするんじゃないよ、ってほら」
じゃら、とお金を一部戻してくれた。
「あれ? 1か月分多かったでした?」
「さっきの言葉じゃないけど、誠意は伝わったし、疑ったお詫びね、一か月まけてあげる、生活費に使いなよ? 馬に突っ込むんじゃないよ」
「ウルウル、大家さん」
よかった、これはマジで助かると、大家さんはお金をもってギルドを後にしたのであった。
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