第17話:冒険者の日常の結末と浪花節? ~アマテラス・ティンパファルラ~



 この世界は魔物の脅威に脅かされており、その脅威度は冒険者と同様にランク分けされている。


 冒険者としてのクラスC壁を超えた者と称されるのなら、魔物もまた同じように評される。


 一般人がクラスCの魔物と出会った時に思う事は。



 命を諦めることだ。





 現在、学生たちの前では阿鼻叫喚ともいえる光景が広がっていた。


 男子学生はへたり込んで、女子学生は身を寄せ合って泣いている。


 目の前にいるクラスCの魔物は、体長16メートルの蛇の様な姿をしている。


 その魔物は丸のみにした獲物で腹を膨らませて、体をくねらせながら味わっている。


 獲物として呑み込まれたのは人間だ。


「せ、せんせい」


 学生たちは、かろうじて、呑み込まれたに呼びかけるも、当然に言葉は帰ってこない。


 学生たちは、都市外の課外活動中だった。


 引率した大学教授が、都市外の近隣にクラスCの魔物が出たから見学と実習を兼ねた課外活動をすると希望者を募り近所の森へ出かけた。


 それは一瞬の出来事だった。


 先頭を歩いていた大学教授が、凄まじいスピードで現れた魔物に一瞬で丸のみにされたのだ。


「シュルル」


 気持ちよさそうな、魔物はまだ腹を満たしていない様子を見せるも、生徒達を襲う様子はない。


 それはそうだ。


 逃げる事すらできない獲物を前に、わざわざ追撃なんて必要ないからだ。


 その時だった。



「グ、グッ」



 不自然に体が折れ曲がったと思うと。


「グアアアアアアァァァアアアアァァァ!!!!!!」


 とのたうち回る。


 その時、ボコンボコンと不自然に、身体が膨らんでは元の形に戻る。


「グアアアアア!!!」


 耳をつんざくほどの悲鳴と、ベチベチという奇妙な音ともに、バキバキと内部で骨が折れる音がすると、


 そのままズシンと倒れ込み、ぴくぴくと震える。


 次の瞬間。


 ミチミチと腹部のあたりから割けて手が伸び、血まみれで出てきたのは。



 1人の女性だった。



「どっこいしょっと、さて、講義の続きをしようか。最も基本的な事、魔物とは何なのか、その定義は実は未だに不明なんだ。生物学として紐解いても、魔物と魔物以外で差したる差もない、だが明確に生命の進化の外れたようなこの謎の生物」


 右手に持っていた光り輝く宝石。


「唯一魔物にあってそれ以外の人物に無い物、これがそのコアと呼ばれるものだ。どんな魔物でもコアが存在する。そしてどのランクでもコアを物理的に取り出すか、破壊するかで死亡する。これはクラスSの魔物、ドラゴンでも変わらなかった」


「このコアは非常に便利でね、色々な用途としても使えるが、宝石としても使える。クラスC以上は非常にレアだから男性が意中の女性にプロポ-ズで使ったりするんだよ、ボクは貰ったことないけどね、はっはっは」


 先生と呼ばれた人物は、怯えている生徒達を見渡す。


「大丈夫だよ、怖がる必要はない、魔物の死と人の死は変わらない、そして死体は何もしない、生き返る事もないし、そんな魔法も存在しない、これもまた変わらない。だから安全だ、ほら、見たまえ」


 コアを血を拭いもせず、そのまま近くにいた女子学生の手を取り出して渡す。


「ひっ、ひっ、ひっ」


 涙ぐみながら振り落とすこともなく、嗚咽交じりにみる。


「どうした? 綺麗だろう? 虹色に輝く宝石だ。女性としてプレゼントされたら心ときめないかい? とはいえこれは学術資料として収集したから、横領、転売は犯罪だよ?」


「……は、い」


「さあ、大学へ帰ろう、検体と共にね、死体の解体作業を嫌がっていては駄目だよ?」


「せ、せんせい」


「ん? なんだい?」


「た、たべ、食べられて、どうして?」


「ああ、心配ありがとう、大丈夫だから、ワザとだから」


「……ぇ?」


「ボクの仲間がね「賢者は知識に学び、愚者は経験に学ぶ」なんて言葉があると言っていたが逆だと思うんだ。経験ほど素晴らしいモノはないよ、出没したクラスCの特徴を聞いてさ、獲物を丸のみにするぐらいだから優れた消化能力を持っているのかと思いきや、全くそんなことは無かった、衣服位は簡単に溶けると思っていたのにね」


 とケラケラと笑う女性に学生たちは何も言えなかった。




――ルザアット大学




 周りは彼女を遠巻きに見ている。


 何故なら彼女はズン、ズンと地響きをさせながらクラスC魔物の死体を背負って歩いているからだ。


 ちなみに一緒に来た生徒達は学校に帰ると同時にいなくなってしまった。



「ああ、ほら、あの人」

「あの有名な」

「あんなに綺麗でスタイルも頭もいいのに」



 という声が聞こえると、


「陰口は感心しないなぁ」


 という血まみれの笑顔で凄惨に微笑む。


「ひっ」


 とそそくさと逃げ出した。


「あらら、別に気にしていないのに、冗談なのに、まったく、近頃の生徒達は根性が無くていけないね」


「あ、あの、いいかね?」


 男の声が聞こえたので振り向くと、そこには1人の初老の男性が立っていた。


「あら、学長じゃないですか、何用です?」


「あ、あいかわらず、だね、その、あの」


「? 論文の提出は既に終わっていますが?」


「い、いや、例のコボルトの件、出発日が決まったことを知らせに来たんだ」


「ああぁ! そう! そうですか! これは楽しみ!」


 血まみれで夢見る少女のように微笑む。


「そうか、やっとアイツに逢えるのか、あのアンポンタンめ! おっと余りベタベタし過ぎるとあのヤキモチ焼きのクォイラが本気で怒るからなぁ。さてさて、となれば早速、この検体はちゃちゃっと解剖して用意しないとね、ああ、そうだ、学長、いいですか?」


「な、なんだね?」


「大学辞めます」


「……は、はぁ!? 何故だね!? 給料は他の教授の倍は出しているが!」


「給料には満足していますよ。理由は簡単です、思ったよりもつまらなかったので、生徒達もいなくなりましたし」


「ちょちょっと待ちたまえ!! 賢人会に所属する君を失う訳には!! というか辞めて何をするんだね!?」


「大丈夫です、やる事やってから辞めます。元から教授なんて向いていなかったんです、あ、誘ってくれた大学や学長たちには感謝しています。とても「良い経験」でした。てなわけで冒険者に戻りますよ、クォイラからも誘われていますから」


「ク、クォイラって、あ、あのアルスフェルド子爵家の、って、アイツに会えるって、冒険者に戻るって、まさか! 君は! あの失踪中の!?」


「いいえ、カミムスビの方ですよ? アマテラスはクラン長がアンポンタンなんで、何処にいるか分かりません」


「あ、あ、アンポンタンって、だって、アマテラスは、あの伝説の冒険者、クラスS、ガクツチ・ミナトが」


「そんなこと言いましたっけ?」


「さっき、アイツにあえると」


「記憶にございません、そんな訳で後はよろしくお願いします」


「…………」


 呆気にとられる学長を余所にズシン、ズシンと歩みを始める。


 賢人会。


 世界最高の頭脳集団、あらゆる分野での功績が認められた時に加入が許され、知恵の樹へのアクセスが許される特権を持つ、彼女は最年少で加入が許された。



 世界の真理を解き明かすことを至上命題として、自身の好奇心を満たすためなら手段を問わない奇行も多く、変人奇人いや。



 狂人。



「狂気のマッドサイエンティスト! えーと、ビョウドウイン、ホーオウドウ? だっけ? なんか萌えあり泣きあり笑いありの素晴らしい面白い作品とか言っていたけど」


 世界最高位の冒険者、クラスSガクツチミナト。


 彼が率いるクラン、アマテラス、そのメンバー。


 彼女の名前はティンパファルラ。


「さーて、どういじめてやろうかな」


 くふふと笑うのであった。



――ギルド・ジョーギリアン



「うーんうーん」←ガクツチ


 その日の夜、ガクツチは悪夢にうなされていた。


 その悪夢は、アマテラス時代の話、ティンパファルラとの話。


「魔物の繁殖方法に注目した時、これもまた、それ以外の生物と同じでね。卵生、胎卵生、育児方法も本当に様々だ」


「つがいになる方法も、蛇のように「乱交」の習性もあったり非常に面白いが、ハーレムを作る種族もあるんだ。生存効率を考えると決して悪いとは思わない。だってそれは」



「人にだって言えるものなのだからね」



 ティンパファルラはバサッと1冊の本をポンポンと叩く。


――タイトル:モテてモテてもう大変、しょうがない順番だよ♪


 他4点すべてハーレム物。


「だからガクツチがハーレム物が好きでも決しておかしい話ではない。生物として考えた時に、人間に限らない」


 立ち上がると耳元でささやく。


「だからボクは君を軽蔑しない、仲間だもの、ああ」


 すっと離れると手を軽く合わせる。


「アマテラスが君以外全員女のはそういう意味が含まれているのかな? クォイラあたりが聞いたら、想像するだけで怖い怖い、まあ、ボクはさ、余りそういうのに拘りはないよ、ただアマテラスのメンバー限定だよ? それなら甘んじて受けてもいい。ただ、、」



「ボクの趣味に一生付き合ってね♪」



「はっ!!!!」←ガクツチ


 はー、びっくりした。


 あ、あれって、今考えれば、エロ本を持っていて許されていたんじゃなくて、アイツなりに問い詰めていたんじゃないか。



 とそんなしょーもない悪夢を見ていたのであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る