第13話:はじめてのくえすと・後篇



 そんなこんなで始まった、はじめてのくえすと。


 冒険者の心得を教えた後、2人は翌日に約束を交わし門の前で待ち合わせすると意気揚々と外に出た。


「~♪」


 女の子を後ろに意気揚々と先頭を歩く坊主。


「大丈夫、ちゃんと守るからね!」


「うん!」


 2人は笑顔でそんなことを言い合う、微笑ましいのう。


 そうそう、当たり前のことだが、都市外は危険があるのは常識であるため子供達だけで外に出ることはできない。


 だが俺が隠れてついていくことで了承してもらった。


 当然に両親の許可は得てある。ギルドを開設にするにあたり、地元の商会にも実は入っていて、ホヴァンとかもその流れで知り合ったのだ。


 当たり前ではあるが、冒険者にするつもりなんてないし、当然に10歳では戦闘なんてできない。


 だからこそ武器も持たせていない。当たり前だ、武器なんて使い慣れていないと下手をするとそれで自滅したりする。


 んでクリコの花は難易度はクラスDとは述べたとおり入門クエストでもレベルが高すぎる難易度。


 だからこそ。


 どさっと、俺は魔物を放り投げる。


 あの2人を襲おうとした魔物をこうやって隠れて始末しながら進んでいる。


 今回は、それこそ子供の足でも行けるところにある分、比較的強い魔物が出るルートだ。


 はじめてくえすと、まあ俺があの坊主のデートを完遂させてあげる事が今回の目的だ。


 だが不安があった、地図を渡したけどちゃんと目的に向かえるかどうかだ。


 地図を見て目的地に達するというのは、当たり前だと思うかもしれないがこれが難しい。


 ここは異世界、日本のように整備された安全な道を進むのではなく、高低差や曲がりくねっていたりする道。


 進むだけで高難易度だ、嘘じゃない、元いた世界だって人は森の中を進めば簡単に方向感覚を失い地図は役に立たなくなり遭難する。


 冒険者の死亡理由には「遭難」が常に上位に連ねる。


 だから、先に述べたとおり安全なルートを記した地図を渡したが、それでも大丈夫かと思いきや、意外や意外。


「ここを通れば安全だよ」


 と言いつつしっかりと進んでいる。


 自信を持った男の様子に女の子も安心している様子だ。


(ほほう、やるではないか)


 ひょっとしたら冒険者の素質はあるかもしれない。


 そんなこんなで、危なげなく道中をすすみ、俺も魔物を排除しつつ、進んだ結果。


「わあ~」


 とは女の子の声。


 ここはクリコの花の群生地、確かに花にはあまり興味がない俺でも綺麗で見惚れてしまう光景だ。


 そんな中、坊主はなんと花束を作り始めた。しかも手慣れた様子は練習してきた感じだ。


「はー、やるなぁ、坊主」


 ちなみにこの採取クエストは定番中の定番だったりする。


 ベタだけど女に花束は異世界でも一緒だ。クエストランクもクラスDで冒険者としては結構稼げるクエストだったりする。


 花束か、思えば女に花束なんて俺は渡したことはない。ふとクォイラを始めとしたアマテラスの面々の顔が重い浮かぶ。


 アイツらにプレゼントしたら喜ぶのだろうか、思えばクォイラには凄い世話になったのに何もしていない、アイツはある目的の為に凄い頑張ってくれている。


 そんな俺の考えを余所に坊主はいそいそと花束を作ると女の子に向き合う。


「はい! プレゼント!」


 ぎこちない手つきで花束を渡す。


 このシチュエーション、クリコの花の群生地でのプレゼント、そうか、そこまで考えていたんだな、頑張れ男の子!


 シチュエーションは完璧。


 後は彼女の言葉を待つだけ。


 そして笑顔で花束を受け取った女の子はこう言い放った。











「ありがとう! これを好きな人にプレゼントして頑張るね!」






「「…………」」



(;゚Д゚)エエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!! ←坊主、俺



――ギルド・ジョーギリアン



「…………」←壁に向かって体育すわりをしている坊主



 こ、これは、なんと声をかけていいか。


 あの後、坊主は呆然としながらも、女の子の自宅までしっかりとリードした、いや、これはもう、よくやったと称賛してもいいぐらいではないか。



「坊主、よくやったぞ! 男としてちゃんと女の子を守り切ったな! これだけでも冒険者として素質はあるぞ!」


「…………」


 復活する様子はない、だが光明がある。


 それはさっきの女の子の好きな人についてだが。



 まさかのセシル・ノバルティスだったのだ。



 冒険者新聞での情報とおり、セシルは今この都市に来ている、それを聞いての事なのだそうな。


(しかし、あの女の子、自分への気持ちを知った上で利用したわけだよな…………まあいい、言っても栓なきことだ)


「坊主、一ついいことを教えてやる。セシルは女好きだが、君たちの年代は流石に対象外なんだぜ!」


「ピクッ」


「(よし!)つまり君にもまだチャンスがあるということだ! さっきも言ったとおり冒険者の素質はあるぞ!」


 俺の言葉で坊主は立ちあがる。


「わかった! ギルドのおじさん! 僕は決めた!」


「お兄さんな! なんだね?」


「クラスS冒険者になる!」


「おお! そうか!!」


「クラスS冒険者って、お金持ちなんでしょ!」


「もちろんさ! 二桁の豪邸を世界中の高級住宅地に持つことができるぞ!!」


「しかも貴族にもなれるんでしょ!?」


「おうさ! クラスS冒険者は全員がそれぞれの国での爵位持ち! クラスSにならずもクラスAでも爵位を与えられた奴もいるぜ!!」


「勲章とか色々偉い賞をたくさんもらえるって!」


「あたぼうよ! 勲章やらトロフィーやら賞状だけで部屋が埋まるほどに!!」


「綺麗な女の人にたくさんモテるって!」


「それは人によると思います」


「え?」


「えーっと! あ! あの、有名なほら、その件のセシル・ノバルティス! 仲間の女は全員自分の彼女にしているし、色々な王女とか貴族とかに凄いモテてるぞ!!」


「……おじさん、セシルを知ってる人なの?」


「うううん、しらないよ! 後おじさんじゃなくてお兄さんね! まあ、なんか雑誌で読んだような気がする!」


「?」


「まあ! まずは、たくさん勉強してたくさん運動しなさい! 冒険者は、戦闘だけじゃない、頭脳で貢献したり、技術で貢献したり、依頼内容だって色々あるからな!」


「うん、頑張る!」


「その時は、ギルド、ジョーギリアンを利用したまえよ!」


「それはもっと凄いギルドに頼むよ!」


「そうだね!(#^ω^)ピキピキ」


 と最後はお互いに手を振って別れた。


 ふいー、立ち直ったようでよかった、まああの切り替えの早さも冒険者向きかな。


 冒険者ってのは失敗してもいい、大失敗だってしてもいい。そんなものいくらでも挽回がきく。



 冒険者としての一番大事なことは命を落とさないことだ。



 ファンタジー異世界でも、蘇生魔法は存在しないのだから。


「さて」


 あの坊主じゃないが俺もやる事が出来た。





「…………」


 目の前にいるクォイラは驚いて目を見開いている。


 俺は、クリコの花束をクォイラに渡している。


 坊主を帰した後に、クォイラに連絡を取って飯に誘ったのだ。んで飯の前に早速渡そうとして今の状況に至る。


 そう、俺も坊主に倣っていそいそと花束を作っていたのだ。まあコイツの事だ、キモがられるかもしれないが、感謝の気持ちは伝わるだろう。


「どういう風の吹き回しです?」


「えーっとさ、その、アマテラスの件で色々迷惑をかけたし、お前の上流での立場も悪くなっているし、とはいえ今の俺は何もできないし、でも礼らしい礼もしないのもと、その~」


「…………」


 じっと花束を見つめるクォイラであったが。


「気持ちは伝わりました。別に貴族の立場は悪くなっていませんよ、計算の上ですし、まあ、私のことを考えてくれたのです。仕方ないから貰ってあげますよ」


「あ、いや、別に無理ならいいんだよ、ごめんな、やっぱり柄じゃなかったか」


「ギロッ!!」


「ビクッ!」


「いいから寄越せと言っているのです、分かりますか?」


「わ、分かりました」


 とおずおずと渡す。クォイラは表情を変えず抱きしめるように花束を持つ。


 な、なんだろう、なんかよく分からない。


「えーっと、その、飯でも」


「異世界ベルムス巻」


「へ?」


「あのまずい異世界ベルムス巻が食べたいです。目玉焼きを乗せてくださいね、えーっとラピュタ食い、でしたか、あれをしたいです」


「え!? それでいいならいいけど、って別にまずくないよ!」


 といそいそと準備を始めたのであった。


 喜んでいるんだよな、多分。


 おしまい


:用語解説:

 冒険者新聞

  世界ギルドの会費代わりで発行している新聞。

  冒険者動向だけではなく、世界情勢も網羅している。

  冒険者以外にも愛読者は多く、かなりの利益を上げている。

  取材専門の冒険者も存在する。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る