ハイステップ↔シークエンス
しろた
祠壊してハッピーエンド
「あ」
と言ったときにはもう遅い。ダチと投げ合っていたソフトボールが、『それ』にぶつかった。ガチャン、と石が割れるような音がした。
「やば。え、やば……! 壊しちゃったじゃん!」
慌てて『それ』に駆け寄ったダチが、ソフトボールによってぐちゃぐちゃになった様を見て大きな声で言った。
「これ怒られんじゃね?!」
それはまずい。この前二人で溜め池に入って遊んでいたら、知らんじいさんに叱られて、学校に連絡された。もちろん俺達はこっぴどく怒られて、反省文を書かされた。誰にも迷惑かけてないのにな、ひどいよな。
「いや、まだいける……!」
「まだ、とは……?!」
ごくり、と俺は唾を飲み込む。そして落ちていたソフトボールを拾って――
「こなごなに壊しちまうんだよぉー!」
「てんさーい!」
もういっぺん『それ』に向けて、全力投球した。そしてダチがリバウンドして戻ってきたソフトボールをキャッチし、また投げつける。
「アルプス一万尺」
「こやぎのうーえで」
「アルペンおどりを」
「さーおどりましょ!」
二人で歌いながら『それ』をこなごなに壊し終えた頃には、すっかり日が暮れていた。
「やば、これはこれで怒られる。今何時だろ」
ダチが制服のポッケからスマホを取り出して、時間を確認しようとした。
「んえ?!」
「うわっ、なんだよ」
「ちょちょちょ、見て! なにコレ! こっわ!」
ダチがずいっと俺の顔に向けてスマホの画面を見せる。
「近すぎて全然見え――え?」
近付けられすぎたスマホを顔から遠ざけて画面を見ると、待ち受け画面の時刻を示す数字が、螢翫@縺ヲ縺上l縺ヲ縺ゅj縺後→縺、と意味のわからない文字になっていた。しかも待ち受けの写真は、さっきの『それ』を壊す前の写真だ。
「きしょ……」
趣味が悪すぎて少しだけ引いていると、ダチが「ちーがーう!」と大声で否定した。
「こんなキモ画像、待ち受けじゃないし! なんか! なってたの!」
「えぇ~?」
「信じろよバカ!」
「いや、じゃあいつ変わったんだよっていうハナシだろ」
「それがわかんないから怖いんじゃん!」
「……」
そこについては、なーんも言えん。口をきゅっとして、ダチから目を逸らす。
「ねぇ、なんかしゃべってよ」
「…………」
「そこはさァっ、『なんか』って言うところでしょォ!」
いやー、ごめんごめん。そこまで気が回らなかったわ。
「ねぇ、こーわーい! 早く帰ろ! 手ぇ繋いで! 怖い!」
「仕方ねぇな。犬のクソとか触ってないよな?」
「そっちがでしょ?!」
「文句言うなら繋がないぞ」
「やー!」
「ウラーッ」
「プルルルルゥ」
「ィヤハ――」
「お前ら、あの祠壊したんか?!」
オイ! 茂みからなんかジジィが出てきたぞ?!
「ぎゃー! 誰?!」
「変なやつだ! 逃げるぞ!」
俺はダチの手をとり、ダチの家へ向けて走り出した。俺んちはここから遠いけど、ダチの家はもうちょっとだ。とりあえず大人のいるところへ!
「ねぇ~、疲れたぁ~。家まだぁ?」
二人でぜえぜえと息を切らしながら走っていると、ダチがそう言った。
「あ? ああ、そう、だな?」
言われると、かなり走ってるのに全然ダチの家に着かない。
――あれ、ダチの家ってこんな遠かったっけ?
走っても走ってもダチの家に着かないことを不思議に思った俺は、足を止めてしまう。俺に手を引かれていたダチも一緒に立ち止まり、周りを見回した。
「ねえ、家の方向間違えて走ったんじゃない? 私んちどころか、他の人の家すら見えないよ」
ダチのほうもそれに気付いたのか、不安そうにそう言った。
そういえば、さっきここから遠い遠くないとか言ったけど、具体的に『それ』があるのは帰り道のどこらへんだ? 帰り道の光景を必死に思い出す。いつもなにも考えずに歩いているけど、『それ』を見たことなんて一度もないことに気付いた。じゃあ、俺たちはどこにいるんだ?
俺もゆっくり周りを見る。ダチの言う通り、周りには家が一つもない。それどころかさっきまで畑にいたはずなのに、奥が見えないほどの数に木に囲まれていた。これはさすがにやべーんじゃないか。いわゆる怪異に巻き込まれちゃったってやつ。え? なんでんなことに巻き込まれなきゃなんねーんだよ。
「とにかく、ここから出るぞ!」
「お前たち、が、あの祠を、壊し、たのか?」
またダチの手を引いて走ろうとしたら、さっきのジジィが木の隙間から飛び出してきた。俺たちは「ぎゃー!」と叫んで、お互いにしがみついた。いってぇな、肉掴むなよ!
「ごめんなさいごめんなさい! 壊すつもりはなかったんっす!」
「ちょっとコイツがノーコンだったんです! まじすいませんっした!」
「オイふざけんなよ。人に責任押し付けんじゃねーよ!」
「事実言ってなに悪いんだよ!」
「お前、た、たたたたた、あの。あのあのあのあの祠、を、を、をを、を壊した――」
「やっぱ逃げるぞ!」
「も~イヤアァッ!!」
ぎゃーぎゃー言い合ってると、ジジィが壊れたしゃべるおもちゃみたいなしゃべり方をしてきた。俺とダチは顔を見合せて、また叫んで走り出した。
「ねぇ待って、なんか光ってる人がいる! いっぱいいる! 囲まれてる!」
木と木の間をぬって走っていると、ダチが大声で言った。
「ハァ?」
それが立ち止まる理由になんねーだろ! 人間なんて全員光ってるつーの。
「見て! 絶対幽霊だよ! 私、幽霊とか初めて見た! やばぁ」
「え、それは気になる」
幽霊見たことがあるとか一回は経験しておきたいことじゃん。
見たい欲に負けた俺は足を止め、ダチが指差したほうへ視線を向ける。するとダチの言う通り、なんか光って透明な人間が嬉しそうに笑って、こっちへ手を振っていた。
「ありがと~」
「これでかえれる~」
「ようやく死ねる~」
「あ~り~が~と~」
幽霊みたいなやつが、ありがとうを大合唱して空へ昇っていく。なにこの光景、キツすぎる。感謝されてるのに呪われてる感じがする。呪われるのはマジカンベン。呪われるぐらいなら呪い返して地獄に落としてやる。
今の状況についていけず、ダチと口を開けてその光景を見ていると、そばの茂みからがさがさと音を立てて人間が出てきた。今度はなんだよ!
「くぅ~疲れましたwこれにて解放です!」
何が疲れたんだよ、クソッタレ。出てきた人を見た幽霊全員が空へ昇るのをやめて、一斉にソイツを見た。なんだ、これ以上話をややこしくしないでくれ。
「ってなんで生け贄くんが?!」
「まあ、それは彼らのお陰ってことで」
いけにえくんがこっちを向いてウィンクをする。そしてふわりと体を浮かせて、幽霊のもとへ向かっていく。
「改めまして、ありがとうございました!」
幽霊といけにえくんが、すげぇ笑顔でそう言った。
「だからどいつもこいつも誰なんだよ!!」
いいかげん家に帰らせろ!
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